
こども診療所では10月10日から接種を始めました。ほぼ年内いっぱい行う予定です。
接種についての詳細は9月25日掲載の記事「2017-2018インフル予防接種」をお読みください。
このページは予防接種講座として「インフルエンザ予防接種」の理解を深めていただくためのものです。
《日本と世界のインフルエンザ予防接種》
日本の予防接種スケジュールは独特です。独特といえば聞こえはいいのですが、はっきり言って異端でした。
外国の方に日本の予防接種について説明すると、「Why?」という質問が必ずといっていいほど返ってきました。
私のつたない英語でそのことを正確に伝えることはとてもむずかしく、次から次へと「Why?」の質問攻めにあいました。あるとき「日本の予防接種はこどもを守るためではなく政府を守るためだ」と答えたら、どこの国でも事情は似ているらしく、ニヤッと笑ってそれ以上の質問は受けないですみました。
最近は新しいワクチンが次々に導入され、日本と世界の「ワクチンギャップ」はせばまりつつありますし、昔から使われていたワクチンの接種量やスケジュールに関しても、お役人様の好きな「我が国独自」がまかり通っていた時代に比べればかなり世界標準に近づきつつあります。
今回はインフルエンザワクチンに的を絞って、日本の現状と世界の標準を考えてみたいと思います。
まず、インフルエンザワクチンの接種量についてお話しいたします。
日本では、インフルエンザワクチンの接種量は2011ー2012シーズンからWHOの推奨接種量に増量されました。3歳未満は1回0.25ml、3歳以上は1回0.5mlと2段階のみになりました。WHOがこの年からこのような接種量を推奨し始めたわけではありません。WHOはずっと前からこの推奨接種量を加盟国すべてに呼びかけていて、ほとんどの国はそれを受け容れていたのです。日本は「我が国独自」路線で突っ走り、2011年にやっとこの勧告を受け入れたのです。
それ以前の接種量を「旧」、現在の接種量を「新」として、新旧の1回接種量を比較してみます。
旧 新
生後6か月以上1歳未満 0.1ml 0.25ml
1歳以上3歳未満 0.2ml 0.25ml
3歳以上6歳未満 0.2ml 0.5ml
6歳以上13歳未満 0.3ml 0.5ml
13歳以上のすべての年齢層 0.5ml 0.5ml
なんと年齢によって4段階にも分かれていたのですね。これが我が国独自路線です。現在は世界の標準と同じになりました。
次は接種回数について見てみます。
まずは日本で現在行われている接種回数です。
*生後6か月以上3歳未満は0.25mlを2〜4週間隔で2回接種
*3歳以上13歳未満は0.25mlを2〜4週間隔で2回接種
*13歳以上のすべての年齢は0.5mlを1回または2回接種
(2回接種は希望者のみで2回接種の場合間隔は1〜4週)
日本では、13歳未満2回、13歳以上は1回または2回となっていますが、例えばアメリカでは(WHOの勧告も同じです)6か月〜8歳は1回または2回、9歳以上は1回となっています。大分違いますね。
6か月〜8歳が1回または2回となっていることについてはあとでお話しします。
この違いがどこから来ているかというと、先週お話しした「免疫の記憶」に対する考え方の違いと言えると思います。
このシリーズでも、実際にインフルエンザにかかるかインフルエンザワクチンを接種した場合には、免疫が記憶され、次にインフルエンザワクチンを接種したときに免疫の目覚め(抗体価の上昇)が早く起こり長持ちするということはお話ししました。
毎年インフルエンザの予防接種を受けている人たちだけのグループでは、年齢の高い人ほど免疫の記憶が多いと言えると思います。
ですから成人は1回接種でもかなり高い抗体価を獲得することが出来る、1回接種でいいという考えは割と理解しやすいですね。
次に、では一体何歳まで1回接種でいいという年齢を引き下げられるかという疑問が湧くのは当然です。
それを決めるのには、各年齢層で1回接種と2回接種とで、抗体価の上昇がどれくらい違うのかという調査研究が必要です。抗体価が高ければ必ず予防出来るというものではないのですが、調査研究ですから何か基準を決めなければなりません。それで比較的結果の出やすい「抗体価」という基準が選ばれたわけです。
その結果、WHOやアメリカでは6か月〜8歳は1回または2回、9歳以上は1回、日本では6か月から12歳までは2回、13歳以上は1回という接種法が選ばれたわけです。
WHOやアメリカでは6か月〜8歳は1回または2回となっていますが、1回でいいのか2回接種するのかを決めるのは過去の履歴です。
6ヶ月から8歳未満の子が過去に実際にインフルエンザにかかったか、または2回の接種歴があれば1回接種となります。インフルエンザにかかったことがない、予防接種を全く受けていないか1回しか受けていないという場合には2回接種となります。
日本という国はもともと予防接種には慎重な国でしたから、さらに安全(効果の確実さ)を考慮して「我が国独自」の接種回数が決められました。
この違いのどちらが正しいかを決めるのはとてもむずかしいと思います。国際比較で問題になるのはいつも人種差ということです。人種が違えばワクチンの効果に違いがあるかもしれないのです。ですから、日本方式をあながちお役人様の好きな我が国独自路線と決めつけるわけにもいきません。
日本でもWHO方式を採り入れて9歳以上は1回接種としている小児科医もいます。インフルエンザの予防接種は任意接種ですから、ある程度は接種医の判断を加えることが出来ます。
北海道のある小児科医(ホームページより)は、基本は日本方式だけれど、場合によっては、これまでの予防接種回数に関わらず、6か月から3歳未満は1回0.25mlで2回接種、3歳から8歳は1回0.5 mlで2回接種、9歳以上は1回0.5 mlで1回接種という方式を採り入れているそうです。
これはなかなかいいアイディアだと思えます。
でもこども診療所では、今シーズンの接種回数については、9歳以上13歳未満のお子さんでも特別な事情がない限りは2回接種の日本方式で接種を行います(将来はわかりません)。
1回接種か2回接種かは、注射される方の負担(痛みや恐怖心)もさることながら、費用という面でも重要な問題になりますが、「免疫の記憶」ということを考えれば、毎年接種を受けることが大切なのではないでしょうか。
「インフル予防接種の基礎知識」のシリーズは今回で終了です。ご愛読有り難うございました。
これからの予防接種をお決めになるのに少しでも参考になれば幸いです。
体に針が刺さる瞬間のことを考えるといてもたってもいられません。
物凄く痛くて泣いてしまうのではないかと思ってしまいます。
情けない話ですが本当に不安です。
どうしたら、この不安を取り除くことが出来るのでしょうか。
それでもどうしても予防接種をお受けになりたいのでしたら、10月11日掲載の「インフル予防接種の基礎知識(3)」にお寄せいただいたコメントへの回答をご参照下さい。
それなりの効果はあります。
痛いことは痛いけれど、腕のいい医者の注射は腕のよくない医者の注射よりはまだましだということです。
決して気休めではありませんが、あくまでも比較の問題です。