2013年02月18日

風疹にご注意!

dav.jpg曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを示す漢字には(肉づき)のつくものが多いから。

脳・肺・肝・腎・腕・脚・腰・腹・骨・・・・・。
あなたはいくつ書けますか?



さて今日は風疹についてのお話しです。

風疹は風疹ウイルスによって起こる感染症で、別名「三日ばしか」とも呼ばれています。こどもがかかると軽い病気で、熱は微熱程度、はしかに似た発疹が出るけれど三日もすれば自然に消えてしまう(三日ばしかという名の由来)、どうってことのないような感染症です。そして一度かかってしまえば免疫ができて一生ずっとかからずにすみます。ただし大人になってかかるともう少し重症です。

けれど、免疫を持たない女性が妊娠初期(おおむね12週以前)に風疹にかかると、おなかの中の胎児に感染し、胎児の血液中にウイルスが侵入して全身の血管炎を起こしてしまいます。その結果先天性風疹症候群と呼ばれる病気を持った子が生まれてきてしまいます。全身の血管炎ですから体中の色々な臓器に障害をもたらしますが、特に先天性心疾患や先天性白内障、先天性難聴などの障害がよく知られています。

この先天性風疹症候群の発生を予防するためには、妊娠可能な年齢の女性すべてが風疹に対する免疫を持っていればいいわけです。というわけで、1977年から1995年まで女子中学生全員への風疹ワクチン集団接種(医師が学校へ赴いて接種する)が行われていました。

ところが1977年にすでに中学校を卒業してしまった女性(現在だいたい50歳以上)に対しては任意接種という扱いだったため接種率が低く、また男子に対しては集団接種を行わなかったため、風疹に対する免疫を持たない男女が結婚し、女性が妊娠したときに男性のほうが風疹にかかってしまうとかなり高い確率で風疹を家庭内に持ち込み妻にうつしてしまう、あるいは男性を中心とした小流行が繰り返され、先天性風疹症候群を完全に予防するには至りませんでした。

そこで、男女の別なく全員に免疫を持たせてしまおうとの考えで、1996年4月からは1歳から7歳6か月までの小児全員へのMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)2回接種に変わりました。ところがこのときも1995年の段階で7歳6か月を超えていたお子さんへの救済措置がとられなかったため、今年25歳から32歳になる女性の風疹ワクチン接種率はきわめて低い(約50%?)状態です。高齢出産が増えているとはいえ25歳から32歳というのは一般的には出産適齢期でもあります。

また、男子に関しては1996年以前にも1歳以上の小児に風疹単独ワクチンとしての接種が行われていましたが、最初にお話ししたようにこどもがかかるとたいしたことのない病気であることなどから、はしか(麻疹)に比べて接種率が低く、現在25歳以上の男性の免疫保有率はかなり低いことが推測されています。

以上のような不利な条件が色々と重なった結果、昨年の風疹報告数は全国で2.353例と、前年の6倍以上に増えてしまったわけです。風疹ははしかと同様届出が義務づけられている感染症ですので、2.353例というのは実数です。そして残念なことに昨年は5人の赤ちゃんに先天性風疹症候群が発生してしまいました。ちなみに、2007年から2011年までの5年間の先天性風疹症候群の発生は合計で3例でした。

風疹が流行すれば先天性風疹症候群発生の危険性も高まると言えるでしょう。

江戸川区での現状はどうかといいますと、昨年6月25日から今年の1月28日までに、男性21例、女性6例の発生届出がありました。やはり男性のほうが多く罹患しています。年齢別に見ますと、男子では10歳代が4名、20歳代が2名、30歳代が9名、40歳代が4名、50歳代が2名、女子では20歳代が2名、40歳代が3名、50歳代が1名となっています。

昔は風疹にかかりやすい年齢は5歳から9歳と言われていましたが、MRワクチンの普及で10歳未満の小児の報告はなかったようです。でも男性では各年齢層に渡って報告があるのはとても気になるところです。また男女ともに40歳以上の方は免疫をお持ちでない方が多いことが推測されます。

予防に関しては風疹ワクチンの接種を行うことが最良の方法です。しかし、定期接種としてMRワクチンが使用されてからは風疹の単独ワクチンはすぐには入手できないこともあります。その場合にはMRワクチンを接種しても差し支えありません。

特に成人男子の方が一人でも多く接種して下さることが重要だと思います。妊娠可能年齢の女性の方も接種を受けられますが、接種の前1か月は十分に避妊を行い、接種のあと2か月は妊娠を避けるなどの注意が必要です。その点男性はいつでも接種を受けられ、風疹の媒介者となることを防ぐことができます。

風疹が流行しても妊娠女性が免疫を持っていれば先天性風疹症候群は防げると考えるのではなく、風疹の流行がなければ先天性風疹症候群も発生しないという考えへの転換が必要なのです。



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2012年12月27日

インフルエンザの出席停止期間

「インフルエンザシーズン突入」というニュースが流れるようになりました。江戸川区でも先週あたりから急にインフルエンザの患者さんが増えてきているようです。こども診療所でも26日(水)に今シーズン初のインフルエンザの患者さんがお二人来院されました。お一人は大学生、もうお一人は幼稚園児で、ともにA型でした。

幸い学校と幼稚園はすでに冬休み、保育園も明後日から冬休みに入りますので、年末年始大流行という事態は避けられそうですが、外出時は必ずマスク着用・帰宅後は必ずうがい手洗いを励行して、予防に努めてください。

