2015年08月20日

育児講座13「言葉」

oxfam.jpg 育児講座とはいっても決して堅苦しいものではありません。また、直接育児に役立つような知識というわけでもありません。世間でまかり通っている育児の情報に「ホントかいね?」と疑問を投げかけ、ちょっとした考え方の変化で育児が楽しくなるようなそんな記事を掲載しています。


第13回  「言葉」

 アメリカの笑い話です。

 3歳になっても一言も言葉をしゃべらない男の子がいました。家族は大変心配してあちこちの医者に見せますが、どの医者も「異常は見つからない、そのうちしゃべるだろう」と言うばかりです。そんなある日、家族がみんなで食事をしているときでした。テーブルに出されたマッシュポテトを見るやその男の子は突然、「ぼくはマッシュポテトがきらいだ」と言ったのです(もちろん英語で)。びっくりしたのは家族です。口々に「そんなによくしゃべれるのにどうして今までしゃべらなかったの?」とたずねました。男の子は平然と答えました。「だって今までマッシュポテトが出てこなかったんだもの。」

 アッハッハと笑ってしまえばそれだけの話なのですが、へそ曲がりの私としてはここでどうしても一言言いたくなってしまうんです。それは、今までマッシュポテトが出てこなかったのに、初めて見たマッシュポテトをなぜ「マッシュポテト」と言えたかということです。今までにマッシュポテトを見たことはないけれど、マッシュポテトという食べ物があって、色はこんなだとか、見た感じはこうだとか、皿に盛りつけるときはこんなふうにするとか、マッシュポテトに関する情報が山ほど入っていて、マッシュポテトを見たとたんに、「ああ、これが話に聞いていたあのマッシュポテトに違いない」と直感したのでないかぎり、誰も「マッシュポテト」という言葉を発することはできないはずなのです。

 そしてまた別の見方をすれば、今ここでお話したような経過をたどって、初めて見たマッシュポテトを「マッシュポテト」と言ったときに、それを前から知っていた人と初めて見た人との間に共通の認識が芽生えるのです。言葉というものは自分と他人の経験や概念を共通にするためにあるのです。これをコミュニケーションといいます。

 逆のこともいえます。今ここに一台の電話があったとします。日本人は「電話」と言うでしょうし、アメリカやイギリスの人は「テレフォン」と言うでしょう。言葉は違ってもそれぞれの人が頭に思い描いているものは同じです。これもコミュニケーションといってよいでしょう。もしアメリカ人やイギリス人がごく普通に使われている意味で「トースター」なんて言ったら大変です。これではコミュニケーションにはなりません。

 さて、もう一度初めの笑い話に戻りましょう。この男の子は3歳になるまで一言も言葉を発しませんでしたが、家族と一緒に食卓を囲むなど、家族とのコミュニケーションはとれていたのです。もちろん言葉がない分コミュニケーションは不自由なものだったでしょうが、逆に言葉がない分みんないろんな方法でコミュニケーションをとろうと努力したのではないでしょうか。

 子どもを取り巻く最近の言葉の状況を見ていますと、どうも言葉そのものが重要視されていて、言葉がコミュニケーションの手段であるという点がおろそかにされているように思えます。言葉は手段に過ぎないのだけれどとても便利な手段なのです。だから言葉が自由に操れるようになると、とても簡単に多くのコミュニケーションがとれるようになるのです。言葉そのものよりもコミュニケーションをとりたいという気持ちのほうが大事だということがわかれば、赤ちゃんや子どもの言葉との関わり方も多少は違ってくるような気がします。

 赤ちゃんや子どもは伝えたいことをいっぱい持っています。それを言葉以外の方法で一所懸命表現しているのです。私達大人だって赤ちゃんの頃にはそうやってコミュニケーションをとろうとしていたはずなのに、あるいはもしかしたら「赤ちゃん語」なんていう世界共通語かなんかがあって、その赤ちゃん語を使えば世界中の人たちと自由にコミュニケーションがとれたはずなのに、いつの間にかいわゆる「言葉」に毒されて(?)しまって、「言葉」でしかコミュニケーションがとれなくなってしまったのかもしれません。

 ママの語りかけや、絵本の読み聞かせは確かに赤ちゃんや子どもの心を豊かにするでしょう。そしてそれを大人たちと共有したいという気にさせるでしょう。その気持ちをどんどん引き出してあげるためには、一方通行の語りかけや読み聞かせだけではなく、赤ちゃんや子どもからの言葉以外の働きかけに気づき、そして応えてあげることなのです。

 こうやってコミュニケーションの喜びを知った赤ちゃんや子どもは、それを最も容易に実現してくれる「言葉」の威力に気づき、知らず知らずのうちに言葉を身につけていくことでしょう。でもせっかくの世界共通赤ちゃん語を失ってしまうのは惜しい気もしますけどね。



posted by YABOO!JAPAN at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | こども診療所育児講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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