2016年04月06日

こどもの花粉症(集中連載3)

dav.jpg 曜日は医学講座の日。
 なぜなら人間のからだを示す漢字には
 (肉づき)のつくものが多いから。

 脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
 あなたはいくつ書けますか?


 前回は、アレルギー反応も生態防御機能の一つなのだけれど、通常とは異なった、奇妙な反応を起こしているのだということをお話しました。今回はこのアレルギー反応について少しだけ詳しいお話をいたします。

 抗原が体内に入ると抗体ができるという基本は同じでも、アレルギー反応の場合は、ある種の抗原がすべての人にとって抗原になるとは限らないという特徴があります。たとえば、はしかのウイルスまたはワクチンが体内に入るとすべての人にはしかに対する抗体ができます。ところが、スギ花粉が体内に入っても抗原(外敵)として認識して抗体を作る人と、抗原とは認識せず(味方として認識)抗体を作らない人がいるということです。この違いがどうやって起こるのかはまだ完全には解明されていません。

 抗原と認識して抗体を作る人にとって抗原のことをアレルゲンといいます。アレルゲンに対して抗体を作ることを感作といいます。同じアレルギー性疾患の人でも、その人によってアレルゲンが異なることがあります。Aさんは卵を食べるとアレルギー反応を起こすけれど牛乳なら起こさない、Bさんは卵は平気だけれど牛乳は反応を起こすというようにです。スギ花粉症ではすべての人がスギ花粉をアレルゲンとして感作されているわけです。

 また、すでに感作されているアレルゲンに出会えば、アレルギー反応は必ず起こります。「昨日は反応しちゃったけど今日は平気」ということはありません。よく、「離乳食で卵を食べたら発疹が出てしまった」と来院なさる方がいらっしゃいますが、「今回初めて食べたんですか?」と伺うと「今まで何回か食べてます」、「じゃ今回は調理法を変えたんですか?」「いいえ、いつもと一緒です」。これは卵アレルギーではないんですね。

 では、アレルゲンの量とアレルギー反応の強さは関係があるのでしょうか?私が医学部の学生で、アレルギー反応にかかわる色々な因子が発見され始めた頃には、「アレルギー反応はアレルゲンの量の多少には関係なく起こる」、つまりどんなに少ないアレルゲンでも出会えば必ず反応する、と教わりました。もう40年以上も前の話です。

 しかし、その一方で反応を起こさないぐらいにアレルゲンを薄めて(場合によっては1億倍にも薄めて)何回か注射をし、アレルゲンに慣らしていって次第に濃度を高め、だんだん高濃度のアレルゲンに対しても反応を起こさなくする治療(減感作療法といいます)も盛んに行われていましたから、アレルゲンの量とアレルギー反応の強さの関係はどうもよく理解できませんでした。

 今でもよくわからないのですが、花粉情報などでは「明日は花粉の飛ぶ量が多くなりますから十分ご注意ください」なんて言ってますから、最近では「アレルゲンの量が多ければアレルギー反応は強くなる」と考えられているのかもしれません。あるいは「アレルギー反応はアレルゲンの量に関係なく起こるが、反応の強さはアレルゲンの量によって変わる」ということなのかもしれません。

 アレルギー反応の基本を理解していただいて、いよいよ次回から「なぜこどもの花粉症(そっくりの病気)がふえているのか」という本題に入ります。


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2016年04月05日

こどもの花粉症(集中連載2)

dav.jpg 曜日は医学講座の日。
 なぜなら人間のからだを示す漢字には
 (肉づき)のつくものが多いから。

 脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
 あなたはいくつ書けますか?


 30億年前の地球の話です。その当時私は・・・、そんなわけありませんね。その当時地球上に「細菌」という生物(生命体)が発生(誕生)しました。これは生命体の歴史の中で画期的な出来事でした。どこが画期的かというと、細菌は生命の源であるDNAを包む殻(細胞膜)を持っていたからなんです。それまではDNAむき出しのままの生命体でしたから、物理的にも化学的にも生物的にも外敵に襲われて滅びてしまう危険がとても高かったのです。細胞膜を持つことによって外敵の侵入を一時的であるにせよ食い止めて生存の危機を乗り越えることができるようになりました。生命体が自分を守る(生体防御)機能を持ったという意味で細菌の出現は画期的な出来事だったのです。

 なんかすっご〜い難しそうな話でスタートしましたが、ただカッコつけてるだけです。ここから先はそんな難しい話ではありません。とにかく、生命体が自分を守ろうとする機能を持ったのが30億年前で、その後生物の進化にともなって様々な生体防御機能が備わっていった、発達していったということと、今私たちを苦しめているアレルギー性疾患も、この生体防御反応の進化の流れの中から出来てきたということを申し上げるための前置きなんです。

 30億年という歳月をかけて、生体防御反応は「殻に閉じこもってひたすら外敵が遠ざかるのを待つ」という消極的なものから、「侵入しようとする外敵を見つけて排除する・攻撃する・撃退する」という積極的あるいは攻撃的なものへと進化してきました。現在私たち人類を外敵から守っているのは、このような積極的・攻撃的な生体防御反応です。

 すべての生命体は外界にあるものを体内に採り入れて利用し生存しています。空気を吸うのも、食べ物を食べるのもそうです。ですから「侵入しようとする外敵を見つける」ためには、体内に入ろうとする様々なものが敵なのか味方なのかを区別しなければなりません。敵だったら侵入を阻止する、味方なら受け入れるということですね。

 外敵の侵入を阻止する方法もいくつかあります。まず、涙・鼻水・咳・くしゃみのように悪いことをしそうな奴を体の外に追い出してしまうというのも一つの方法です。体内に入ってきた細菌のところに白血球がワッと押し寄せてきて細菌を食べてしまうというのも一つの方法です。そしてもう一つが今日のお話の主人公である抗原抗体反応で、侵入してきた外敵(抗原)の一つ一つに対して、それぞれの必殺特殊部隊(抗体)を編成して、まずは外敵をやっつける、そしてこの抗体は体内に常駐して、その後同じ抗原が侵入しようとすると即座に攻撃を仕掛けてやっつけてしまうという仕組みです。

 はしかや水ぼうそうやおたふくかぜに一度かかると免疫ができてその後一生かからないというのは体内に抗体が常駐して見張っているからなんです。抗体は一人一殺主義ですから、はしかに対する抗体がおたふくかぜウイルスをやっつけるということはありません。一つ一つの抗原に対して一つ一つの抗体が作られるのです。

 ワクチンによる予防接種もこの抗原抗体反応を利用しています。発病しない程度に毒性を弱めたワクチンなるもの(抗原)を体内に入れて、平和のうちに(発病させずに)抗体を作り、その後の病気の予防に役立てようというものです。

 ここまでの話なら抗原抗体反応というのは生体防御反応だという説明も納得がいくと思います。ところが、まったく同じ抗原抗体反応でも、アレルギー反応と呼ばれる反応のしかたをしてしまうと天下の嫌われ者になってしまいます。「アレルギー」という言葉はもともとギリシャ語で、「異なった反応」とか「奇妙な反応」という意味です。本来自分を守るはずの抗原抗体反応が逆に自分を苦しめてしまうなんて、普通の抗原抗体反応とは異なってるな、奇妙だなという意味です。

 というところで今週も大分長くなってしまいました。花粉症の話とは関係なさそうですが、一度「アレルギー性疾患」というものについて私の考え方をまとめて書いてみたいと思っておりましたので、この機会に基本の部分からお話ししたいと思っています。


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2016年04月04日

こどもの花粉症(集中連載1)

dav.jpg 曜日は医学講座の日。
 なぜなら人間のからだを示す漢字には
 (肉づき)のつくものが多いから。

 脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
 あなたはいくつ書けますか?


 先週の医学講座でこどもの花粉症についてちょっとだけお話しました。もともとが「花粉症にワセリン?」というのが本題でしたから、こどもの花粉症についてはあっさりと流したのですが、実は私、こどもの花粉症についてはものすごい独断と偏見を持っていまして、なかなかそれを話す機会がないのをとても残念に思っていたのです。先週の話は私の思いの導火線に火をつけてしまいました。

 そしてとうとう爆発してしまいました。「毎週月曜日は・・・」ではなく、これから毎日集中連載で話をさせていただきます。

 今まさにスギ花粉症のシーズン真っ只中。街の中、電車の中でマスクと時にはゴーグルに身を固めた方が目につきます。ほとんどは大人の方なのですが、近年お子さんがこの季節に鼻水や鼻づまりが止まらない、くしゃみが止まらない、涙が止まらない、目がかゆいといった花粉症と全く同じ症状を訴えて受診なさるケースが増えつつあります。中にはスギ花粉に対してアレルギー反応を起こすことが検査で確認されているお子さんもいらっしゃって、「花粉症」という診断をつけてしまうことが多いのですが、厳密に言えばこどもに花粉症は起こらないのです。

 そもそも「スギ花粉症」が一個の独立した病気であると認められたときには、「スギの花粉に10年、20年という長期にわたってさらされた結果、スギ花粉に対してアレルギー反応を起こすようになった(感作された)のが花粉症である」ということが定義として受け入れられたのです。患者さんは有名な日光杉並木の近くに住む女性の方でした。

 当時はこのように長期間かけて感作されるアレルギーというのが医学的にはあり得ないとされていましたので、「スギ花粉症」はしばらくの間学会には認められなかったのです。

 逆に言えば、この定義に従う病気が小学校低学年のこどもに出ることはあり得ないということになります。「こどもに花粉症はあり得ない」のです。ですから、今花粉症そっくりの症状で悩んでいるお子さんに診断名をつけるとしたら、「季節性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性結膜炎の合併」というのが正しいということになります。

 しかし、「スギ花粉症」を引き起こすアレルギーのメカニズムが存在するということが永年かけて認められたように、こどもに「スギ花粉症」を引き起こす新たなアレルギーのメカニズムが発見されないとも限りません。その時には「小児花粉症」とか何か別の病名が命名されるでしょう。少なくとも大人に起こる「スギ花粉症」とは別物だと私は考えています。

 一方で、スギ花粉によって喘息発作を起こしてしまう子というのは以前から存在していましたから、アレルギーマーチという言葉があるように、お子さんの年齢や体質、あるいは生活環境などによって、今までに知られているアレルギーのメカニズムの中で、喘息ではない別の症状を呈するアレルギー反応が引き起こされて「季節性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性結膜炎の合併」=「スギ花粉症(そっくりの病気)」になるという可能性はあると思います。

 ちなみに、アレルギーマーチというのは、アトピー性皮膚炎の子が年齢によって気管支喘息になったりアレルギー性鼻炎になったりと別の病気を連鎖的(次から次へと)に起こしてくることを指しています。

 アレルギーマーチの一環として「スギ花粉症(そっくりの病気)」が起こっているとすればお子さんが一生この症状に悩まされるかどうかは何とも言えません。いずれ年齢とともに消えてしまうか、別のアレルギー性疾患に移行するという可能性も考えられるということです。

 いずれにしても治療は大人の「スギ花粉症」と全く同じです。抗アレルギー薬と点眼薬と点鼻薬を症状によって組み合わせて使うということです。使うクスリはこどもであるという点を考慮して大人とは多少違う種類のものを使うこともありますが、基本的な治療方針は同じです。このような治療を続けながら、こどもの「スギ花粉症(そっくりの病気)」の本質の解明を待つということだと思います。

 次回は「なぜこどもの花粉症(そっくりの病気)が増えているのか」ということをお話したいと思います。


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2016年03月28日

花粉症にワセリン(その2)

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 あなたはいくつ書けますか?


