2012年05月02日

ポリオワクチンの安全性(6)

曜日は「予防接種講座の日」。なぜなら予防接種に使うワクチンは液体()だから・・・。


《9月1日から不活化ポリオワクチン》

前回は輸入単独不活化ポリオワクチンが申請からわずか2か月という異例のスピードで承認され、今年の9月には使用開始になりそうだという話、そしてもしかすると有料での接種になるかもしれないという話をしました。

ところが(といっても悪い話ではありません)、23日に開かれた厚生労働省の「不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」に提出された厚生労働省案では、9月1日に単独不活化ワクチン(輸入)を導入し、それ以降生ワクチンは定期接種に使用しないとなっており、同検討会はこれを了承したというニュースが入ってきました。

正式には5月に開催される「厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会」でこの案が了承されてから実施できるのですが、今までこの部会で却下された案件はほとんどないので、そのまま9月1日実施となる見込みです。実際にはそれまでに「予防接種実施規則」というのを改正して輸入単独不活化ポリオワクチンをポリオ予防の定期接種ワクチンとして指定する手続きが必要になります。

今回はこのことが何を意味するかを解説したいと思います。

9月1日の時点で、国内で承認されている不活化ポリオワクチンはつい先日承認されたばかりの輸入単独不活化ポリオワクチンしかありません。国産のDPT+不活化ポリオの4価ワクチンは11月頃導入される見込みだそうです。それなのにこの時点で生ワクチンの使用を中止するということは輸入単独不活化ポリオワクチンを定期接種のワクチンに指定するということです。つまり無料で接種を受けることができるということです。

さらに、生ワクチンを使わないということは集団接種も行わず、不活化ワクチンの個別接種に移行するということです。(まだ断言はできませんが、一般的にはそうなるはずです。)

さらにさらに、単独ワクチンが無料で接種できるということは、11月導入予定の4価ワクチンのことを気にせずにDPTワクチンの接種を始めてもスケジュール的に困ることがないということです。経口生ポリオワクチンをためらってさらに4価ワクチンが気になってDPTワクチンもためらっていた方は迷わずDPTワクチンの接種を始めてください

これは厚生労働省の予防接種行政としては歴史的かつ画期的英断だと思います。前回の私の予想は見事に外れました。いいほうに外れてよかったですけど・・・。

そしてめでたしめでたし、ポリオワクチンの接種は生でも不活化でも9月になるまで受けずにいようと単純に考えてもよいのだろうかというのが今回の主題です。


《ポリオに感染する危険性》

前回ご紹介した厚生労働省のホームページにはこんな風に書かれています。

海外では依然としてポリオが流行している地域があります。パキスタンやアフガニスタンなどの南西アジア、ナイジェリアなどのアフリカ諸国です。また、これらの国の患者からの感染により、タジキスタン、中国など他の国でも発生したという報告があります。ポリオウイルスに感染しても、麻痺などの症状が出ない場合が多いので、海外で感染しても感染したことに気がつかないまま帰国(あるいは入国)してしまう可能性があります。症状がなくても、感染した人の便にはポリオウイルスが排泄されて、感染のもととなる可能性があります。
不活化ポリオワクチンが導入されるまで、ポリオワクチンを接種せずに様子をみる人が増えると、免疫をもたない人が増え、国内でポリオの流行が起こってしまう可能性が増加します。ポリオ流行のない社会を保つためには、ワクチンの接種が必要です。生ポリオワクチンの2次感染を防ぐには、地域内で全ての乳児が一斉に接種を受けるのが、最も安全性の高い方法です。お住まいの市町村がご案内する時期に接種を受けることをおすすめします。

ここに書かれていることは全くその通り、文章としては全く正しいのです。要はこの文章の中に3回も出てくる「可能性」というのがどの程度のものかをどうやって判断するかということだと思います。また、この文章では触れられていませんが、生ポリオワクチン接種に伴うポリオ(ワクチン関連麻痺)の可能性も考慮に入れなければなりません。

