2010年06月02日

肺炎球菌ワクチンのすべて(7)

vac100r.jpg お待たせいたしました。いよいよ肺炎球菌ワクチンの効果や副反応、実際の接種の仕方などについてお話いたします。

 このシリーズの始めに、肺炎球菌ワクチンには2種類あって、一つは高齢者用のワクチン(日本では「ニューモバックス」という商品名です)、そしてもう一つが乳幼児用の結合型ワクチン(日本では「プレベナー」という商品名です)だと言うことをお話しました。

 これからお話するのは後者、すなわち、乳幼児用の「プレベナー」についてだけです。高齢者用の「ニューモバックス」とは違いますから混同しないようにご注意ください。

 「プレベナー」がどのようなワクチンかということは、シリーズの始めに「ニューモバックス」やHibワクチンとの比較をする中で、ほとんど説明がすんでいますので、ここでは省略いたします。


「プレベナー」の効果》

 「プレベナー」は、約90種類ある肺炎球菌のタイプの中で7種類のタイプで起こる肺炎球菌感染症を予防するためのワクチンです。たった7種類ですが、この7種類を予防することで、小児の重症(侵襲性)肺炎球菌性疾患の約80%はカバーできるという外国のデータがあります。

PVC1.jpg では、「プレベナー」にはどの程度の予防効果があるのでしょうか?

 右のグラフは米国のデータですが、侵襲性肺炎球菌性疾患(IPD)である髄膜炎と菌血症(菌血症についてはこのシリーズの第4回をご覧ください)に限って有効性を調査したものです。

 簡単に説明すると、約2万人の乳幼児を対象にした調査で、「プレベナー」を接種していなかった群約1万人では39人がIPDにかかってしまったけれど、「プレベナー」を接種していた群約1万人でIPDにかかってしまったのは一人だけだったというデータです。

 このデータを統計学的に解析すると、「「プレベナー」を接種すればIPDにかかる危険性は97.4%減少する」ということになります。

 別の表現をすれば、「この世に「プレベナー」が存在しなければ100人がIPDにかかってしまうけれど、「プレベナー」で予防をすれば2〜3人しかIPDにはかかりません」ということです。

 髄膜炎だけに限っていえば、日本では毎年約200人のお子さんが肺炎球菌性髄膜炎にかかっています。「日本で「プレベナー」の全員接種が実現すれば、年間の発症者は単純計算で4〜6人になりますよ」ということでもあるのです。

PVC2.jpg 別のデータもあります。

 やはり米国のデータですが、「プレベナー」が米国で定期接種になる前の1998年から1999年にかけては、人口10万人あたりのIPD発症数が81.9例だったのに比べ、定期接種化後の2005年には、人口10万人あたりのIPD発症数が1.7例に減少したというデータです。減少率は98%。調査の時期は前のデータのあと5年ほどたってからですが、前のデータとほぼ同じ結果が得られています。

PVC5.jpg このデータにはおまけが付いています。同じ施設で行われた調査ですが、西暦2000年の「プレベナー」定期接種化をはさんで1998年から2003年まで調べたところ、5歳未満の乳幼児でのIPD発症率(人口10万人あたり)が、94%減少したのに対して、65歳以上の高齢者でも65%の減少が見られたというものです。

 この結果について、日本の肺炎球菌ワクチン定期接種化推進派は、「「プレベナー」を定期接種化することで、高齢者のIPDまで予防できる!「プレベナー」には社会全体を守る効果がある!」と宣伝していますが、へそ曲がりな私は諸手を挙げて賛成するわけにはいきません。

 この調査が行われた時期、アメリカにおいても高齢者用肺炎球菌ワクチンの予防接種は行われていたからです。高齢者においてIPDの発症率が下がったことについては、この高齢者用のワクチンの効果についても判断しなければなりません。データの解析はより複雑になり簡単に結論は出ないでしょう。

 でもその結論が出てもなお、「プレベナー」が高齢者のIPDを減少させるという結果であれば、その時初めて「「プレベナー」は社会全体を守る」と言えるのであって、このデータだけから短絡的に結論は出ないと思います。

 なんか「プレベナー」の効果にイチャモンをつけているみたいですが、私は「プレベナー」を日本で定期接種にすることに反対するつもりは全くありません。これだけの高価なワクチンですから、任意接種のままで、一部の人たちしか受けられない状況は1日も早く解消すべきだ、全額公費負担による定期接種化を急がなければならないと思っています。しかし、現在の状況が続けば、アメリカでのデータのようなよい成績は得られません。

 極端に言えば、「予防接種受けた乳幼児はIPDにかからないけれど、受けていない乳幼児は1万人につき40人弱はIPDにかかってしまうかもしれませんよ」ということになるのです(数字は初めのグラフの米国における数字をもとにしています)。

 本気で病気を減らそう(あるいはなくそう)と思ったら、予防接種は全員接種でなければならないのです。Hibワクチンの時にも言いましたが、日本の厚労省はとてもこどもの命を守ろうとしているとは言えないと思います。今にもつぶれそうな民主党政権の「命を守る政治」は、普天間基地問題だけでなく、ここでもウソをついているのです。

 「命を守る政治」のことはまた別の機会にお話ししようと思っていますが、とにもかくにも「プレベナー」の有効性に疑いをはさむ余地はありません。ただし、そのことはアメリカのように定期接種化(全員接種)してこそ言えることだということを決して忘れないでいただきたいのです。

 もちろん、接種を受けた一人一人に対する効果も十分に期待はできます。個人負担の任意接種である現状では、「接種を受けた子はかからない」という現実を受け入れるしかありません。

 次回は、「プレベナー」の副反応についてお話する予定です。どうぞ、オ・タ・ノ・シ・ミ!に。




posted by YABOO!JAPAN at 18:35| Comment(2) | TrackBack(0) | こども診療所予防接種講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ご説明ありがとうございます。
参考までに、よろしければご回答ください。
1歳児の予防接種の優先順位ですが、
残り、おたふく、みずぼうそう、プレベナーであれば、先生はどの順番をお勧めしますか?
Posted by 1歳児 at 2010年06月02日 20:21
このブログはQ&Aではありませんので、ごく簡単にお答えします。

現在1歳代で、MRの第1期の接種が終了し、ご質問の3種類のワクチンをすべて接種するとお決めなら、プレベナー→みずぼうそう→おたふくかぜの順番をおすすめします。

理由は、プレベナーのあとは1週間で次のワクチンを接種できるということと、2歳未満のおたふくかぜはないとは言えませんがとても少ないということです。

 かかるかもしれない病気をなるべく早く予防するというのがこども診療所の予防接種に対する考え方です。
Posted by YABOO!JAPAN at 2010年06月03日 01:03
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