 先週「花粉症にワセリン」の記事をアップしてからつらつら考えてみました。また「こどもの花粉症」についてのお話もせずに記事を終了してしまったことにも気づきました。

 というわけで今週は続編として「花粉症にワセリン」に対する考察と「こどもの花粉症」についての私の考え方をお話ししようと思います。

 まず「花粉症にワセリン」のほうですが、イギリスNHSのサイトに掲載されたワセリンと私が経験したレスタミン軟膏を同時に鼻の穴に塗ったらどうなるかという話です。

 医学的根拠はまったくありませんが、ワセリンが花粉を吸着して、レスタミンが鼻の粘膜を保護してくれたら、両者を単独で使うより大きな効果を期待できるのではないかということです。

 先週も書きましたが、プロペトという軟膏は眼軟膏の基剤として使われますから、鼻の粘膜に害を及ぼすことはないだろうと思います。また、基剤として使われる軟膏ですからレスタミン軟膏と混合しても問題なさそうに思えます。残るはレスタミン軟膏を鼻の粘膜に塗ることに問題がないかということです。

 こればかりは何とも言えません。私一人の経験では何の問題もありませんでしたが、すべての人に問題なしとは言えないのです。

 かといって、私自身は「このまま埋もれさせてしまうには惜しいアイディア」ではないかという思いを捨て去ることができません。いつか機会があったら試してみたいと考えています。

 次に「こどもの花粉症」ですが、日本特有の疾患としてだいぶ昔に発表されたスギ花粉症は、10年、20年という長い年月スギ花粉にさらされた結果、スギの花粉がアレルゲンとなって感作されて発病するという、それまでのアレルギーの概念からはずれる疾患でした。

 ですから厳密に言えば、10歳未満の小児に起こることはないと言っていいような疾患です。でも近年、5歳ぐらいから花粉症と全く同じ症状(鼻水+鼻づまり+目のかゆみや充血)を訴えるお子さんが増えているのは事実です。そして血液検査上は、その症状の原因としてスギやヒノキなどの花粉の関与が疑われるケースが多いのも事実です。

 でもこのようなお子さんに長い年月をかけて感作される本来の花粉症という病名を使うことには抵抗を感じます。食物アレルギーなどのように短い期間で感作されるアレルギー疾患と考えて「花粉症」とは言わずに「花粉アレルギー」あるいは「小児花粉症」と呼んだほうがいいのではないかと常々考えています。

 もっとも、治療に関して言えば、本来の花粉症と全く違いはないわけですから、そんな細かいことにこだわらなくてもいいじゃないかとも思うのですが・・・。

 それでも、こどもの花粉症がすべてアレルギー反応によって起こっているのかということについては疑問を感じています。

 例えば、コショウ(調味料)の粉をかけられて目が痛くなり涙があふれ、くしゃみを連発して鼻水だらだらになっても、誰もアレルギーとは言わないでしょう。誰もがコショウという刺激物質で起こった反応だとわかるからです。

 花粉も粉であることには変わりありません。アレルギー反応としてではなく、刺激反応として目や鼻の症状が出るということはあり得ないことではないと思うのです。ただ、コショウと違って花粉に対する反応に個人差があるということは、一人一人の粘膜の敏感さに差があるということだと思います。花粉症のようになる子は特に敏感(過敏)なのだとも言えるのです。

 粘膜が過敏だというのはアレルギー疾患にも共通ですので、何もわざわざ過敏反応だと分けなくてもいいのかもしれませんが、歳をとると細かいことが気になりましてね。ついつい余計なことを書いてしまったかもしれません。


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2016年03月21日

花粉症にワセリン????

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 (肉づき)のつくものが多いから。

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 花粉症のシーズンまっただ中、つらい症状でお悩みの方も多いと思います。近年花粉症の症状を訴えるお子さんも増えているように感じます。これらお子さんの花粉症がすべてアレルギー反応に基づいているかという点では、私は多少疑問をもっているのですが、それはまたあとで触れるとして、花粉症の予防に関して面白い記事を見つけましたのでご紹介したいと思います。

 花粉症対策として鼻の穴にワセリンを塗る方法の紹介です。まずはこちらの記事をご覧ください。(左の文の「記事」という文字をクリックするとリンクします)

 大変長い記事でしたが、お読みいただけましたでしょうか?

 「ウッソダロ!バカバカシイ!」と思われたあなた。普通はそう思いますよね。でも私は20年以上前に似たような経験をしたことがあるのです。

 その当時私は愛育病院に勤めていました。そこの小児科の看護婦さん(その当時は看護師という呼称はなかったんです)が、「鼻づまりの時に鼻の穴にレスタミン軟膏を塗るといいですよ」と教えてくれたのです。

 レスタミンというのは抗ヒスタミン薬で、蕁麻疹の治療や虫さされのかゆみ止めに使います。内服薬は鼻汁の分泌を抑えるので風邪薬としても使います。ただ、内服薬は眠くなるという欠点を持っていました。しかし鼻の穴に塗る(外用薬)のなら眠くなる心配はありません。しかも鼻の粘膜のむくみを取ってくれる作用も持っているとも思えます。さらに液体と違って長く鼻の粘膜にとどまってじわじわと吸収されますから、効果が持続するという利点もありそうです。

 とまあ、いいほうに考えたのですがそれでも半信半疑でいました。その内不覚にも風邪をひいてしまってひどい鼻づまりとなってしまいました。診察中に鼻汁はたれてくるしでダメモトと思って試してみました。そしたら不思議なほどよく効きましたねぇ。塗ってしばらくすると鼻はスースー鼻水ピタリで効果は抜群でした。しかも眠くもなりません。教えてくれた看護婦さんに感謝、感謝です。

 でもレスタミン軟膏のこのような使い方は健康保険では認められていませんし、まっとうな医学書にもこのような使い方の記載はありませんでしたから、患者さんにお勧めすることなくいつの間にかそのことを忘れていました。

 最近になってレスタミンとワセリンの違いはありますが似たような使い方の記事を見つけて、昔のことを思い出したという次第です。

 そこで早速ネタ元の「NHS choces」(クリックでリンク)にアクセスしてみました。確かにそのような記載がありました。原文は次の通りです。

 Rubbing a small amount of Vaseline (petroleum gel) inside your lower nostrils can help to prevent pollen from entering your nasal passages.

 日本語の記事にも和訳が載っていましたが、直訳しますと「あなたの下部鼻腔(訳者注:鼻の穴の入口に近い方)の内側に少量のワセリン(ペトロリアム ゲル)をこすりつけることがあなたの鼻の通り道に花粉が入るのを防ぐ一助になりえます」となります。

 NHSというのはイギリスの国民健康保険みたいなサービスを取り仕切るお役所で、日本の厚生労働省の一部門といえるれっきとした政府機関です。そのサイトに掲載されているのですからあながちでたらめとは言えないでしょう。

 私が経験したレスタミン軟膏と違うところは、レスタミンが抗ヒスタミン薬として作用を発揮するのに対して、ワセリンは花粉を吸着させることによって花粉の侵入を防ぐということのようです。ということは、鼻の粘膜に近いところから入ろうとする花粉は吸着できるけれど、鼻の穴のど真ん中を通る花粉は通過してしまうということですね。やはり直訳通り「花粉が入るのを防ぐ一助になりえます」程度の効果しか期待してはいけないのではないでしょうか?日本語の記事のタイトルのように「花粉症の救世主?」というのはちと言い過ぎのように思えます。

 ただ、純度の高いワセリン(日本での商品名はプロペト)は眼軟膏の基剤として使われています。目の粘膜に塗っても大丈夫なら鼻の粘膜でも大丈夫と言うことはできると思います。自分で試してみるのが一番なのでしょうが、私には花粉症の気がまったくありません。歳をとってからは人間が枯れてきて風邪をひいても鼻づまりや鼻汁に悩まされることも少なくなってきています。残念ながら自分で試す機会がないのです。

 プロペトはこども診療所でも使っていますが、花粉症対策として健康保険で処方することはできません。でも市販薬として購入することもできますから、一般的な予防法や治療法で今ひとつ効果が、という方は試してみて害になるものではないと思います。ワセリンのたぐいは一般的には保湿剤として広く使われていますから、乾燥肌の予防や治療にも使うことができます。


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2015年07月20日

こどもへの目薬のさし方

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 この記事は2007年8月6日に掲載したものです。先日この記事にコメントをいただきました。8年も前の記事をお読みいただいてうれしい驚きでした。

 8年前の記事のタイトルは「目薬の正しいさし方」でした。しかし、最近訪れたある眼科系のサイトで、この記事に書いてある点眼法を「正しい」と言ってはいけないことがわかりました。でもそれは多分大人の方が使う時の正しいやり方だと思いますので、こどもに対してはこの方法でよかろうと思っています。

 それでタイトルを「こどもへの目薬のさし方」と変えて再掲載することにしました。記事の内容は8年前とほとんど同じです。

 いやがるこどもに無理矢理目薬、どなたにも経験があると思います。こどもは目薬を入れられるとき、なぜあんなに怖がったり、いやがったりするのでしょうか?

 答えは簡単!「目をあけて目入れようとするから」デス。

 大人の方に目薬を渡して、「ではここでご自分で目薬をさしてみてください」と申し上げると、たいていの方は片手の親指と人差し指で上まぶたと下まぶたを押し広げ、その真ん中に目薬を入れようとします。目薬というのはそうやって使うものだと多くの方が信じています。だからこどもにも同じようにやってしまうのでしょう。テレビで流れる目薬のCMでも、目が大きくて見栄えのするタレントがこれでもかとばかり目を見開いて目薬を入れていますものね目目

 これが大人用の正しい点眼法なのです。

 でもこどもの場合、目薬は必ずしも開いた目の中に入れなくてもいいだろうと思うのです。これからこどもも怖がらない目薬のさし方をお教えしましょう。

 まず目を閉じて仰向けに寝かせます。目をつぶったまま、目頭のちょっと凹んだところに目薬を落としますたらーっ(汗)。「まだ目をつぶってて」と言いながら反対側の目の目頭の凹みに目薬を落としますたらーっ(汗)。「ハイ目を開けて」。これでおしまいです。片側に目薬を入れたあとすぐに目を開けてしまったら、こぼれた目薬をやさしく拭き取ってあげて、「ハイ今度は反対側」と言って同じ動作を繰り返しましょうたらーっ(汗)

 その子専用の目薬でしたら、目頭の部分に軽く押し当ててもいいでしょう。大人ではいけないようですけど・・・。

 コツは、多少無駄になってもいいから何滴か多めに落とすことです。オタメシクダサイ手(チョキ)
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2015年05月18日

斜視じゃないでしょうか?

clinic.jpg月曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを表す言葉には「月」(ニクヅキ)のつく漢字が多いから。

 この記事は、実は8年前の2007年に掲載したものです。なぜ今頃再掲載するのかといいますと、最近この記事をブログでご覧になったという方がお子さんをお連れになって「斜視じゃないでしょうか?」とご相談に来られたからです。

 それで古い記事を探しまくって見つけ、もう一度読み返してみたら、まだ説明の足りない部分がありました。それなのにご相談に見えた方には「家に帰ってもう一度読んでください。ちゃんと書いてありますよ。」なんて言ってしまったのです。
 