これを正確に判断できるのは神様しかいないでしょう。「ドレニシヨウカナ、カミサマノイウトオリ、ナノナノナ」ということです。神ならぬ私には正確に判断する自信は全くありませんが、考えるヒントはあります。

現在行われているポリオの定期接種の接種期間は「生後3か月以上90か月未満」と定められています。90か月というのは7歳6か月に相当します。これだけ長い期間のうちに接種すればいいのならなにもあわてて接種しなくてもいいんじゃないかという考えです。

「なぁ〜んだ、意外と簡単じゃん。それじゃ9月まで待てばいいんだ」と考えたあなた。現実はそう単純なものではないのです。

これまで長い間経口ポリオ生ワクチンの集団接種は生後6か月過ぎの春か秋に1回、そして半年後にもう1回と、厚生労働省の言うように「地域内で全ての乳児が一斉に接種を受け」ていました。ほとんどのお子さんは2歳頃までに2回の接種を済ませていました。そのおかげで日本から野生のポリオはなくなりました。90か月までに受けるお子さんはごく少数だったのです。いろいろな事情で受けられなかったお子さんのための救済措置みたいなものだったのです

ところが近年、厚生労働省の怠慢のせいで日本では生ワクチンの接種が続けられワクチン関連麻痺や2次感染をひきおこしてしまったということが社会問題となり、生ワクチンの接種を受けないお子さんの数が次第に増えてきました。並行輸入の不活化ポリオワクチンを受けているお子さんはまだまだ少数です。生でも不活化でもワクチン接種を受けていないお子さんが増えれば増えるほど厚生労働省の言うポリオ感染の可能性は高くなります。このことも考慮に入れなければいけないのです。

一般的にある感染症について一つの集団で集団の中の約70%の人が免疫を持っていればその感染症はその集団の中で大流行をすることはないとされていますが、あくまでも大流行がないのであって完全に撲滅できるわけではありません。完全撲滅のためには集団一斉接種が最も効果的であることもよく知られています。ポリオはその一番よい例です。

「結局どっちなんだよちっ(怒った顔)」と怒らないでください。江戸川区では今年の春のポリオワクチン集団接種の会場はどこも来場者が激減しているそうです。そうなると安易に「9月まで待ちましょう」とは言えなくなってしまいました。

結局はご自分で判断していただくということになってしまうのですが、独断と偏見で私個人の意見を言えば、「9月まで待ってもいいんじゃないか」です。でも「生ワクチンの集団接種は受けないでください」とまではどうしても言えません。この春の集団接種で生ワクチンの接種を受けたお子さんも9月以降に不活化ワクチンを定期接種として受けることができます。また、並行輸入不活化ワクチンを有料で受けたお子さんも残りの接種を定期接種として引き継ぐことができます。そのことも考慮に入れてご自分で判断なさってください。

中途半端な結論で申し訳ないとは思いますが、ただヤミクモに生ワクチンはこわいとだけ思われていた方には多少なりとも交通整理ができたのではないかと思います。

不活化ワクチンの国内承認がこんなに早くなるとは思わずに始めたこのシリーズでしたが、むしろこれからは「不活化ポリオワクチンをどう受けるか」ということが焦点になりそうです。そのことについては4価ワクチンも含めて国内の不活化ワクチン接種体制がもう少し具体的に定まってから改めてシリーズをお送りしたいと思います。

というところでこのシリーズはこれをもちまして終了とさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。



posted by YABOO!JAPAN at 01:00| Comment(1) | TrackBack(0) | こども診療所予防接種講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
パソコンがこわれてしばらく閲覧できませんでしたが、とても気になっていたので復旧するやいなややってきました!!とても参考になりました!!かつ興味深いお話でした!また予防接種連載楽しみにしています!!!ありがとうございました!!!!
Posted by なな at 2012年05月12日 23:42
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