
このシリーズでは冬場の感染性胃腸炎の対処法についてお話ししていますが、今回と次回は中でも有名なノロウイルスとロタウイルスを採り上げて、病気の特徴とそれに合わせた具体的な対処法をお話しいたします。
今回はまずノロウイルスです。ノロウイルスという名前が有名になったのはこの10年ぐらいのことですが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎はそれよりもずっと以前から毎年冬には流行していました。でもその頃はまだノロウイルスではなく小型球形ウイルスと呼ばれていましたので、一般の方にはなじみになりにくかったのだろうと思います。
感染経路は、下痢便や吐物を介しての経口感染とくしゃみなどによる飛沫感染です。生の貝類による食中毒として発病することもあります。予防には便や吐物の処理を厳重にすることやうがい・手洗いが求められます。
ノロウイルスに感染すると突然激しい嘔吐に見舞われます。数時間にわたって繰り返し嘔吐し、10回以上嘔吐することも珍しくありません。特徴的なのは、この数時間に及ぶ初期の嘔吐が収まったあとしばらく全く吐かなくなることです。
診察したときの特徴は、胃や腸が動くときの「グルグル」という音が非常に弱くなる、あるいは全く聞こえなくなることです。つまり胃腸の動きが極端に悪くなっているのです。ですから飲んだものでも食べたものでも胃から先へ進めず、ちょっとしたきっかけで吐いてしまうのです。この特徴は一旦吐き気が収まったときにも続いています。
ところが何回も吐き続けたお子さんはのどが渇いたりおなかがすいていたりしますから、吐き気が収まると飲み物・食べ物をほしがります。お母さんのほうも水分補給・栄養補給が気になりますからついつい飲み物・食べ物を与えてしまいます。でも胃腸のほうは相変わらず動いていないわけですから、また吐き出してしまいます。こうなってしまうと治療はちょっと長引きます。
ノロウイルス退治の要は、一旦吐き気が収まっても、お子さんがどんなに飲み物・食べ物をほしがっても、心を鬼にして絶飲食を貫くことなのです。この辺はナッツままさんのコメントでネタバレしちゃってますけど、吐き気が収まったあと1回ぐらいは飲んでも吐かないんです。それは吐いたあとの隙間に飲み物が入っただけで、さらに飲めば再び吐いてしまうんですね。胃腸が動いていないのですから当然です。
クスリを使って胃腸をムリヤリ動かすことは可能です。でもクスリの効き目が切れたとき、胃腸が本来の動きを取り戻していなかったら、飲食をすることでまた吐いてしまいます。人間のからだは胃の中が空っぽになると「次を入れてくれ〜」と勝手に動き出すようにできているのです。ものすごくおなかがすいたときに胃のあたりで「グググ〜」という音がして恥ずかしい思いをした経験はどなたもがお持ちのはずです。これを待つのが絶対確実なのです。
でも、胃腸がなかなか動かなかったらどうするの?と思われるかもしれません。でも、ノロウイルスによる胃腸炎の場合には、1日我慢すれば胃腸はほとんど元通りに動くようになるのです。名前は「ノロ」でも治るのは「ハヤイ」のです。
ですからこども診療所では、ノロウイルスがかなり確実に疑われるお子さんにはクスリは一切出していません。ただし、診察にいらしったときにまだ吐き気が強い場合は別です。吐き気止めの坐薬などを差し上げて一時的には吐き気を止めるようにします。でも、絶飲食だけは守っていただくようにしています。
これは、お母さんにとってはホントに「心を鬼に」しなければできないつらいことです。ですからちょっとだけ救いの手をさしのべます。「どうしても我慢ができないときには、角砂糖1個か2個分の氷のかけらをなめさせてあげてください。かんではいけません。この程度の氷が溶けても水としてはたいした量ではありませんが、溶けるまでお口の中に何かが入っていることでなんとなく心が和らぐんです。でも、いつでもホイホイあげないでください。どうしても我慢ができなくなったら、ということですよ。」
さらに、「この氷は、お宅の製氷皿にジュースやイオン水などを入れて凍らせたおいしい氷でいいですよ。でもこの氷ができるまではホントに何もあげないでくださいね。」
そして、診察が終わってこう申し上げます。「おなかが病気なのではなくて、おなかが病人だと思ってください。病気の人に仕事をしろとは言いませんよね。おなかにものを入れるということは病人にムリヤリ仕事をさせるようなものなんです。おなかをいたわってあげてくださいね。」
先生の説明凄く分かりやすいです
1.7歳のお友達はノロウイルスで完治まで10日間以上かかり、その間大学病院で点滴までしたそうで、この先生のお話をお友達のお母さんにも教えてあげようと思いました
これからも楽しみにしています
ありがとうございました