 それで説明不足を補って再掲載することにしたのです。

 公費による東京都の乳幼児健診は3-4ヶ月、6-7ヶ月、9-10ヶ月、1歳6ヶ月、3歳の5回行われています。そのうち6-7ヶ月健診で割と多く受ける質問が、「この子斜視じゃないでしょうか?」というご心配です。そのほとんどは目が内側に寄っているというもので、いわゆる内斜視ではないかというご相談です。

insquint.jpg

 まず上の写真をよくご覧ください。
 ではここでクエスチョンです。「写真のお子さんは内斜視でしょうか?それとも正常でしょうか?」

 答えは来週のこの時間、、、では遅すぎですね。正解は「正常」です。

 「え〜〜〜っがく〜(落胆した顔)、内斜視じゃないのexclamation&question。だって左の黒目はまっすぐ向いてるのに、右の黒目は目頭にくっついちゃってるじゃん。」と思われたあなた、このお子さんの黒目の中心をご覧ください。黒目にカメラのフラッシュが写っています。このフラッシュが左右の黒目の同じ位置に写っているということは、両方の目がまっすぐ同じ方向を向いているということなのです。

 東洋人は西洋人に比べると両目の間隔が広くできています。そのためこの写真のように実際は正常なのに内斜視のように見えてしまうケースが多いのです。このような斜視を「偽性内斜視」といいます。目の錯覚です。偽性内斜視は成長とともに目頭の筋肉が発達すると両目の間隔が狭くなり全くわからなくなってしまいます。

 斜視かどうかは光の当たり方を確認することで正しい判断ができます。写真に撮らなくても部屋の照明の当たり方で判断することもできます。ただし、光源が近すぎるとそれを見ようとして自然に目が内側に寄りますから正しい判断はできません。ここに掲載した写真はズームレンズを使って遠くから撮影したので、お子さんは遠くを見ている状態だったのです。

 この方法はどなたでもご家庭で簡単に試してみることができます。お子さんを床の上に仰向けに寝かせて、天井の証明が両目にどのように映っているかを見ればいいのです。できれば光の方ではなく別の方向を向いている両目への光の当たり方を見たほうがよいでしょう。

 ここからが補足の説明です。

 「東洋人は西洋人に比べると両目の間隔が広くできています。そのためこの写真のように実際は正常なのに内斜視のように見えてしまうケースが多いのです。このような斜視を「偽性内斜視」といいます。目の錯覚です。偽性内斜視は成長とともに目頭の筋肉が発達すると両目の間隔が狭くなり全くわからなくなってしまいます。」という説明の補足です。

 おとなでも東洋人は西洋人に比べると両目の間隔が広くできています。こどもではその傾向がより顕著です。そのため上に掲載した写真のように実際は正常なのに内斜視のように見えてしまうケースが多いのです。目の錯覚で、成長とともに目頭の筋肉が発達すると両目の間隔が狭くなり全くわからなくなってしまいます。

 お子さんの目が下の図のように見えたら、両方の目頭の間の皮膚をつまんで「キツネ目」のようにしてみてください。きっと正常に見えるはずです。もともと正常なのですから・・・。

squint.jpg

その上でやはり斜視かもしれないとなったらご相談ください。



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2014年09月15日

水ぼうそうのおさらい(2)

dav.jpg 曜日は医学講座の日。
 なぜなら人間のからだを示す漢字には
 (肉づき)のつくものが多いから。

 脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
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 先週に引き続き水痘(水ぼうそう)について復習してみようと思います。

    《水ぼうそうの診断》

cpox1.png 典型的な水疱を形成した時期の水ぼうそうの診断は比較的簡単です。一目でわかるという感じです(右の写真の乳首の下の方にある一番大きな発疹)。でも、発疹の起こり始めは、虫さされの直後や入浴後などに見られる赤い斑点などとそっくりで、水ぼうそうと断定できないこともあります(写真の左上の方や乳首のすぐ上の発疹)。そんなときは翌日もう一度来院していただくことで水ぼうそうと他の原因の発疹とを見分けることができます。
 とにかく見ることで診断がつく病気です。

 診断に困るケースについていくつか例を挙げておきます。

(1)保育園や幼稚園の先生が発疹を見つけ、「水ぼうそうかもしれないので医者にかかってください」と言われてすぐに受診した場合

 集団生活の場では感染症は目の敵にされます。それで園の先生、特に保育園の先生は我々小児科医より初期の発疹を見つけるのが得意です。しかも当たる確率も高いのです。でも、園の先生はいいですよね。「医者に行っておいで」と言えば、そのあと診断に責任を持たなくてもいいのですからね。
 ところが我々小児科医は、先程お話しした「虫さされの直後や入浴後などに見られる赤い斑点など」と区別をして診断をつけなければなりません。それができない時はしかたなく「明日またお出で下さい」となります。
 もちろん、保護者の方が発疹を見つけてすぐに来院されたときも同じことになります。

 翌日診察する時のポイントは、もちろん水疱ができているかどうかですが、もう一つ、発疹が増えているかどうかということも大切です。水ぼうそう以外でできた発疹は翌日までに増えることはほとんどありません。

(2)予防接種を受けたのにかかってしまった場合

 水痘ワクチンの1回接種だと約15%の方が接種を受けたのにかかってしまうということが起きます。でも、接種せずにかかった時より軽くなることが知られています。軽さの程度ですが、水疱を形成してくれれば診断はかなり容易になりますが、中には水疱にならないほど軽くなるケースがあるのです。また、初日に数個の発疹ができたきり、それ以上に発疹が増えないケースもあります。この場合、翌日お出でいただいても「う〜〜〜ん」とうなることになります。
 もしそれが本当に水ぼうそうであれば、感染力がありますから、園や学校はお休みしなければなりません。保護者の方の心情(お仕事などをお休みしなければならない)をお察しすると、そう簡単には「水ぼうそう」とも言えません。
 世の中にはそういう小児科医が多いらしく、接種後の水ぼうそうの子が園や学校で集団感染を引き起こすということがけっこうあるようです。

 10月1日から水痘ワクチンは定期接種で2回接種になります。皆さんが2回接種を受けて、「2回接種を受けているから水ぼうそうではありませんよ」と自信を持って言える日が少しでも早く来るように願っています。


    《水ぼうそうの治療》

 水ぼうそうは合併症など引き起こさなければ自然に治る病気です。自然治癒には7日から10日かかります。自然に治るとはいっても、発疹はかゆみを伴いますので、かゆみ止めの乳液状のクスリ(外用薬)や内服薬を使用することが多いです。水疱をかきこわすことで、水疱の中のウイルスが皮膚の別の所に発疹を起こすことの予防の他に、かきこわしから細菌が侵入して皮膚感染症を起こすのを防ぐためです。

 最近は抗ウイルス薬が使われます。ウイルスの発育を抑えて、発疹の数や発疹がかさぶたになるまでの時間を短縮することができます(軽症化)。どれくらい軽くなるかというと、私は「約30%オフ」と説明しています。
 例えば、仮に水疱が100個できるはずだったとすれば70個ぐらいになる、治るまでが1週間だったとすると4・5日になる、という具合です。
 
 日本では、水ぼうそうという診断がつくとほとんどの医者がこの手のクスリを処方しますが、欧米では重症の場合に厳密に限られています。
 でも、「少しでも軽く済んでほしい、少しでも早く治ってほしい」という親心を思って私も日本の医者として抗ウイルス薬を処方しています。かゆみ止めだけで行くか、抗ウイルス薬を飲むかご相談の上でご希望があればということにはしていますけど。

 合併症の治療はそれぞれの疾患によって違ってきますので、ここでは触れません。

 
    《水ぼうそうの予防》

 もっとも確実な水ぼうそう予防の方法は水痘ワクチンの2回接種です。

 はしか(麻疹)はかつて年間に500人以上の方が命を落とすという疾患でしたが、2回接種の定期化と接種キャンペーンのおかげで現在撲滅寸前の状態にまでこぎつけています。

 水ぼうそうは現在年間100万人位の方がかかって、約4000人の方が入院し、約20人の方が命を落とす(いずれも推定)という状況です。重症度こそはしかに比べれば軽いと言えますが、それでも100万人もの方が水ぼうそうにかかるということは、医療経済的に見ても決して軽視できない数字であると言えます。

 水痘ワクチン2回接種の普及によって、近い将来水ぼうそうが絶滅できるといいですね。

 水痘ワクチンについては、このブログの「こども診療所予防接種講座」をご覧ください。

 それ以外の予防についてお話ししましょう。それ以外というのは、「水ぼうそうの子(人)と接触してしまった、何とか発病を予防できないか?」という場合です。

(1)追っかけ免疫
 水ぼうそうの人と接触して72時間以内に水痘ワクチンを接種すれば、発病を抑えられるか、あるいは軽く済ますことができるということは、以前から言われていて、実際に接種を行っている医療機関もあります。医者の間ではこれを「追っかけ免疫」と呼んでいます。ウイルスが先に入ってしまったけれど、そのウイルスを追いかけるようにワクチンを接種するということです。

 この場合には任意接種ということになり有料です。任意接種の場合、接種料金は各医療機関が定めた金額になりますが、1万円近い金額に設定している医療機関が多いのではないかと思います。かなり高額なワクチンですので、それほど普及しているわけではありません。

(2)予防投薬
 水ぼうそうの潜伏期は約2週間です。そこで、発病の日の見当をつけて、水ぼうそうの人と接触したあと7日目ないし10日目から1週間、水ぼうそうの治療に使う抗ウイルス薬を、実際に治療に使う量の半分を飲んで発病を押さえ込もうという治療です。

 こちらも、保険診療ではありませんので、全額自費となります。抗ウイルス薬もそれなりに高価なクスリです。

 では、追っかけ免疫と予防投薬ではどちらがよいかというと、これにはさまざまな意見があります。

 追っかけ免疫は発病を完全に抑えられるという保証はありません。発病してしまえば水ぼうそうにかかった状態ですから、お休みしなければいけないことになります。うまく発病を抑えられれば、体内に水ぼうそうに対する免疫ができます。もちろん1回接種としての免疫です。

 過去に任意接種で水痘ワクチンを1回接種していた場合に、追っかけ免疫で2回接種と同じ効果が得られるかというと、それには条件があります。1回目の接種から4・5年以内だったら2回接種とほぼ同じと考えていいだろうと思います。それ以上間隔があいてしまったら、1回接種と同じに近いと考えたほうがいいと思います。

 一方、予防投薬の場合、ほぼ確実に発病を抑えることはできます。しかし、水ぼうそうに対する免疫はできません。大人の方はお子さんに比べれば水ぼうそうの人と接触する機会は格段に少ないですから、たとえ免疫はできなくても発病を確実に抑える方法を選ぶというのはかなり有力な考え方だと思います。

 そういう見方からすると、お子さんには「追っかけ免疫」を、大人の方には「予防投薬」を、という図式ができそうですが、そう簡単なものではないと思います。

 でも、水痘ワクチン2回接種が普及すればこういう心配もしなくて済むわけですから、「水痘ワクチン待望の定期接種化」というところです。

 それから実際に水ぼうそうにかかったことがある場合、お子さんでも大人の方でも、「追っかけ免疫」も「予防投薬」も必要ありません。



 「水ぼうそうのおさらい」第2回の今日は水ぼうそうの診断と治療、そして予防のお話でした。私の個人的な意見も入っていますので、日本全国どこの医者に行っても同じ対応とは言えないと思いますが、参考になさってください。

 「水ぼうそうのおさらい」は今回で終了です。ご覧いただきありがとうございました。


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2014年09月08日

水ぼうそうのおさらい(1)

dav.jpg 曜日は医学講座の日。
 なぜなら人間のからだを示す漢字には
 (肉づき)のつくものが多いから。

 脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
 あなたはいくつ書けますか?


