
前回は熱が出た時に熱を下げる方法の一つ熱さまし(解熱剤)のお話をしました。
熱を下げるもう一つの方法はからだから熱を逃がす(放散させる)ことです。私はこの方法を説明するのに「からだを冷やす」という言葉を長いこと使っていましたが、最近は「熱を逃がす」という言葉を使うようにしました。きっかけは「冷えピタ」や「熱さまシート」などの貼る解熱剤の登場です。これらのクスリはおでこに貼ったり、脇の下に貼ったり、あたかもその部分を冷やしているかのようには見えますが、クスリそのものが冷たいわけではなく、氷枕や氷嚢と同じように考えるわけにはいきません。
ここで医学を離れて物理学の話をします。物理学なんていうと偉そうですが、簡単に言えば理科の話です。熱には温度の高い方から低い方へ移動するという性質があります。また、熱を一種の物質と考えて、温度の高いものには(プラスの)熱物質が沢山貯め込んである、温度の低い方には熱物質が少ない(マイナスの熱物質が多いという説明もできます)、だから熱は高い方から低い方に移動して全体を同じ温度にしようとする(プラスとマイナスでチャラにしようとする)、と考えると「冷えピタ」で熱が下がる理由を理解することができます。
その前にもう一つ、熱に関する物体の性質ということもお話しします。一般的には、プラスの熱物質が多くなればその物体の温度は高くなる、マイナスの熱物質が多くなればその物体の温度は低くなるということができます。ところが何事にも例外というのがあって、世の中には冷たくなくても熱物質をドンドコドンドコ貯め込んで、しかも温度があまり変わらない(上がらない)物質というのがあるのです。「冷えピタ」にはその物質が塗ってあるのです。だからこどものからだに貼ると、その部分から熱をどんどん奪い取ってからだの熱を下げてくれるのです。「冷えピタ」が冷たいわけでも、「冷えピタ」から熱冷ましの成分(クスリ)がからだにしみこんでいくのでもなく、からだから「冷えピタ」に向かって熱がどんどん逃げていくというのが「冷えピタ」の正体なのです。
氷枕や氷嚢も同じなんですが、残念なことに氷は「冷えピタ」のような特殊物質ではありませんから、氷に言わせれば「冷たい状態でからだにくっつけられて(以前は冷やすと言っていた)熱を奪い取り(からだから見れば逃げていく)、自分自身(氷)は逃げ込んできた熱のために温度が上がって溶けてしまう」ということになるのです。
以上、私が「冷やす」という言葉をやめて「熱を逃がす」という言葉に変えた理由をお話しました。あまり実際の役には立たない話でしたね。次回はためになるお話を用意しておきますね。