2013年12月16日

感染性胃腸炎の治療(5)

dav.jpg曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを示す漢字には(肉づき)のつくものが多いから。

脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
あなたはいくつ書けますか?



先週の記事の最後に書きましたように、今週掲載予定の「ロタウイルスワクチン」のお話は、明後日水曜日の「ヤブログ予防接種講座」になります。

明後日必ず見て下さいね。

ところで今日は先週で終了したはずの連載の続編が登場します。それは「経口補水」についてです。

「脱水になったら点滴をして水分を補う」あるいは「脱水になりそうだから点滴で水分を補う」ということは、もうほとんど一般常識化しています。そしてそうなる前に口から飲んで脱水を防ぐのが「イオン水」。これもほとんど常識ですね。

ところが最近「経口補水液」という商品のことを耳にするようになりました。「OSー1」という商品が有名ですね。最近所ジョージが「OSー1」のテレビコマーシャルに出演しているのを見ました。

「経口補水液?」。そうです。読んで字の如く口から飲んで水分を補う液体のことです。

「じゃ、イオン水飲むのと変わらないじゃない。イオン水と経口補水液ってどこが違うの?」

という疑問に答えるのが今日のお話です。

実は最近消化器病の専門の先生(小児科)から経口補水療法のお話をうかがう機会があったのです。早い話がその受け売りみたいなものです。

日本のような先進国では脱水の治療には点滴が一番確実で手っ取り早い方法です。でも途上国ではそうはいきません。医療へのアクセスがそう簡単なものではないからです。そのために最貧国と呼ばれるアフリカの国々ではごく普通の下痢や嘔吐で起こった脱水のためにかなり多くの命が失われています。

それを防ぐために、途上国にはUNICEFなどの国際機関からコップ1杯の水に溶いて飲ませる経口補水用の粉末が国際援助として供与されています。私が20年程前から約10年間関わってきたインドネシアでは、「オラリット」という名前の経口補水用粉末がこどものいる家庭に配られていました。

オラリットの成分はブドウ糖と塩です。それを水に溶いたものをORSと呼びます。Oral Rehydration Solutionの頭文字を取ったものです。「口から飲む水分補給の溶液」という意味です。「経口補水液」と言ってもいいでしょう。塩は水に溶けるとナトリウムイオンと塩素イオンに別れます。

「じゃ、やっぱりイオン水と変わらないじゃない!?」という声が聞こえそうですが、組成は同じでもイオン水とORSとで大きく違うのがブドウ糖とナトリウムの濃度です。イオン水ではブドウ糖とナトリウム、このどちらの濃度もORSよりかなり高く(濃く)なっています。

溶液の中に溶けている物質の濃度が高くなると、その溶液の浸透圧というのが高くなります。浸透圧が高いほうがブドウ糖やナトリウムを体内に補給する効率がよくなるようにも思えますが、実際は浸透圧があまり高くなってしまうと、腸からの吸収が悪くなってしまうのだそうです。

イオン水はおいしく飲んでもらうためにブドウ糖やナトリウム以外にも色々な混ぜものをします。これが浸透圧を高めてしまうので腸からの吸収という点ではあまりよくないのだそうです。ORSは浸透圧を適正に保つことを重視していますので腸からの吸収はよいのだそうですが、どうしても味が悪くなるそうです。

以上がイオン水とORSの違いの一つですが、ORSを治療として正しく活用する「経口補水療法」となると、さらに大きな違いが出てきます。

「OSー1」を例にとってお話ししますと、「OSー1」の説明書には「1日に体重1kgあたり50mlを目安の飲ませて下さい」と書いてあります。どのように飲ませるかは書いてありません。例えば体重10kgの赤ちゃんだったら1日に500ml飲ませるわけですが、10回に分ければ1回50ml、20回に分ければ1回25ml、50回に分ければ1回10mlということになります。

「1日50回なんてとても無理」と思われるでしょう。ところが「経口補水療法」というのは、ORSを1回5ml、1分から2分おきに最低数時間飲ませ続けるのが正しいやり方なのだそうです。5mlというのは大体ペットボトルのキャップ1杯分に相当するそうです。そしてこの方法は吐いている最中でも続けてかまわないそうです。

1日50回どころか1時間に50回ですよexclamation×2

正しい経口補水療法には「根気と情熱」が不可欠だとのお話でした。

こんな大変な経口補水療法ですから、正しい経口補水療法のやり方が「OSー1」の説明書に書いてあったら、誰も買いませんよね。だから「1日に体重1kgあたり50mlを目安に飲ませて下さい」としか書いてないんですね。企業のずるさといえばずるさですが、「経口補水療法にも使うことのできる経口補水液という意味なんですよ」と言われてしまえばそれ以上突っ込めませんからね。

でも、これだけは覚えておいて下さい。経口補水には液の組成も大事だけれど、本当に大事なのはその大変な飲ませ方だということです。大変な飲ませ方をしないのだったら、経口補水液(ORS)もイオン水もたいした違いはないということです。

これには事実の裏付けがあるのです。

だいぶ前にバングラデシュで大洪水があって、被災地でコレラが発生してしまいました。ひどい下痢で脱水になる子どもが続出しましたが、あまりの数の多さに外国からの医療援助をもってしても、何時間も診察を待たなければならないという状況でした。待っている間にどんどん重症になり順番が回ってきた頃には瀕死の状態になってしまうことが多かったそうです。

そのときに順番を待つ人すべてにコップとスプーンが配られ、コップの中にORS(経口補水液)が注がれました。そして「順番がくるまでずっとこの水をスプーンで飲ませなさい」と指導がなされました。順番を待っている間は何もやることがありませんから、お母さん(お父さんもいたかもしれませんね)はひたすらORSを飲ませ続けました。そして診察の順番になるとたいていの子はそのままORSを続ければ問題ないと言えるまでに改善していたのだそうです。

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 これで「感染性胃腸炎の治療」シリーズは本当に終了です。ご愛読ありがとうございました。

 前回までは過去に掲載した記事に手を加えたものでしたが、今回の記事は新作書き下ろしです。




posted by YABOO!JAPAN at 17:45| Comment(0) | TrackBack(0) | こども診療所医学講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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