水痘ワクチンの定期接種化が決まったところで、わりとポピュラーな感染症である水痘(水ぼうそう)について復習してみようと思います。

    《水ぼうそうってどんな病気?》

水ぼうそうは水痘帯状疱疹ウイルスというウイルスで起きる発疹の出る感染症です。飛沫感染、空気感染、接触感染で広がります。くしゃみなどで飛び出したウイルスが直接他の人に侵入するのが飛沫感染、くしゃみなどで飛び出したウイルスが空気中で水分が蒸発して乾燥しても感染力を維持していて他の人に侵入するのが空気感染、水ぼうそうの発疹(水疱)の中にいるウイルスが水疱が破れて外に出て他の人に侵入するのが接触感染ですが、感染経路がたくさんあるというだけでなく、乾燥してもなお生きているというとても感染力の強いウイルスです。

潜伏期間は約2週間ですが、かなりきっちり2週間で発病します。兄弟姉妹で感染した経験をお持ちの方はよくご存じと思います。

発疹の出現する1〜2日前から発熱を見るケースが約70%あります。まったく発熱しないこともありますが、他の人への感染はこの頃から始まっています。

発疹は皮膚の表面の赤い斑点から始まり、次第に水ぶくれになり、その後膿を持ったようになります。かゆみが強くなることが多いです。最終的にはかさぶたになって終わります。治療をしなければ発疹の数は平均で250〜300個といわれています。そしてかさぶたになるまで1週間から10日かかります。

下の写真は左から順番に水ぼうそうの経過を示しています。(同じ患者さんではありません)

cpox1.png  cpox2.png  cpox3.png
       (写真はすべてクリックで拡大されます)

園や学校はお休みしなければいけない病気ですが、すべての発疹がかさぶたになった時点(下の写真左)で登園・登校できます。かさぶたが取れるまで待つ必要はありません。

cpox4.png  cpox5.png  cpox6.png
       (写真はすべてクリックで拡大されます)

発疹は皮膚だけでなく粘膜の部分や頭髪の中にもできます。上の真ん中の写真は口の中の水疱(水ぶくれ)です。まぶたやおちんちんにできることもあります。

手のひら(上の写真右)や足の裏にできることもありますが、これらの部分は皮膚の表面(角質)がとても厚いので、なかなかかさぶたになりません。全体的にかさぶたができていれば、これらの部分はお休みの対象になりません。

集団生活の場で感染することが多いのですが、家族内で感染すると家庭では家族同士がとても近い距離で生活していますので、侵入するウイルスの量が増え、あとから発病した人のほうが発疹の数が多くなる傾向があります。

    《水ぼうそうの重症度》

一般的な水ぼうそうの概略をお話ししましたが、次に水ぼうそうの重症度についてお話しします。

水ぼうそうの概略の中で「治療をしなければ発疹の数は平均で250〜300個」と書きました。水ぼうそうの重症度を表す一つの指標は「発疹の数」です。

発疹の数が50個以下であれば「軽症」に分類されます。発疹の数が500個以上を「重症」と分類します。その間が「中等症」です。これらの分類は水ぼうそうそのものの重症度と考えてよいでしょう。

一方水ぼうそうは様々な合併症を起こしやすいことで知られています。主なものは肺炎・気管支炎、脱水症、熱性けいれん、脳炎・脳症、髄膜炎、小脳失調などです。これらの合併症で入院が必要になると「重症化」したとされます。

水ぼうそうにかかった患者さん(小児も成人も含めて)のうち、400人に1人以上が重症水痘として入院を余儀なくされています。ただし、入院した患者さんのうち小児の割合は37.5%で、成人の入院の方が多いです。

小児では発疹数での重症例より合併症での重症化のほうが多いのが特徴です。成人では水ぼうそうそのもの(発疹数)が重症になる傾向があります。

水ぼうそうはわりとポピュラーな感染症ではありますが、決してあなどれない病気だと考えてください。

「水ぼうそうのおさらい」第1回の今日は水ぼうそうという病気の全体像を見ていただきました。来週は水ぼうそうの診断と治療、予防などについて触れてみたいと思います。どうぞお楽しみに。


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2014年01月27日

インフル:今シーズンの特徴

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インフルエンザが大流行です。区内でも学級閉鎖・学年閉鎖、幼稚園では休園のところも出ています。

大流行になると、今シーズンのインフルエンザの特徴が少しずつわかってきます。江戸川区内の小児科医の集まりでの情報交換から、今シーズンのインフルエンザの特徴が浮かび上がってきました。

まず、全体的な流行状況から行きますと、今シーズンは流行の始まりが例年よりだいぶ遅かったです。今月の10日頃まではインフルエンザにかかったお子さんを診察するのは本当に少なかったです。ところがその後急速に流行が広まり、あっという間に江戸川区全体に広がってしまいました。

それから例年ですとまずA型のインフルエンザが流行しやや遅れてB型が流行するのですが、今シーズンはA型もB型も一緒に流行しています。ただし、これは小児のインフルエンザの話で、成人ではほとんどがA型です。

以上が全体的な流行の特徴です。

次にインフルエンザにかかったお子さんの個々の症状を見てみますと、二つの特徴を挙げることができます。

(1)例年より症状の軽いお子さんが多い。
(2)インフルエンザの予防接種受けたお子さんがインフルエンザにかかると検査で陽性だと判明するのに時間がかかる。

一つずつ詳しく見ていきましょう。

(1)例年より症状の軽いお子さんが多い。
 例年ですと、たいていのお子さんが高熱が出て、だるさが強く、診察室に入ってくる時の表情や体の動きで「あ、この子はインフルエンザだな」と、ある程度予測がついたものでした。ところが今シーズンは、熱が出てもすぐに37℃台以下に下がってしまう、本人は元気ピンピンでニコニコ笑いながら診察に入ってくるというような様子で、「いくら何でもこれでインフルエンザはないだろう」と思いつつも園や学校でのはやり具合から渋々(?)検査をしてみると意外や意外、インフルエンザだったりするんですね。
 原因は?・・・・・・・・・・・・わかりません。

(2)インフルエンザの予防接種受けたお子さんがインフルエンザにかかると検査で陽性だと判明するのに時間がかかる。
 こちらも原因はわからないのですが、とにかく遅いんです。こども診療所では、38℃を超えて8時間(8−8)というのを一応の検査の目安にしています。これでたいていは正しい診断が行えていました。もちろん予防接種を受けたお子さんも含めてです。
 ところが今シーズンは予防接種を受けたお子さんに限ってこの基準だと陽性(インフルエンザ)と判定できず、「熱の動きによっては明日もう一度ね」と申し上げて翌日再検査をすると、やっとこさ陽性反応が出たりするんです。
 インフルエンザ治療薬は発病してから48時間以内の治療開始が原則ですから、時間切れにならないように注意しながら再検査をしていますが、なぜそうなるのか本当にわかりません。

 というわけで、毎年申し上げていますが、「検査は早すぎず遅すぎず」がとても重要ですから、学校や園で「インフルエンザの検査をしてもらってください」といわれても慌てて医療機関に飛び込む必要はありません。ほとんどの場合翌日の検査で十分治療には間に合いますから、お子さんの症状を見てしばらくおうちで様子を見るようにして下さい。




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2013年12月16日

感染性胃腸炎の治療(5)

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先週の記事の最後に書きましたように、今週掲載予定の「ロタウイルスワクチン」のお話は、明後日水曜日の「ヤブログ予防接種講座」になります。

明後日必ず見て下さいね。

ところで今日は先週で終了したはずの連載の続編が登場します。それは「経口補水」についてです。

「脱水になったら点滴をして水分を補う」あるいは「脱水になりそうだから点滴で水分を補う」ということは、もうほとんど一般常識化しています。そしてそうなる前に口から飲んで脱水を防ぐのが「イオン水」。これもほとんど常識ですね。

ところが最近「経口補水液」という商品のことを耳にするようになりました。「OSー1」という商品が有名ですね。最近所ジョージが「OSー1」のテレビコマーシャルに出演しているのを見ました。

「経口補水液?」。そうです。読んで字の如く口から飲んで水分を補う液体のことです。

「じゃ、イオン水飲むのと変わらないじゃない。イオン水と経口補水液ってどこが違うの?」

という疑問に答えるのが今日のお話です。

実は最近消化器病の専門の先生(小児科)から経口補水療法のお話をうかがう機会があったのです。早い話がその受け売りみたいなものです。

日本のような先進国では脱水の治療には点滴が一番確実で手っ取り早い方法です。でも途上国ではそうはいきません。医療へのアクセスがそう簡単なものではないからです。そのために最貧国と呼ばれるアフリカの国々ではごく普通の下痢や嘔吐で起こった脱水のためにかなり多くの命が失われています。

それを防ぐために、途上国にはUNICEFなどの国際機関からコップ1杯の水に溶いて飲ませる経口補水用の粉末が国際援助として供与されています。私が20年程前から約10年間関わってきたインドネシアでは、「オラリット」という名前の経口補水用粉末がこどものいる家庭に配られていました。

オラリットの成分はブドウ糖と塩です。それを水に溶いたものをORSと呼びます。Oral Rehydration Solutionの頭文字を取ったものです。「口から飲む水分補給の溶液」という意味です。「経口補水液」と言ってもいいでしょう。塩は水に溶けるとナトリウムイオンと塩素イオンに別れます。

「じゃ、やっぱりイオン水と変わらないじゃない!?」という声が聞こえそうですが、組成は同じでもイオン水とORSとで大きく違うのがブドウ糖とナトリウムの濃度です。イオン水ではブドウ糖とナトリウム、このどちらの濃度もORSよりかなり高く(濃く)なっています。

溶液の中に溶けている物質の濃度が高くなると、その溶液の浸透圧というのが高くなります。浸透圧が高いほうがブドウ糖やナトリウムを体内に補給する効率がよくなるようにも思えますが、実際は浸透圧があまり高くなってしまうと、腸からの吸収が悪くなってしまうのだそうです。

イオン水はおいしく飲んでもらうためにブドウ糖やナトリウム以外にも色々な混ぜものをします。これが浸透圧を高めてしまうので腸からの吸収という点ではあまりよくないのだそうです。ORSは浸透圧を適正に保つことを重視していますので腸からの吸収はよいのだそうですが、どうしても味が悪くなるそうです。

以上がイオン水とORSの違いの一つですが、ORSを治療として正しく活用する「経口補水療法」となると、さらに大きな違いが出てきます。

「OSー1」を例にとってお話ししますと、「OSー1」の説明書には「1日に体重1kgあたり50mlを目安の飲ませて下さい」と書いてあります。どのように飲ませるかは書いてありません。例えば体重10kgの赤ちゃんだったら1日に500ml飲ませるわけですが、10回に分ければ1回50ml、20回に分ければ1回25ml、50回に分ければ1回10mlということになります。

「1日50回なんてとても無理」と思われるでしょう。ところが「経口補水療法」というのは、ORSを1回5ml、1分から2分おきに最低数時間飲ませ続けるのが正しいやり方なのだそうです。5mlというのは大体ペットボトルのキャップ1杯分に相当するそうです。そしてこの方法は吐いている最中でも続けてかまわないそうです。

