2007年07月17日

友人が小説を書きました

 医学部で同級だった友人が小説を書きました。教養学部に入学以来40年以上付き合いのある親友たちの一人で、産婦人科医です。小説のあとがきで本人が書いているように「文学青年でもなければ日記をつけた経験もなく、手紙を書くことすら嫌い」そうな男でしたし、2年ほど前に一緒に飲んだときには小説を書いているなどという話は一言も出ませんでした。

 まさに処女作なのですが、ハードカバーの単行本で本文432ページにも及ぶ大作です。出版社も早川書房という立派なものです。早川書房といえば「早川ミステリー」で有名ですが、友人の小説も医療をテーマにしたサスペンス仕立てになっています。友人をあまり褒めるのもなんですが、初めて書いた小説とはとても思えないほどよく書けていると思います。

no-fault.jpg タイトルは「ノーフォールト」(岡井 崇 著)。主人公の若い女性産婦人科医の受け持ちだった患者さんが手術後亡くなったという治療の過程に医療ミスがあったか(フォールト)なかったか(ノーフォールト)という医療訴訟を軸に、現実の産婦人科医療の現場を知り尽くした友人(著者)がいくつかの症例をちりばめながら、それらの症例が提起する問題とそれに対する人々の思いや考え方などを、医者の立場からだけでなく、患者さんの立場や医療裁判に関わる人たちの立場などさまざまな視点から公正に描き、日本の特に産婦人科に関わる医療制度や医療体制の問題点を浮き彫りにしていくという内容です。

 主人公の若い女医はこの医療裁判の中で心に深い傷を受け、患者不信に陥ってしまい、生きがいとまで感じていた産科医療への情熱を見失い、大学病院を去ろうとしますが、志願した最後の当直の夜の出来事、そして東京を離れる前にとお参りした亡くなった患者さんのお墓での夫(患者さんの)との再会によって、再び患者さんとともに歩む医療に正面から向き合う決意を新たにするというあらすじですが、その展開の中で描かれるいくつかの症例はさすがこの道35年の医者だけあってすごい迫力です。しかもそれらがただ単に病院で起こった出来事として羅列してあるのではなくミステリアスに配置されていて、思わず一晩で読んでしまいました。

 小児科医(新生児科医)も帝王切開や胎児の心音低下などリスクのある出産には立ち会います。生まれてきた赤ちゃんを直ちに引き受けて少しでも早く良い状態に保つためです。私もその昔病院に勤務していた頃には、この小説に出てくるような緊迫した(小説ほどではありませんでしたが)出産に立ち会って仮死状態で生まれた赤ちゃんの蘇生を担当したことがありましたので、友人の筆致の鋭さにもよるのでしょうが、自分が分娩台の横に立っているような臨場感を持って読み進めてしまいました。

 今日本では産婦人科医と小児科医のなりてがいなくて、お産のできない医療機関や小児救急の問題点がマスコミでも採り上げられています。それがどのような背景によるものなのか、その一端がこの「ノーフォールト」をお読みいただければご理解いただけると思います。


posted by YABOO!JAPAN at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | こども診療所日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。