
第4回 「日本一!」

上のイラストは誰もがご存知の桃太郎のお話です。今日の育児講座は桃太郎がどのように育てられたかというお話?いや、そんなわけはありませんね。
今日の話題は桃太郎が持っている「のぼり」に書かれている「日本一」という言葉です。日本人はこの言葉が大好きですね。芝居や寄席でかかるかけ声も「よっ、日本一!」ですね。
我が国の少子化が深刻な問題になってきた昭和の終わり頃、「子育てに不安を感じるからこどもを産まないのだ。だから、子育て支援を強化して、楽しい育児ができるような環境を整えよう。」というスローガンのもと、多くの自治体が子育て支援の施策を講じるようになりました。
そして全国の色々なところで登場したのが、この「日本一」です。「子育て環境日本一」とか、「子育て支援日本一」というふうにスローガンとなって、様々な催しやキャンペーンが行われたものでした。
とにかく日本人はこの「日本一」が大好きですから、「子育て環境日本一」なんて言われるとすぐ「よしっ、日本一目指して頑張ろうっ!」っていう気持ちになってしまうんですね。それ自体は決して悪いことだとは思いませんし、モチベーションを高める共通のキーワードを持っているということはいいことだとは思います。
その頃の私は育児業界ではそこそこ名の知れた小児科医でしたから、各地の自治体から「子育て支援応援隊」として講演を頼まれて、子育て支援というよりは育児そのものを楽しく感じられるようなヒントを中心にお話をさせていただいておりました。そして講演が終わると会場から「よっ、日本一!」というかけ声が・・・かかるわけはありませんね。
でも、その自治体が子育て支援で日本一になるような話はいっさいしませんでした。なぜなら、日本一がいるということは日本二がいて、日本三がいて・・・順位がつくということです。お互いが競争するということです。
育児そのものや育児環境づくりは競争ではないのです。よりよい環境づくりを目指して努力をしたら、その成果をみんなで分かち合えるようなネットワークづくりをして、日本中の誰もが豊かで恵まれた環境で育児ができるというのが望ましいのです。自分だけ日本一になるのではなく、「日本中どこでも誰でも日本一」を目指してこそ、本当の意味での育児支援、育児環境づくりができるのではないでしょうか。
前回の育児講座では「あの子もこの子もみんなの子」という言葉を使いましたが、今回は「あそこもここも日本一」になればいいなと思います。
とまあ、ここまでは社会全体としての育児の競争化についての話でした。
ついでと言っては何ですが、それぞれのご家庭での育児についておこりそうな競争についてもちょっと触れてみようと思います。でもそれは競争というより「比較」といったほうが正しいかもしれません。
「あの子はこうなのにうちの子は・・・」という比較ですね。
比較は比較なのですが、赤ちゃんは日々成長していますから、どうしても早い・遅い、大きい・小さい、できる・できないという競争になりがちです。
そのようなご相談を受けたとき、私がいつも言っているのは「あなたの赤ちゃんが常に標準」ということです。「よその赤ちゃんがあなたの赤ちゃんより何かが早くできるようになったら、その子は早すぎるとお考えなさい。あなたの赤ちゃんがいつも標準なのですよ。」です。「よその赤ちゃんがあなたの赤ちゃんより体格がよかったら、その子は大きすぎるとお考えなさい。あなたの赤ちゃんがいつも標準なのですよ。」です。そして「あなたの赤ちゃんに言ってあげてください『あなたが私の日本一、世界一、宇宙一の赤ちゃんよ』って」です。
あれっ?競争になっちゃったかな???