1日50回どころか1時間に50回ですよexclamation×2

正しい経口補水療法には「根気と情熱」が不可欠だとのお話でした。

こんな大変な経口補水療法ですから、正しい経口補水療法のやり方が「OSー1」の説明書に書いてあったら、誰も買いませんよね。だから「1日に体重1kgあたり50mlを目安に飲ませて下さい」としか書いてないんですね。企業のずるさといえばずるさですが、「経口補水療法にも使うことのできる経口補水液という意味なんですよ」と言われてしまえばそれ以上突っ込めませんからね。

でも、これだけは覚えておいて下さい。経口補水には液の組成も大事だけれど、本当に大事なのはその大変な飲ませ方だということです。大変な飲ませ方をしないのだったら、経口補水液(ORS)もイオン水もたいした違いはないということです。

これには事実の裏付けがあるのです。

だいぶ前にバングラデシュで大洪水があって、被災地でコレラが発生してしまいました。ひどい下痢で脱水になる子どもが続出しましたが、あまりの数の多さに外国からの医療援助をもってしても、何時間も診察を待たなければならないという状況でした。待っている間にどんどん重症になり順番が回ってきた頃には瀕死の状態になってしまうことが多かったそうです。

そのときに順番を待つ人すべてにコップとスプーンが配られ、コップの中にORS(経口補水液)が注がれました。そして「順番がくるまでずっとこの水をスプーンで飲ませなさい」と指導がなされました。順番を待っている間は何もやることがありませんから、お母さん(お父さんもいたかもしれませんね)はひたすらORSを飲ませ続けました。そして診察の順番になるとたいていの子はそのままORSを続ければ問題ないと言えるまでに改善していたのだそうです。

*******************************

 これで「感染性胃腸炎の治療」シリーズは本当に終了です。ご愛読ありがとうございました。

 前回までは過去に掲載した記事に手を加えたものでしたが、今回の記事は新作書き下ろしです。




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2013年12月09日

感染性胃腸炎の治療(4)

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 今回は「亭主の小遣い」という話です。いったい何のことかわからないって?読めばすぐわかります。

 ロタウイルス以外のウイルス性胃腸炎(感染性胃腸炎)に対しては絶飲食が一番効果的というお話の続きです。

 さて、親子ともにつらい断食を乗り越えて体調が回復してくると、食べ物・飲み物を再開することになります。再開の仕方は「お子さんが欲しいと言うまでお母さんのほうから絶対にお勧めしないでください。また、欲しがっている量を満足するまであげないでください。いつも腹減った〜と文句を言うぐらいがちょうどいいと思ってください。」ということなのですが、このように説明してもピンと来ない方が多いのです。そこで登場するのが「亭主の小遣い」です。

 「ご主人に向かって『あなたそろそろお小遣いなくなるんじゃないの?』なんて奥さんのほうから訊きますか?ご主人が『5000円くれ』と言ったらその通りにあげますか?」こう質問すると。それまで「ド〜モよく理解できない」という表情をなさっていたお母さんの表情が「はい!わかりました」という表情に変わります。

 そして次にお母さんからでる質問が「どんなものを食べさせたらいいでしょうか?」です。

 これに対する私の答えは「この子が大好きなもの、何でもいいですよ。ただし食べさせる量はこの子が望む量の半分以下、亭主の小遣いですね」。

 「食事の再開は、亭主が小遣いをせびりに来たと考えてやってくださいね」と言いつつお見送りをいたします。

 以上は離乳食を卒業して家族と同じものを食べているお子さんの場合です。次に離乳食中の赤ちゃんについてお話しします。

 感染性胃腸炎に限らず、生後5〜6か月以降1歳未満の赤ちゃん、つまり離乳食を食べている時期の赤ちゃんが下痢をしたり嘔吐をしたりすると、「離乳食を一時やめて母乳かミルクだけにしましょう」ということはよくあります。そして病状が回復して、「さあ離乳食を再開しましょう」というときにどうするかというお話です。

 私は「離乳食を始めからもう一度復習してみましょう。」とお話しします。どんなものをどの程度あげたらいいのか迷う必要はありません。ホントにドロドロの離乳食初期の段階から再スタートすればいいのです。ただし、1日の離乳食の回数や食べる量は病気にかかる直前の回数と量でかまいません。もちろん無理強いはいけません。

 復習とはいっても今までと同じペースでは時間がかかります。そこでペースに関しては「1日1か月のペースで進めちゃってください。もちろん体調を見ながらですよ。」と説明します。

 離乳食ですから1歳近い赤ちゃんでもせいぜい6か月分です。1週間もかからずに病気の直前の状態に戻すことができます。しかもついこないだまでやっていたことですから、お母さんもどんなものを食べさせたらよいのかがすぐ理解できます。

 この方法でやっていただくと、「離乳食を再開したらまた下痢になっちゃったんです」と来院される方はほとんどいらっしゃいません。

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 これで「感染性胃腸炎の治療」シリーズは終了です。ご愛読ありがとうございました。


 そして次回はロタウイルスワクチンについてお話しいたしますが、こちらは治療ではなくて予防接種ですので、掲載は来週の水曜日、「ヤブログ予防接種講座」となります。ご了承下さい。



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2013年12月02日

感染性胃腸炎の治療(3)

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 前回のノロウイルスに続いて今回はロタウイルスによる感染性胃腸炎のお話です。

 このシリーズの第1回でもお話しいたしましたが、ロタウイルスワクチンが国内でも承認されています。ワクチンについては、このシリーズの最後にまとめてお話ししようと思います。まずは、ロタウイルスに感染してしまったときにどうするかということについてご理解いただきたいと思います。

 ロタウイルスによる感染性胃腸炎は白色便性下痢症とも呼ばれるように、下痢便の色が白くなり、ひどいときには米のとぎ汁のようになるのが特徴です。日本ではほとんど冬の病気で、乳幼児冬季下痢症とも呼ばれます。下痢便の色に特徴があるので「下痢症」という名が付けられていますが、嘔吐もともない小さな赤ちゃんがかかると脱水になりやすい病気です。

 感染力がとても強く、小児科の病棟などで一人でもロタウイルスの胃腸炎が発生すると、数日の内に病棟全体に広がってしまうことがあります。

 特効薬といわれるような治療法もありませんし、下痢や嘔吐を鎮めるクスリもほとんど効きません。1週間ぐらい症状が続いて自然に治ります。この1週間の間、どうやって脱水にならずに持ちこたえるかが治療の中心になります。「飲まない・食べない」が基本であることは今まで力説してきた通りなのですが、ロタウイルスに感染したお子さんは発病して2〜3日たつと食欲が出てきて、飲まない食べないを1週間も続けることは困難ですし、ノロウイルスと違って、飲まなくても食べなくても下痢・嘔吐が続くので、入院して点滴をしなければならないことも少なくありません。

 逆に、脱水にさえならなければ、1週間後には自然に治る病気なので、ロタウイルスの対処法は医者の間でも2通りに別れています。一つは基本に忠実に、飲み物・食べ物をギリギリのところまで制限して、下痢・嘔吐の回数を最小に抑え、脱水になるのを少しでも遅らせるようにしながら回復を待つという方法。もう一つは、飲まなくても食べなくても下痢・嘔吐は続くし、本人が食べたがってしょうがないのなら、好きなように飲み食いさせてしまおうという考え方。どちらも、それで脱水になってしまったらしかたがないから点滴をしましょうという点では同じです。

 で、私はどちらの一味かというと、ロタウイルスだという診断がついたら、初日は基本通り「絶飲食(飲まず食わず)」を実行していただきますが、それ以降食欲があるなら好きなように飲み食いさせてしまおうという一派です。「オイオイオイ、今まで言ってきたことと正反対じゃないか!?」と思われるかもしれませんが、今まで「下痢・嘔吐には断食を!」と申し上げたのは、それによって回復が早まるからです。事実ほとんどのウイルス性胃腸炎は断食によって回復が早くなります。でもロタウイルスは別です。

 どんなに我慢しても、どんなに自由にしても、治るまでの日数は変わりませんし、脱水になる危険性も変わらないのです。これは長年の私の経験です。しかも本人がすごく食べ物・飲み物をほしがっているとなったら、我慢させるだけかわいそうだと思うのです。

 我慢するのは早く回復するというメリットがあるからで、我慢させても結果がちっとも変わらない(なんのメリットもない)のなら、我慢させるだけかわいそうだと思いませんか?

 ロタウイルスは、便さえお持ちになれば30分以内に結果がわかる簡単な検査キットがあり、診断は比較的容易です。ですからこども診療所では、ロタウイルスという診断がついたお子さんにはクスリも出さず、「明日から好きなものを自由に飲み食いしていいですよ」と申し上げています。「ただし、それで脱水になっちゃったら点滴ですよ」とも付け加えます。そして毎日、あるいは1日おきに様子を見せていただくために来院していただきます。さいわいなことにこの方法で点滴しなければならなくなるお子さんはこども診療所では年に一人いるかいないかです。

 しかし、自由に飲み食いする方法がいいという医者は少数派です。ほとんどの医者は下痢止めや吐き気止めを処方して、「固形物はやめて水分だけを少しずつこまめに飲ませてください」と指導しています。そしてこの方法のほうが基本に忠実であることは私も認めています。でも、この方法に回復を早めるというメリットがあまりないのなら、自由に飲み食いできるほうがお子さんは楽ではないかと考えているのです。

 最後に繰り返しますが、自由飲食法はロタウイルスの場合だけです。他のウイルスによる胃腸炎に対しては、「心を鬼にして」断食させてください。



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2013年11月25日

感染性胃腸炎の治療(2)

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 このシリーズでは冬場の感染性胃腸炎の対処法についてお話ししていますが、今回と次回は中でも有名なノロウイルスとロタウイルスを採り上げて、病気の特徴とそれに合わせた具体的な対処法をお話しいたします。

 今回はまずノロウイルスです。ノロウイルスという名前が有名になったのはこの10年ぐらいのことですが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎はそれよりもずっと以前から毎年冬には流行していました。でもその頃はまだノロウイルスではなく小型球形ウイルスと呼ばれていましたので、一般の方にはなじみになりにくかったのだろうと思います。

 感染経路は、下痢便や吐物を介しての経口感染とくしゃみなどによる飛沫感染です。生の貝類による食中毒として発病することもあります。予防には便や吐物の処理を厳重にすることやうがい・手洗いが求められます。

 ノロウイルスに感染すると突然激しい嘔吐に見舞われます。数時間にわたって繰り返し嘔吐し、10回以上嘔吐することも珍しくありません。特徴的なのは、この数時間に及ぶ初期の嘔吐が収まったあとしばらく全く吐かなくなることです。

 診察したときの特徴は、胃や腸が動くときの「グルグル」という音が非常に弱くなる、あるいは全く聞こえなくなることです。つまり胃腸の動きが極端に悪くなっているのです。ですから飲んだものでも食べたものでも胃から先へ進めず、ちょっとしたきっかけで吐いてしまうのです。この特徴は一旦吐き気が収まったときにも続いています。

 ところが何回も吐き続けたお子さんはのどが渇いたりおなかがすいていたりしますから、吐き気が収まると飲み物・食べ物をほしがります。お母さんのほうも水分補給・栄養補給が気になりますからついつい飲み物・食べ物を与えてしまいます。でも胃腸のほうは相変わらず動いていないわけですから、また吐き出してしまいます。こうなってしまうと治療はちょっと長引きます。

