
一方、日本のワクチン行政は世界のワーストクラスです。もっとも「技術も金もあるのに」という条件がつきます。技術もお金もないために十分なワクチン接種を行えない世界の最貧国に比べればずっとましです。でもその程度です。
今回の新型インフルエンザワクチンの接種についてもそのワーストさが随所に出て、特に接種回数に至ってはまだ迷走しています。
《1回接種?2回接種?》
当初新型インフルエンザワクチンの接種回数は全員2回と言われていました。
季節性インフルエンザの場合には13歳以上だったら過去の感染歴などで基礎免疫があるから1回接種でも大丈夫ということになっています。これはこれで医学的に筋は通っています。
三種混合(DPT)のように、小さい頃に基礎免疫をつけておけば、小学校高学年になってから1回だけ追加接種をすれば効果が増強されるというのと同じで、ブースター効果といわれています。
ところが新型インフルエンザは今まで誰もかかったことがない、つまり誰も基礎免疫を持っていないわけです。それで「新型インフルエンザには今まで誰もかかったことがなくて誰も免疫を持っていないのだから全員2回接種を行う」というのがワクチン接種回数の出発点でした。
しばらくして、実際にワクチンが完成し臨床試験を行ったところ、日本の優秀な技術で作られたワクチンですから1回の接種でもかなり高い効果(抗体価だけの話ですが)が得られることがわかってきました。その頃から1回接種案が出始めたのですが、その頃はまだ現在のようなすさまじい流行期には入っていませんでした。
1回の接種で高い抗体価が得られるなら1回の接種でいいじゃないかと思われるかもしれませんが、話はそう簡単ではないのです。
問題はその高い抗体価がどれぐらいの期間持続するかです。季節性インフルエンザワクチンでは、3週間隔で2回接種すると約3か月は有効抗体価が持続すると言われています。ただし基礎免疫がないと約2か月程度に短縮してしまうとも言われています。では基礎免疫のない状態で1回接種だったらどうなるのか?資料がないために正確な数字は出せませんが、2か月より短いであろうことは容易に推測されます。
これではインフルエンザの流行期を乗り切ることは難しいと言わざるを得ません。
それで1回接種案は「案」のままでしばらく議論が続いていたわけです。
ところがそうこうするうちに日本国内でも大流行が起こってしまいました。そうなると、流行期全体をカバーする抗体価も必要ですが、大流行期に少しでも感染する人を減らすということも同じくらい重要になってきます。
後者の考え方に沿えば、「1回接種をなるべく早くなるべく多くの人に」という結論は当然導き出されてきます。そこで専門家会議で一旦は「1歳から12歳までは2回接種、それ以外は1回接種(妊婦に関しては検討を続ける)」という結論が出されました。
今までの話を読んできた方にはこの結論が「理にかなっている」と感じられるはずです。
ところがところが、ここで厚労省政務官からの天の声が下りました。その一声で「医療従事者のみ1回接種、他は全員2回接種」ということに変わってしまったのです。1回にされてしまった医療従事者だから言うんじゃありませんが、この決定のどこに医学的根拠があるのか皆目見当がつきません。
むしろ、「医療従事者は流行期を通して患者に接するから2回、他は全員1回接種にして少しで多くの人が少しでも早く接種を受けられるようにする」というほうが、我田引水のように思われるかもしれませんが筋としては通っていると思いませんか?
そしてやはりというか当然というか、日本ウイルス学会から非難の声が挙がりました。新型インフルエンザ予防接種に関する専門家会議のメンバーには日本ウイルス学会の会員が多数参加しています。その人達が専門的な知識と現在の日本でのインフルエンザ流行状況を勘案して出した結論を政治家の一言でひっくり返されたら腹立ちますよね。
それで結局どうなるのかはまだ結論が出ていないということになるんだと思います。さすがに民主党といえども「マニュフェストに書いてあるから」とは言わないでしょうからね。
結論がどっちに転んでも、ワクチンそのものを国が押さえて配給しているわけで、私一人が1回接種か2回接種か悩んでも、結局は届けられたワクチンを黙々と接種していくだけの話なんですけどね。