2017年05月29日

熱性けいれん -シーズン1-

clinic.jpg 月曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを表す言葉には「月」(ニクヅキ)のつく漢字が多いから。

 先々週のこども診療所医学講座で「熱が病気の直接の原因になることは小さな子の熱性けいれん以外にはありません。」と申し上げました。では熱性けいれんとはどのようなものなのでしょうか?そしてまた熱性けいれんというのは果たして病気なのでしょうか?

 今回はこの熱性けいれんを採り上げますが、今日はまず熱性けいれんがどのようにして起きるのかについてお話をいたします。

 人間の脳というのはたくさんの脳細胞でできています。それぞれの脳細胞はいくつかの他の脳細胞と連絡を取り合って、全体としては緻密なネットワークを形成して脳としての働きを維持しています。脳細胞の数やネットワークの緻密さは3歳過ぎには大人の80%程度が完成していると言われます。でも、このネットワークを上手に使う方法や、ネットワークに故障が起きないように調整する能力はまだまだ未熟です。

 この未熟な脳のネットワークに高熱が作用すると、ネットワークの一部が断線したりショートしてしまったりして故障を起こし、脳が異常な信号を発信してしまうことがあります。人間のからだの大部分は脳からの信号によって動いていますから、脳から異常な信号が届けばそれに合わせてからだのほうも異常な動き(運動)をしてしまいます。これが熱性けいれんです。脳に起こった故障は一時的なもので、短時間で修復されます。修復されたあとの脳は全く正常であとに異常や長期にわたる後遺症を残すことはありません。

 この「自動的に修復してあとに問題を残さない」という点が熱性けいれんの特徴で、細菌やウイルスあるいは細胞破壊物質などによって脳細胞そのものに異常が生じて起きるけいれんとは本質的に違います。熱性けいれんでは脳細胞に故障がおきるのではなく、脳細胞のネットワークに一時的に故障が生じるのです。

 熱性けいれんが起こりやすい年齢は1歳少し前から6歳頃までですが、3歳を過ぎると次第に起こしにくくなります。それは脳細胞のネットワークを上手に使う方法や、ネットワークに故障が起きないように調整する能力が次第に高まる(成熟していく)ためと考えられます。生後6ヶ月すぎぐらいまでの赤ちゃんは滅多に熱性けいれんを起こしません。それは故障を起こすほど脳細胞のネットワークができていないからです。また7歳過ぎてのけいれんはたとえ高熱があって熱性けいれんの特徴を備えていても、一応は脳そのものに何か問題(脳炎や髄膜炎、てんかんなど)がないかをチェックします。それは7歳すぎになれば脳のネットワーク故障を高熱から保護する働きがほぼ完成して熱性けいれんは起きないはずだと考えられるからです。

 熱性けいれんは高熱の時に起きると申し上げましたが、同じ高熱でも起きるときと起きないときがあります。理由の一つは、熱を出した原因となっている病気の違いです。たとえば、突発性発疹は熱性けいれんを起こしやすいウイルスとして知られています。このウイルスは脳を刺激しやすい特徴を持っています。一生に一度だけ熱性けいれんを起こしたというお子さんの半分以上はそのときの病気が突発性発疹だったという調査結果もあります。その他にはしかや水ぼうそうも熱性けいれんを起こしやすいウイルスですが、これらのウイルスは熱性けいれんだけでなく脳炎や髄膜炎を起こしやすいので注意が必要です。

 もう一つの理由は、熱の上がるスピードの違いです。仮に39℃で熱性けいれんが起きると仮定した場合、36.5℃の状態から半日ぐらいかけて徐々に熱が上がった場合と30分ぐらいであっという間に熱が上がった場合を比べると、急に熱が上がったときの方が圧倒的に熱性けいれんを起こしやすいのです。脳のネットワークに限らず、小さなお子さんのからだはすべて急激な変化に対応する機能が十分ではないからです。

 また、熱性けいれんを起こしたお子さんのご家族を、叔父・叔母・いとこぐらいの範囲で調べてみると、60%から70%ぐらいの割合でご家族のどなたかが熱性けいれんの経験をお持ちです。その点多少は遺伝的な要素もあると考えられています。

 今週は「熱性けいれんがなぜ起きるのか?」という点に絞ってお話をいたしました。次回は熱性けいれんそのものについて詳しくお話ししたいと思います。





posted by YABOO!JAPAN at 01:00| Comment(5) | TrackBack(0) | こども診療所医学講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。