 ノロウイルス退治の要は、一旦吐き気が収まっても、お子さんがどんなに飲み物・食べ物をほしがっても、心を鬼にして”断食”(絶飲食)を貫くことなのです。吐き気が収まったあと1回ぐらいは飲んでも吐かないんです。それは吐いたあとの隙間に飲み物が入っただけで、さらに飲めば再び吐いてしまうんですね。胃腸が動いていないのですから当然です。その辺を理解していないと、吐き気がおさまった→飲ませてみた→吐かなかった→また飲ませた→また吐いた、になっちゃうんですね。せっかくの”断食”の努力が儚く(はかなくと読みます)なっちゃうんですね。吐かなくなってほしいのはお子さんのほうなのにね。

 クスリを使って胃腸をムリヤリ動かすことは可能です。でもクスリの効き目が切れたとき、胃腸が本来の動きを取り戻していなかったら、飲食をすることでまた吐いてしまいます。

 ところが、人間のからだは胃の中が空っぽになると「次を入れてくれ〜」と勝手に動き出すようにできているのです。ものすごくおなかがすいたときに胃のあたりで「グググ〜」という音がして恥ずかしい思いをした経験はどなたもがお持ちのはずです。これを待つのが絶対確実なのです。

 でも、胃腸がなかなか動かなかったらどうするの?と思われるかもしれません。でも、ノロウイルスによる胃腸炎の場合には、1日我慢すれば胃腸はほとんど元通りに動くようになるのです。名前は「ノロ」でも治るのは「ハヤイ」のです。

 ですからこども診療所では、ノロウイルスがかなり確実に疑われるお子さんにはクスリは一切出していません。ただし、診察にいらしったときにまだ吐き気が強い場合は別です。吐き気止めの坐薬などを差し上げて一時的には吐き気を止めるようにします。でも、絶飲食だけは心を鬼にして守っていただくようにしています。

 心を鬼にして絶飲食を貫いていただきたいのですが、吐いたり下痢したあとで水分を失っていますからお子さんは当然のどが渇きます。食欲はそれほどでもないケースが多いのですが、のどの渇きはどうしようもありません。それを徹底的に我慢させるというのは他人である医者はともかく、現場に居合わせる肉親の情としては耐え難いものがあるでしょう。

 そこで私はこうも付け加えます。「どうしてものどが渇いて仕方のないときには、お宅の冷蔵庫でおいしい氷を作ってあげて、そのひとかけらを噛まずに溶けるまで舐めさせてください。1個だけですよ。しかもホイホイあげちゃいけませんよ。味はジュースでもポカリでもこの子の好きなもの何でもいいです。氷のひとかけらが溶けたからって、水分としては物の数にも入りません。でも、溶けるまでに時間がかかるし、好きな味なのでなんとなく食べたような、飲んだような気がして時間が稼げるんです。」

 この氷を「情けの氷」と呼んでいます。

 さらに、「冷蔵庫でこの氷を作っている間は、どんなに欲しがっても他の飲み物は一切あげないでくださいね。」とも付け加えます。通常家庭用の冷蔵庫の製氷皿で氷を作ると、芯まで完璧に凍るまで約3〜4時間かかります。「3〜4時間我慢させてくださいね。」とお願いすると、親心から2時間ぐらいで飲ませてしまうことがあるのですが、「氷ができるまで」とお願いすると、不思議と現物が目の前に現れるまで待てるものなんですね。この3〜4時間が重要なんですね。この間、おなかは全く仕事をしないですむんです。おなかを完璧に休ませてあげることで回復が早まるのです。

 でも、この方法は3〜4歳以上のお子さんなら問題ないでしょうが、赤ちゃんには適当ではありません。なぜなら小さな赤ちゃんは口の中に入れた氷をそのまま飲み込んでしまう恐れがあるからです。胃の中に飲み込むならまだしも、間違って気管のほうに入ってしまったら大変ですから、赤ちゃんには別の方法を採ります。

 ガーゼのようなものにジュースなどをしみ込ませてチューチューと吸うんですね。水分量としてはたいしたことはありませんが、味がすることとけっこうな時間吸っていられますから、時間稼ぎには十分です。

 そして、診察が終わってこう申し上げます。「おなかが病気になったと考えるのではなくて、おなかが病人なんだと考えてください。病人に仕事をしろとは言いませんよね。何もしなくていいからあんたは休んでらっしゃいって言うでしょ。おなかにものを入れるということは病人にムリヤリ仕事をさせるようなものなんです。病人であるおなかさん(尾中さんあるいは尾仲さんという苗字の方は実際にいらっしゃいます)をいたわってあげてくださいね。」と言いつつお見送りをいたします。



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2013年11月18日

感染性胃腸炎の治療(1)

dav.jpg曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを示す漢字には(肉づき)のつくものが多いから。

脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
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 季節が秋から一気に冬に向かっているような今日この頃ですが、ノロウイルスを初めとするウイルス性の胃腸炎=感染性胃腸炎が増加しているというニュースが流れてくると、私たち小児科医は「ああ、また冬が来たんだな」と実感します。

 感染性胃腸炎による嘔吐・下痢・脱水については、5年前のの2月から3月にかけて、ヤブログ得意のシリーズものとして第1回の連載をいたしました。続いて3年前の12月には、一部を加筆訂正した同じシリーズを再連載いたしました。今回で3回目の連載になりますが、冬場の感染性胃腸炎対策はとても重要ですので、ぜひお読み下さい。

 基本的な内容は前回、前々回とあまり変わりませんが、この3年間の間にロタウイルスに関してはワクチンが国内でも承認され、多くの医療機関で接種が行われています。そこで今回はロタウイルスワクチンについての記載もしてみようと思っています。

 では「新版 感染性胃腸炎の治療」、第1回は「下痢と嘔吐と脱水」についてです。

 毎年冬になると「嘔吐下痢症」とか「冬季下痢症」とか「白色便性胃腸炎」とか「ウイルス性胃腸炎」とか「感染性胃腸炎」とか呼ばれる、ウイルス性のおなかに来るタイプの風邪(「胃腸風邪」という呼び方もあります)がはやります。

 嘔吐や下痢で来られたお子さんの診察が終わって、「風邪ですね」と申し上げると、「エーッ!がく〜(落胆した顔)だって咳も鼻汁も出てませんよ!?」とビックリされる方もおられます。でも、風邪は風邪なんです。のどが赤くなっているお子さんがほとんどですし、なによりも、これらの胃腸炎を起こすウイルスの中には、夏風邪の原因ウイルスとして有名なものもあるのです。

 アデノウイルスとかエコーウイルスとかコクサッキーウイルスとかは、三大夏風邪であるプール熱やヘルパンギーナや手足口病を引き起こすウイルスとして知られていますが、冬場の胃腸炎の原因にもなります。「胃腸風邪」という呼び方はなかなかいいアイディアだと思います。

 病名がたくさんあって、ウイルスの種類もたくさんあるので、特定のウイルスが特定の病名の風邪を起こすように思われるかもしれませんが、「風邪の原因になることもあるウイルスによって起こる下痢や嘔吐」という点ではみな共通なのです。そして、「激しい下痢や嘔吐によって脱水になる恐れがある」という点でも共通しています。

 私が医者になりたての頃(30年以上前)、「こどもの下痢や嘔吐が長く続くと脱水状態になって、生命に危険が及ぶこともあるんだよ!」と一生懸命説明したのは医者のほうでした。最近では皆さんが脱水の知識を身につけられて、「下痢・嘔吐には水分補給」と医者が言う前に、「脱水の心配はありませんか?」とお訊きになる方が増えてきています。

これは医者としては喜ばしいわーい(嬉しい顔)ことなのですが、脱水を恐れるあまり「とにかくたくさん飲ませなきゃ・・・」と考えてしまう方もおられて、診察に来られると「飲ませるたびに吐いちゃうんです」とか「飲むとすぐ下痢しちゃうんです」と訴えるケースがけっこう見られます。
 
 そんなとき「じゃあ、飲まないときはどうなんですか?飲まなくても吐くんですか?飲まなくても下痢するんですか?」とお訊きすると、飲まなくても吐いたり下痢するというお答えももちろん返ってきますが、「飲まないときは吐いてません、下痢してません」というお答もけっこう返ってきます。

 私が「だったら飲ませなきゃいいんですよ。」と申し上げると、「こいつホントに医者なんだろうか?脱水のこと知らないんじゃないだろうか?」と、「口には出さねど目が語る」という感じで見返されてしまいます。

 私はそういう冷たい視線には慣れていますから、少しもたじろがずに説明を始めます。「吐いたり下痢したら脱水にならないように水分を補給する。するとまた吐いたり下痢をしてしまう。また水分を補給しなきゃと飲ませる。また吐いたり下痢したりする。その気持ちはよくわかりますが、皆さん吐いたり下痢したときには飲んだ分だけが出て行くと思ってるでしょ。そうじゃないんです。吐いたり下痢したりすると胃液とか腸でせっかく吸収した水分とか、そのほかに電解質も一緒に出て行ってしまうんです。つまり1000円貯金して1万円おろしてるようなものなんです。これを繰り返してたら残高はドンドン少なくなっちゃいますよね。ところが、飲まなければ吐かない下痢しないというのは、貯金もしないし引出もしないということで残高はそのまま残ります。飲ませなければ、脱水になるまでに時間をかせげるということなんです。今おうちでやっていることは飲ませるから脱水になるということなんですね。」

 そして最後に、河島英伍の「酒と泪と男と女」の替え歌、「飲んで〜飲んで〜吐いても〜飲んで〜、吐いて〜吐き続けて脱水よ〜〜〜」と歌って説明を終わります。というのは嘘です。いくら何でも心配なさっている親御さんの前でそんな不謹慎なことはしません。でも、飲んだら吐く、飲んだら下痢をするというときには、皆さんにこの歌を思い出してほしいと思っているのは事実です。

 それでは、皆さんの「酒と泪と男と女」、じゃなかった「下痢と嘔吐と脱水と」についての知識を交通整理するシリーズの始まりです。

 下痢・嘔吐が続いているときには、水分を飲ませることによってむしろ脱水を助長しかねないというお話をいたしました。そして、飲ませなければ、脱水になるまでに時間をかせげると申し上げました。でも、ずっと飲まないでいたらいつかは脱水になってしまいます。そこで、もう少し積極的に「脱水を予防する手だて」について考えてみましょう。

 ただし、下痢・嘔吐が始まった初日には「飲まない・食べない」が最良だと思ってください。「脱水予防は2日目から」考えてください。これはとても大事なことです。

 「下痢や嘔吐があるときには水分を補給する」。これはまったく正しい。ただ、皆さんが接する情報にはたいてい「下痢や嘔吐があるときには水分を十分補給する」と書いてありませんか?この「十分」が曲者なんです。この言葉に惑わされて皆さんついつい飲ませすぎになってしまうんですね。もちろん飲んでも吐いたり下痢したりしなければ十分に越したことはないのですが、感染性胃腸炎のときには飲めば飲むほど吐いたり下痢したりということになりがちです。それに食欲もなくて飲ませたいのに飲みたがらないということもあります。そこで私は「下痢や嘔吐があるときには脱水にならない最低限の水分を補給する」と説明しています。

 では脱水にならない最低限の水分というのはどの程度のものなのでしょうか?

