
脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
あなたはいくつ書けますか?
さて今日は風疹についてのお話しです。
風疹は風疹ウイルスによって起こる感染症で、別名「三日ばしか」とも呼ばれています。こどもがかかると軽い病気で、熱は微熱程度、はしかに似た発疹が出るけれど三日もすれば自然に消えてしまう(三日ばしかという名の由来)、どうってことのないような感染症です。そして一度かかってしまえば免疫ができて一生ずっとかからずにすみます。ただし大人になってかかるともう少し重症です。
けれど、免疫を持たない女性が妊娠初期(おおむね12週以前)に風疹にかかると、おなかの中の胎児に感染し、胎児の血液中にウイルスが侵入して全身の血管炎を起こしてしまいます。その結果先天性風疹症候群と呼ばれる病気を持った子が生まれてきてしまいます。全身の血管炎ですから体中の色々な臓器に障害をもたらしますが、特に先天性心疾患や先天性白内障、先天性難聴などの障害がよく知られています。
この先天性風疹症候群の発生を予防するためには、妊娠可能な年齢の女性すべてが風疹に対する免疫を持っていればいいわけです。というわけで、1977年から1995年まで女子中学生全員への風疹ワクチン集団接種(医師が学校へ赴いて接種する)が行われていました。
ところが1977年にすでに中学校を卒業してしまった女性(現在だいたい50歳以上)に対しては任意接種という扱いだったため接種率が低く、また男子に対しては集団接種を行わなかったため、風疹に対する免疫を持たない男女が結婚し、女性が妊娠したときに男性のほうが風疹にかかってしまうとかなり高い確率で風疹を家庭内に持ち込み妻にうつしてしまう、あるいは男性を中心とした小流行が繰り返され、先天性風疹症候群を完全に予防するには至りませんでした。
そこで、男女の別なく全員に免疫を持たせてしまおうとの考えで、1996年4月からは1歳から7歳6か月までの小児全員へのMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)2回接種に変わりました。ところがこのときも1995年の段階で7歳6か月を超えていたお子さんへの救済措置がとられなかったため、今年25歳から32歳になる女性の風疹ワクチン接種率はきわめて低い(約50%?)状態です。高齢出産が増えているとはいえ25歳から32歳というのは一般的には出産適齢期でもあります。
また、男子に関しては1996年以前にも1歳以上の小児に風疹単独ワクチンとしての接種が行われていましたが、最初にお話ししたようにこどもがかかるとたいしたことのない病気であることなどから、はしか(麻疹)に比べて接種率が低く、現在25歳以上の男性の免疫保有率はかなり低いことが推測されています。
以上のような不利な条件が色々と重なった結果、昨年の風疹報告数は全国で2.353例と、前年の6倍以上に増えてしまったわけです。風疹ははしかと同様届出が義務づけられている感染症ですので、2.353例というのは実数です。そして残念なことに昨年は5人の赤ちゃんに先天性風疹症候群が発生してしまいました。ちなみに、2007年から2011年までの5年間の先天性風疹症候群の発生は合計で3例でした。
風疹が流行すれば先天性風疹症候群発生の危険性も高まると言えるでしょう。
江戸川区での現状はどうかといいますと、昨年6月25日から今年の1月28日までに、男性21例、女性6例の発生届出がありました。やはり男性のほうが多く罹患しています。年齢別に見ますと、男子では10歳代が4名、20歳代が2名、30歳代が9名、40歳代が4名、50歳代が2名、女子では20歳代が2名、40歳代が3名、50歳代が1名となっています。
昔は風疹にかかりやすい年齢は5歳から9歳と言われていましたが、MRワクチンの普及で10歳未満の小児の報告はなかったようです。でも男性では各年齢層に渡って報告があるのはとても気になるところです。また男女ともに40歳以上の方は免疫をお持ちでない方が多いことが推測されます。
予防に関しては風疹ワクチンの接種を行うことが最良の方法です。しかし、定期接種としてMRワクチンが使用されてからは風疹の単独ワクチンはすぐには入手できないこともあります。その場合にはMRワクチンを接種しても差し支えありません。
特に成人男子の方が一人でも多く接種して下さることが重要だと思います。妊娠可能年齢の女性の方も接種を受けられますが、接種の前1か月は十分に避妊を行い、接種のあと2か月は妊娠を避けるなどの注意が必要です。その点男性はいつでも接種を受けられ、風疹の媒介者となることを防ぐことができます。
『風疹が流行しても妊娠女性が免疫を持っていれば先天性風疹症候群は防げる』と考えるのではなく、『風疹の流行がなければ先天性風疹症候群も発生しない』という考えへの転換が必要なのです。