
こういう風に書くと、普段からよく山歩きをしているように思われるかもしれませんが、始めから山歩きをしようと思って準備をして出掛けるのなんて40年ぶりぐらいのことです。高校時代には生物部に所属していて、植物採集だの昆虫採集だののためにけっこう高い山に登ったり、山岳部に入っていた友人に誘われて2000m級の山に登ったりと、山そのものは嫌いではなかったのですが、大学に入ってからはどういう訳か山登りの機会がなくなってしまいました。
突然山歩きをしようと思ったのは、このところの運動不足からです。運動不足はわかっていて、ちょっとした時間を使って歩かなくてはと思っても、ついつい面倒でほとんど脚を使わない生活になってしまいました。そのため最近では駅の階段を歩いて登るともう膝が笑い出してしまうという情けない有様で、これではイカンという思いと、どの程度筋力が残っているのか試してみようという思いからです。
ガイドブックや地図を買ってきて、日帰りで行けて、そこそこ登山気分が味わえる山はないかと探して見つけたのがこの金時山です。ガイドブックには「初級者向き」と書いてあり、本文には「山頂付近は岩場でかなり急斜面」と書いてあったので、私の考えていた条件にぴったりだったのです。ガイドブックにはいくつかのチェックポイントがあって、その間の所要時間が書いてありましたが、まずその通りには歩けないだろうと思って、自分なりにかなり余裕のある行程表を作って出発しました。「さあ、山登りだ!」
と意気込む私に最初から水を差したものがあります。それは御殿場市が作った看板で、それには矢印とともに「金時山ハイキングコース」と書いてありました。「え〜っ!ハイキング程度の山なの?金時山って・・・。」


山頂は大混雑で、人また人。まるで動物園のサル山みたいな盛況でした。何とか座る場所を確保して昼食。山頂付近の登りで汗をかいてTシャツだけになっていましたが、さすがに1,000mを越える山の頂です。風が冷たく慌てて長袖シャツを着込みました。


景色にばかり見とれているわけにはいきません。何十年ぶりの登山(還暦登山)ですから登頂の記念写真、というよりみんなが信用しないといけないので証拠写真を撮ってもらって、

「乙女峠ルート」を選んだのにはワケがあります。一つはガイドブックに「乙女峠からの富士山の景観がすばらしい」と書いてあったことです。だったら帰り道でも同じじゃないかと思うかもしれませんが、「山の天気は午後には曇る」と高校時代に教えてもらったのを憶えていたのです。しかも天気予報では天気は翌日から下り坂。だったら乙女峠は是非とも朝のうちに、と考えたのです。これは正解でした。もう一つのワケはもっと現実的です。標高の高いところから登り始めた方が登る距離(高低差)が少なくなる、と計算したのです。こちらはもしかしたら不正解だったかもしれません。でも初めて来る山ですからその辺のところはわかりませんでした。とにかく私は金時神社に向かって下山する計画を立てたのです。

「山は登りよりも下りがきつい」、知ってはいましたし、昔経験もしていましたが、その言葉が現実のものとなって私を襲ってきました。左膝が急に痛くなって歩調をゆるめざるをえなくなりました。さらに膝をかばっていたために左足の付け根が痛くなり、左右交互に足を出すことができなくなり、半歩半歩下るようなことになってしまったのです。ついに普段の運動不足のツケが回ってきたと思いましたが、とにかく進むしかありません。そういえば前日に「ストックを買おう」と思いつつ買い忘れてしまったことが非常に悔やまれました。涙が出んばかりにつらい思いをして歩いていたそのときです。金時神社の神様が現れて「オマエが欲しいのは金の杖か銀の杖か?」と尋ねたのです。私は答えました。「滅相もありません、神様。私が欲しいのはその辺に生えている木を切って作った木の杖でございます。」神様は「オマエは本当に正直者だ。その正直さに応えて木の杖を授けよう。しばらく我慢して歩くのじゃ。」そういうとふっと消えてしまいました。神様に言われた通り、痛みをこらえてしばらく歩いていると、な、な〜んと!道ばたに誰かがわざと置いたとしか思えない、長さ1mほどの木の棒が立っているではありませんんか!「神様、ありがとうございます」思わず手を合わせてその棒を引き抜いた私は、その杖にすがってようやく金時神社まで辿り着くことができたのです。金時神社にお参りしてお賽銭を上げ、神様によ〜くお礼を言ったのはもちろんのことです。授かった杖は賽銭箱の横に奉納してきました。金時神社分岐から神社まで、予定の40分を遙かに超える80分、倍の時間をかけて下界に降り立った私は精も根も尽き果てていました。(ちなみに、神様が現れたのは作り話ですが、誰かが、きっと神様が、作ったとしか思えない恰好の木の棒を偶然見つけたのは事実です。)
これほどまでに脚力が落ちていると思っていなかった私は、下山後仙石高原へ行ってススキの原を見物し、さらに宮ノ下で立ち寄り温泉に入り、そこからは箱根登山鉄道の電車に乗って箱根湯本まで戻るという計画を立てていましたが、もうそれどころではありません。這うようにして仙石原まで歩き、マウントビュー箱根というホテルに立ち寄り温泉があるのを見つけて飛び込みました。イヤ〜助かりました。1時間近くも温泉につかってやっと生き返り、飲んだ缶ビールの美味しかったこと!
すべての予定を繰り上げ、ホテル前のバス停から箱根湯本直行のバスに乗ったのが午後5時少し前。5時半には箱根湯本に着くはずでした。ところが連休とあって道路は大渋滞。箱根湯本到着は午後7時を少し回っていました。私の下山時間どころか、こちらは予定の4倍以上の時間がかかりました。観光もして帰るつもりだったので少し遅すぎかなと思いつつもすでに買ってあった帰りのロマンスカーは7時17分発。

で、私の脚はどうなったかといいますと、一夜明けた昨日の朝には痛みが取れ、普通に歩けるようになりましたが、次第に筋肉痛が両足に出てきて、キンカンを塗ったり、湿布をしたりしています。歳をとると筋肉痛は2・3日遅れて出てくるので、今朝は昨日より少し痛みが増しているようで今日の診察が心配ですが、診察中はほとんど座ったきりなので何とかなるでしょう。そんな思いをしながらも11月の連休はどの山に登ろうかなどと思いを巡らせている「コリナイワタシ」ではあります。
やはり日頃の運動が大切ですね。もう少し鍛えて次の山行の計画を立てることにします。