 体重10kgのお子さんが仮に下痢も嘔吐もない状態で、ひどく汗をかくこともないとします。その場合、このお子さんが脱水にならない最低限の水分というのは24時間(1日)で約400mlなんです。単純に考えれば、体重(kg)×40=1日の最低水分量(ml)ということです。これを一度に飲ませてしまったら吐いたりしてしまいます。1回に飲む量をなるべく少なくしてなるべく回数を多く飲ませるのがコツです。

 たとえば、「この子を脱水にしないために1日や2日は徹夜してもいい」と決心してくださるならば、1時間毎に17mlの水分を取れば24時間で400mlを達成できます。17mlといえばほんの一口たらーっ(汗)ですが、これがいいんですね。

 ま、これは極端な例なので、ここまでやらなくてもいいですが「1回に飲む量をなるべく少なくして、回数を多く飲ませて最低限の量を確保する」ことを心がけてください。

 もちろんこの数字はからだから出て行く水分(下痢・嘔吐)が全くない場合の数字ですから、吐いたり下痢をして水分が失われたときはその分を上乗せしなければなりません。そのとき気をつけなくてはいけないのは、下痢便や吐物のすべてが水分ではないということです。大雑把になりますが、下痢便や吐物の約80%が水分だと考えて1日の水分量を計算しなおしてください。

 大雑把でいいんですよ!下痢便や吐物をわざわざ量って計算する必要なんてありませんからね。そしてさらにいえば少なめに見積もって下さいね。最低限でいいんですから。
 


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2013年09月23日

インフルエンザQ&A

dav.jpg曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを示す漢字には(肉づき)のつくものが多いから。

脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
あなたはいくつ書けますか?




今週からこども診療所ではインフルエンザ予防接種の予約が始まりますが、知人からインフルエンザに関する原稿を依頼されたので、それをそっくりそのまま掲載いたします。

ほとんど一般的なことで皆さんすでにご存じのことばかりかもしれませんが、復習のつもりでお読み下さい。


インフルエンザ

Q:インフルエンザの主な症状は?
A:基本的には38℃以上の高熱と頭、のど、節々の痛みです。ほとんどの人が咳や鼻水を訴えますが全く出ない人もいます。治療をしなければこの症状が4〜5日あるいはそれ以上続きます。熱は38℃以下の場合もありますがそんなに多くはありません。たいていは39℃前後の高熱になります。
症状そのものは一般的な風邪と大きく変わりませんが、つらさという点ではインフルエンザの症状のつらさは桁外れです。
なぜそうなるのかというと、人間の体に病原体(ウイルスや細菌)が侵入すると人体はその病原体を攻撃する物質を作るようにできていて、その物質の量が多いと病原体を攻撃するだけでなく人体にもつらい症状を引き起こしてしまうからなのですが、インフルエンザウイルスの場合にはこの物質が大量に作られる傾向があるので症状のつらさもひときわ強くなってしまいます。

Q:インフルエンザの治療法は?
A:20年ほど前までは治療薬というのがなかったので、インフルエンザにかかってしまったら鎮痛解熱剤や咳止めなどの症状を和らげるクスリを服用して1週間近く寝込んでいたものですが、現在ではタミフル・リレンザ・イナビルなどといった抗インフルエンザ薬が何種類も開発されていて、つらい症状も2〜3日以内に治まるようになっています。
もちろん診断がつかなければ抗インフルエンザ薬は処方されませんが、発病(主に発熱)してから6〜8時間程度たっていれば10分ぐらいで結果のわかる診断キットもあります。
またこれらの抗インフルエンザ薬は発病後48時間以内に使用を始めないと効果が期待できないということもありますので、インフルエンザの流行期に医療機関を受診する時は「早からず遅からず」といったタイミングが大切です。

Q:インフルエンザの流行期は?
A:インフルエンザウイルスは低温乾燥の環境を好みます。ですから流行期というのは当然冬ということになりますが、2009年に大流行した新型インフルエンザは中国の暖かい地方から夏場にかけて全世界に広がっていきました。ですから冬だけに限られた病気ではありません。冬のような大きな流行にはなりませんが、日本でも夏の間に小さな流行がある狭い範囲で見られることがあります。
余談ですが、低温乾燥を好むということは逆に高温には弱いということなので、40℃以上の環境ではインフルエンザウイルスは増殖する力がほとんどなくなります。ですからインフルエンザにかかった時にはむやみに解熱剤を使わないほうが良いとも言えるのです。

Q:インフルエンザはどのようにしてうつるのか?
A:多くの風邪はのどや鼻の粘膜で増殖した病原体が、咳やくしゃみをしたときに痰や唾液と一緒に飛ばされて空気中に放り出され、その病原体を吸い込んだ人ののどや鼻の粘膜で増殖を始めるという感染経路をとります。これを飛沫感染と言います。インフルエンザも広い意味ではウイルスで起こる風邪と考えることが出来ますから、飛沫感染によって人から人へとうつっていくのです。
「咳エチケット」といって咳をしている人にマスクを勧めるのは病原体の飛沫が飛び散るのを防ぐという意味があります。一方、咳をしていない人がマスクをすれば、飛沫を吸い込まずにすみ、どちらも飛沫感染の予防効果が期待できます。

Q:インフルエンザの感染を防ぐには?
A:まず予防接種が考えられます。インフルエンザワクチンを接種することで体内にインフルエンザに対する免疫(抗体)を作り、インフルエンザウイルスが侵入してきてもその免疫力でウイルスを撃退するもので、かなりの効果が期待できます。
他には一般的な予防法として、過労・睡眠不足を避け、しっかりと栄養を摂り、人前ではマスクを着用し、外出から帰ったらうがい・手洗いを励行することです。
以前はインフルエンザ治療薬(タミフルなど)を予防的に処方することが健康保険で認められていましたが、現在では対象がかなり制限されていて、一般成人の方が健康保険を使って処方を受けることは難しいと思います。

Q:いつ頃から人にうつしてしまうのか?
A:体内に入ったインフルエンザはのどや鼻の粘膜で増殖を始めます。発病する程度の量に増殖するのには1〜4日かかり、これを潜伏期間と呼んでいます。大量のウイルスを一度に吸い込めば発病までの時間は短くなるわけです。
一方、人にうつす程度のウイルス量というのは発病に要するウイルス量より少ないため、実際には発病する前日あるいは前々日から人にうつしてしまいます。しかし、この時期(潜伏期)には全く自覚症状がありませんから皆さん普通に生活して少しずつウイルスをまき散らす可能性があるわけです。ですから、インフルエンザの流行期にはなるべく全員がマスクを着用することをお勧めします。

Q:職場・学校・家庭での感染予防は?
A:インフルエンザの発病には一定量以上のウイルスが必要なわけですから、狭い環境に人が大勢いるところでは感染や発病の危険性は高くなります。一人一人のまき散らすウイルスは少なくても人数が多くなればウイルス量も増えるからですし、口や鼻から飛び出したウイルスの飛沫は距離の二乗に反比例して少なくなります(距離が半分になればウイルス量は4倍になる)ので、たとえば1メートル離れた人と2メートル離れた人では、1メートルしか離れていない人のほうが2メートル離れた人より4倍のウイルス量を浴びることになるからです。
職場や学校や家庭では、そこにいる人の人数を減らすことも、人と人との距離を大きく離すことも容易ではありません。そんなときには時々換気を行ってそこにいるウイルスの量を減らすことが必要になります。
また、職場や学校ではお休みをすることで人への感染を防ぐことができますが、家庭ではそうもいきません。家の中でもマスクをはずさないとか、できるだけ別の部屋で生活するとかの方法をとるしかありませんが、家族の誰かが発病してしまった場合には家庭内での感染はある程度仕方がないと思って下さい。

Q:いつ頃まで人にうつすのか?
A:幼稚園や保育園・小中学校には厚生労働省や文部科学省が定めた基準というのがあって、発病してから5日以上たっていてしかも熱が平熱になってから2日(幼・保は3日)たたないと登園登校が許可されないことになっています。熱が下がって元気になってものどや鼻の粘膜のウイルスがすぐに全く消えてしまうわけではありませんので、人にうつす心配がなくなるまでには2日ぐらいは必要だと考えられています。
特に、抗インフルエンザ薬によって発熱期間が短くなっている現在では、熱が下がった時点でのウイルス量は自然の経過で熱が下がった時に比べるとかなり多くなっているので注意が必要です。
よく風邪は人にうつすと治るといわれていますが全くの迷信です。ですが、感染症には潜伏期間があるということが知られていない時代には現象面だけ見ているとそのように見えたのだと思います。
たとえば、インフルエンザにかかって発病した人が他の人にそれをうつしてもうつされたほうはすぐには発病しません。3〜4日たってうつしたほうの人が治る頃にうつされた人が発病するわけですから、一見病気そのものをその人に渡してしまったかのように見えるわけです。現代でも現象面だけ見ればそのように見えます。
運悪くインフルエンザにかかってしまっても、迷信を信じて一生懸命人にうつそうなどとは考えないで下さいね。



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2013年08月12日

手足口病の診断時期

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さて、しつこいようですが今日もまた手足口病についてのお話です。

先週は水ぼうそうと見分けのつきにくい変わり種手足口病のお話でしたが、今週は変わり種かなと思ったけど実際はそうでもないんじゃないかというお話です。

インターネットで手足口病の情報を見ますとたいてい次のように書いてあります。

「まず発熱が見られます。熱は出ないこともありますし、微熱のことも高熱のこともあります。この頃からのどの痛みを訴えます。熱が下がると手のひらや足の裏に赤い発疹が出てきます。口の中にも口内炎ができてとても痛がります。」

確かに普通はこのような経過をとります。

ところが今年は、「熱があるようなないような状態なのだけれどのどを痛がって食欲がないんです。」という訴えで来院される方が多いのです。去年だったら、聴診器をあててのどの奥を見てもたいした変化は見られないので、「ま、軽い風邪でしょう。のどの炎症をしずめるおクスリを出しますから、それを飲んで様子を見て下さい。」でお帰りいただくところですが、今年は手足口病の大流行というアタマがありますから、「ちょっと手を見せてね」と続きます。

そうすると、あるんですねぇ、赤い小さな斑点が・・・。

そうするともうそこで「手足口病」の診断がついてしまいます。でもこの時期にはまだ明らかな口内炎は見られません。

去年までだったら、「軽い風邪」の診断でおクスリを飲んでいるうちに、普通の経過で熱が下がった頃に発疹を見つけた親御さんがお子さんをお連れになりますから、「あ、手足口病だったんだね。でももう熱も下がったし、このまま放っておいても自然に治っちゃいますからね。それにもう人にもうつしませんからお休みしなくていいですよ。」でした。

ところが今年は、「手足口病ですね。でも熱もたいしたことないし、このまま放っておいても自然に治っちゃいますよ。完全に平熱になったらもう人にもうつしませんから登園(登校)していいですよ。」となります。するとその晩高熱が出たといって翌日来院される方がけっこうおられるのです。

診察をしても前日とそう変わったところも見つかりません。「手足口病には間違いないんで、この熱も1日か2日で下がると思いますから、このまま様子を見て下さい。」とはお話ししますが、コクサッキーA6のこともあるしまた別のウイルスの仕業かも???などと疑心暗鬼になってしまいます。

でもあるときふと気がつきました。「診断の時期が早すぎただけなんじゃないか!?!」と。

「高熱になるタイプの手足口病を熱が出る前に診断してしまうと、診断がついてから高熱になる、つまりインターネットの情報や我々小児科医が今まで経験していたごく普通の手足口病とは異なった経過になってしまう」ということなんですね。

初日に手や足を見なければ、発熱→発疹→受診→診断という今まで通りの経過になるわけです。そして、治癒証明書をとりにいらっしゃる頃には立派な口内炎もできているというわけです。

手足口病の診断がついてから高熱になり「おかしいな?」と思われていた方、実はそういう理由だったとお考え下さい。

っていうことはぁ、去年までは手足口病を見逃してたっていうわけ?

ギョッがく〜(落胆した顔) いやそれはそのぉ、なんというかぁ・・・・・・・。

今週は医学講座ならぬヤブ医者の独り言でした。




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2013年08月05日

水ぼうそうもどきの手足口病

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さて今日もまた手足口病についてのお話です。手足口病の大流行については先々週お知らせいたしましたが、今週はその大流行の中で見られる変わり種手足口病のお話です。

まず3枚の写真をご覧ください。

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通常見られる手足口病の手のひらと足の裏と口の中です。

足については下の写真のように膝のあたりに発疹が出ることもあります。

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口に関しては下の写真のように口のまわりに発疹が出ることもあります。

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去年までの江戸川区での手足口病の症状はだいたいこんなもんでした。

ところが今年は下の2枚の写真のように体のいろんなところに発疹の出るお子さんがけっこう見られます。ここに掲載したのは脚(あし)の部分ですが、お尻や首筋や額の髪の生え際等にも見られます。

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さらには、今までの手足口病では滅多に見られなかった体幹(胴)の部分にも発疹は出現します。

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といってもこのすぐ上の写真は手足口病の写真ではありません。水ぼうそうの写真です。そのまた上の手足口病の写真と見比べて下さい。発疹が大きく、はっきりと水ぶくれができ、水ぼうそうとほとんど見分けがつきません。

これは手足口病をおこすウイルスの違いによるものなのです。
最初に掲載した写真はコクサッキーA16というウイルスでおこります。水ぼうそうそっくりの手足口病はコクサッキーA6というウイルスでおこります。

このコクサッキーA6ウイルスによる手足口病は一昨年西日本を中心に大きな流行がありましたが、関東地方ではそれほど流行しなかったので経験が少なく、関東地方の小児科医の中には水ぼうそうなのか手足口病なのか迷いに迷った医者が少なくありません。実は私もその中の一人です。

今年は関東地方でもコクサッキーウイルスA6の手足口病が多発しています。

水ぶくれが大きいので皮が破れて下の写真のようになってしまうこともあります。でも、水ぼうそうと違って手足口病の水ぶくれはかさぶたになりません。また、溶連菌感染症のときのように爪の先の部分から皮膚がむけるということもありません。

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もう一つコクサッキーA6の特徴的な所見が下の写真です。

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手足口病にかかってから6〜8週間後に爪が剥がれることがあります。病気の時から1ヶ月以上もたっているので、これがコクサッキーA6の仕業だとはなかなか気づきにくいのですが、ヨーロッパではだいぶ昔からこのことの記載があったらしいです。

はがれた爪の下には新しい爪ができていますから心配は不要ですが、突然爪が剥がれだしたらびっくりしますよね。

今日はちょっと変わった水ぼうそうもどきの手足口病のお話でした。




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2013年07月22日

手足口病大流行

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さて今日は手足口病についてのお話しです。

「こんな病気がはやってます」でもお伝えしたように江戸川区ではこのところ手足口病が急増しています。
こども診療所でも、熱のあるお子さんあるいは2〜3日前に熱が出たというお子さんは必ず手のひらや足の裏を見るようにしています。そうするとかなりの確率で手足口病が見つかります。

まずこちらをクリックしてみてください。先週の金曜日に東京都健康安全研究センターから都民向けに発表された感染症ひとくち情報(手足口病情報)です。

左の折れ線グラフを見ると、赤い線が急速に上昇しているのがわかります。紺色の線は一昨年の流行状況を示していますが、これを遙かに上回りそうな勢いです。

手足口病患者の約9割は6歳以下の小児、このうち2/3が2歳以下とも書いてあります。(右の円グラフ)

ということは、今年流行している手足口病のウイルスはこの数年は流行したことのない型のウイルスだということが推測できます。つまり、5〜6歳未満の子はそのウイルスに出会ったことのない子が多いから免疫がない、小さい子ほど免疫がない、ということなのです。


《手足口病を起こすウイルス》

手足口病の原因となるウイルスは一種類ではありません。ですから、一度かかっても、違うウイルスが流行するとまたかかってしまうのです。毎年かかってしまうお子さんや、運の悪いお子さんの場合には同じ年(主に夏)に2回もかかってしまうことがあります。

日本では今までコクサッキーという種類のウイルスによる流行が多く、このウイルスで起こる手足口病は比較的軽症です。ですから、色々な情報を見るとたいてい「一般的に軽症で重症化することはまれ」と書いてあります。確かに手足口病はたいした病気ではありませんでした。

ところが、東南アジアではエンテロウイルス71(EV71)という型のウイルスによる手足口病が多く、急性脳炎や心筋炎を合併して死亡する例もまれではありませんでした。東南アジアの手足口病は怖い病気なのです。ですから、中国では最近EV71に対するワクチンの開発に成功したというニュースが流れたほどです。

今年手足口病にかかったお子さんの中には39度以上の高熱を出しているケースもかなり見られますので、このEV71の流行が日本でも見られるようになったのかもしれません。幸い今のところこども診療所では脳炎や心筋炎といった重篤な合併症は見られていませんが警戒が必要と思われます。


《感染経路と治療》

手足口病を起こすウイルスはエンテロウイルスという仲間のウイルスです。ちょっとややこしいのですが、エンテロウイルスという仲間の名前のウイルス群の中に、エンテロウイルスという個人の名前を持ったウイルスがいるのです。

今まで日本で広く流行していたコクサッキーウイルスというのはエンテロウイルスの群の中のコクサッキーウイルスという個人名のウイルスです。

エンテロというのは「小腸」のことで、腸の中を好むウイルスというような意味合いです。

ですから感染経路としては、いわゆる風邪ウイルスのように咳やくしゃみなどによる飛沫感染の他に、排泄物に触れた手などから口の中に入ってしまう経口感染とがあります。排泄物の処理にも気をつけなければなりません。

ほとんどのウイルスと同じようにエンテロウイルスに対する特効薬というのはありません。軽症の場合にはクスリなしでも問題ありませんが、高熱が出たり発疹を痛がったりするような場合には症状を和らげるクスリを使って回復を待つしかありません。


《脱水に注意!》

熱がないか、あっても微熱程度の軽症の手足口病でも、口内炎が痛くて固形物を食べることができなくなることがあります。痛みがひどいと水さえも飲めなくなることがあり、脱水を起こしてしまうこともあります。お子さんが大好きな飲み物を少量ずつでも飲ませてみて脱水を予防することも大切な治療です。

お子さんは大好きな食べ物や飲み物だと多少痛くても我慢して食べたり飲んだりすることがありますから、とにかく食べられるもの、飲めるものを探してトライしてみましょう。


《手足口病に関するその他の情報》

ちょっと専門的なサイト:ウィキペディア国立感染症研究所日本医師会
一般的なサイト:gooベビーYahoo!ヘルスケアこぐま保育園



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2013年02月18日

風疹にご注意!

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さて今日は風疹についてのお話しです。

風疹は風疹ウイルスによって起こる感染症で、別名「三日ばしか」とも呼ばれています。こどもがかかると軽い病気で、熱は微熱程度、はしかに似た発疹が出るけれど三日もすれば自然に消えてしまう(三日ばしかという名の由来)、どうってことのないような感染症です。そして一度かかってしまえば免疫ができて一生ずっとかからずにすみます。ただし大人になってかかるともう少し重症です。

けれど、免疫を持たない女性が妊娠初期(おおむね12週以前)に風疹にかかると、おなかの中の胎児に感染し、胎児の血液中にウイルスが侵入して全身の血管炎を起こしてしまいます。その結果先天性風疹症候群と呼ばれる病気を持った子が生まれてきてしまいます。全身の血管炎ですから体中の色々な臓器に障害をもたらしますが、特に先天性心疾患や先天性白内障、先天性難聴などの障害がよく知られています。

この先天性風疹症候群の発生を予防するためには、妊娠可能な年齢の女性すべてが風疹に対する免疫を持っていればいいわけです。というわけで、1977年から1995年まで女子中学生全員への風疹ワクチン集団接種(医師が学校へ赴いて接種する)が行われていました。

ところが1977年にすでに中学校を卒業してしまった女性(現在だいたい50歳以上)に対しては任意接種という扱いだったため接種率が低く、また男子に対しては集団接種を行わなかったため、風疹に対する免疫を持たない男女が結婚し、女性が妊娠したときに男性のほうが風疹にかかってしまうとかなり高い確率で風疹を家庭内に持ち込み妻にうつしてしまう、あるいは男性を中心とした小流行が繰り返され、先天性風疹症候群を完全に予防するには至りませんでした。

そこで、男女の別なく全員に免疫を持たせてしまおうとの考えで、1996年4月からは1歳から7歳6か月までの小児全員へのMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)2回接種に変わりました。ところがこのときも1995年の段階で7歳6か月を超えていたお子さんへの救済措置がとられなかったため、今年25歳から32歳になる女性の風疹ワクチン接種率はきわめて低い(約50%?)状態です。高齢出産が増えているとはいえ25歳から32歳というのは一般的には出産適齢期でもあります。

また、男子に関しては1996年以前にも1歳以上の小児に風疹単独ワクチンとしての接種が行われていましたが、最初にお話ししたようにこどもがかかるとたいしたことのない病気であることなどから、はしか(麻疹)に比べて接種率が低く、現在25歳以上の男性の免疫保有率はかなり低いことが推測されています。

以上のような不利な条件が色々と重なった結果、昨年の風疹報告数は全国で2.353例と、前年の6倍以上に増えてしまったわけです。風疹ははしかと同様届出が義務づけられている感染症ですので、2.353例というのは実数です。そして残念なことに昨年は5人の赤ちゃんに先天性風疹症候群が発生してしまいました。ちなみに、2007年から2011年までの5年間の先天性風疹症候群の発生は合計で3例でした。

風疹が流行すれば先天性風疹症候群発生の危険性も高まると言えるでしょう。

江戸川区での現状はどうかといいますと、昨年6月25日から今年の1月28日までに、男性21例、女性6例の発生届出がありました。やはり男性のほうが多く罹患しています。年齢別に見ますと、男子では10歳代が4名、20歳代が2名、30歳代が9名、40歳代が4名、50歳代が2名、女子では20歳代が2名、40歳代が3名、50歳代が1名となっています。

昔は風疹にかかりやすい年齢は5歳から9歳と言われていましたが、MRワクチンの普及で10歳未満の小児の報告はなかったようです。でも男性では各年齢層に渡って報告があるのはとても気になるところです。また男女ともに40歳以上の方は免疫をお持ちでない方が多いことが推測されます。

予防に関しては風疹ワクチンの接種を行うことが最良の方法です。しかし、定期接種としてMRワクチンが使用されてからは風疹の単独ワクチンはすぐには入手できないこともあります。その場合にはMRワクチンを接種しても差し支えありません。

特に成人男子の方が一人でも多く接種して下さることが重要だと思います。妊娠可能年齢の女性の方も接種を受けられますが、接種の前1か月は十分に避妊を行い、接種のあと2か月は妊娠を避けるなどの注意が必要です。その点男性はいつでも接種を受けられ、風疹の媒介者となることを防ぐことができます。

風疹が流行しても妊娠女性が免疫を持っていれば先天性風疹症候群は防げると考えるのではなく、風疹の流行がなければ先天性風疹症候群も発生しないという考えへの転換が必要なのです。



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