ところで、だいぶ前にもお知らせしたのですが、今年の4月からインフルエンザの出席停止期間が改正されました。それまでは「解熱後2日を経過するまで」が出席停止期間だったのですが、これに「発症した後5日を経過」という文言が加わりました。

これはタミフルやリレンザといった抗インフルエンザ薬の普及で発症後2〜3日で解熱してしまうケースが増え、のどのインフルエンザウイルスがまだ十分に減っていないうち(ウイルス排泄期間中)に登校/登園してしまうお子さんが出てきて、出席停止による感染予防の効果が薄れてしまったことが理由です。

日数の数え方は下に図示した例のように、発熱した日はゼロ日で、翌日から数えてまるまる5日間ということです。

flue12.jpg

さらに、小・中学校では今までどおり解熱後2日を経過すれば(発症後5日たっていなければならない)登校可能ですが、幼稚園・保育園の場合は1日延長され、解熱後3日を経過するまで(もちろん発症後5日たっていなければならない)登園することはできません。

これは最近の研究で年齢の小さな子ほど解熱後のウイルス排泄が長く続くことがわかったというのが理由です。

これも上に図示してあるように熱が下がった日はゼロ日で、翌日から数えてまるまる2日は登校不可(幼保の場合まるまる3日は登園不可)、その翌日からの登校/登園になります。

この新しい基準は保健所から医師会を通じて各医療機関に配布されていますので、今シーズンからはかなり厳格になることが予想されます。



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2012年07月02日

チャドクガによる毛虫皮膚炎

kem.png曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを示す漢字には(肉づき)のつくものが多いから。

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cha0.jpg梅雨に入ってから右の写真のような皮膚症状を訴えてこども診療所に来院されるお子さんが増えてきました。

これは、チャドクガ(茶毒蛾)の幼虫(毛虫)の毒針に刺されて起こった皮膚炎です。

cha1.jpg刺されたときには何も感じないこともあり、幼稚園や学校から帰って夕方になって赤くて盛り上がった発疹が現れ、痛みや強いかゆみを伴います。

時間がたつにつれて発疹の数が増えていきます。

cha2.jpg

これがチャドクガの幼虫(毛虫)です。

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ツバキ、サザンカ、オチャノキなどのツバキ科の植物の葉(特に裏側)に密集してついています。時にキンモクセイやギンモクセイなどの光る葉の植物にもいます。

cha4.jpg

これが成虫=チャドクガです。成虫も毒蛾です。幼虫と同じ毒毛針を持っています。

毛虫に刺されて生じる皮膚炎を総称して毛虫皮膚炎といいますが、チャドクガによるものはその代表格です。上の写真では幼虫の全身に長い毛が生えているのが目立ちますが、皮膚を刺すのはこの毛ではなく、幼虫1匹の表皮に50万本とも500万本ともいわれているもっと細くて短い毒毛針です。

毛虫に刺されるとはいっても蜂や蚊のように自分の意志(?)で刺すのではなく、毛虫に触ったときにこの毒毛針が刺さったり、また風に乗った毒毛針が皮膚に触れただけでも皮膚炎を起こします。

治療などの詳しいことはウィキペディアの解説がわかりやすいと思いますので、そちらを参照して下さい。下の黄色い文字をクリックするとウィキペディアにリンクします。「チャドクガ」



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2012年04月16日

厚労省の登園基準

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《新しい治癒証明書》

幼稚園と小中学校の感染症による出席停止の解除基準が4月1日から変わる予定だということは大分前からお知らせしていましたが、4月に入っても江戸川区や医師会からは何も連絡はありませんでした。でも、現場ではすでに新しい治癒証明書が使われていたんですね。

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chiyu2.jpg

溶連菌感染症にかかった小学生のお子さんが先週末にお持ちになったのが新しい基準の治癒証明書でした。変更になった部分が太字で印刷されています。この証明書は小中学校用ですからインフルエンザの出席停止は熱が下がって2日となっていますが、幼稚園用は熱が下がって3日となっているのだと思います。

以前の記事では、厚生労働省が平成21年、保育園児のために作成した基準を文部科学省が踏襲したことや、乳幼児の施設のうち保育園は厚生労働省の管轄で幼稚園は文部科学省の管轄であることなどもお知らせしました。

にもかかわらず江戸川区では区立の保育園・幼稚園・小中学校そして私立の施設にも協力を依頼して一律の基準で治癒証明書を発行していました。

これからは基準が統一されましたから、今までのように一律の基準でも問題がなくなるはずです。

ところが・・・・exclamation×2


《保育園の登園基準》

たまたま保育園の基準を入手したのですが、さすが厚生労働省、病気のことに関してはきめが細かいですねぇ。

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上の画像は登園に当たって「医師が記入した意見書が必要」な感染症の一覧、下の画像は「医師の診察を受け、保護者が記入した意見書が必要」な感染症の一覧です。

これによれば、インフルエンザや水ぼうそう、おたふくかぜなんかは治癒証明書を医者に書いてもらう必要がありますが、手足口病やリンゴ病なんかは医者から登園OKが出れば保護者の方がその旨記入して提出すればいいんですね。

そういえば今までも保護者の方の署名欄しかない書類をお持ちになる方がいらっしゃったことを思い出しました。不勉強な私は「変わった様式だな」としか感じませんでしたが、それは厚生労働省の基準を忠実に守っている保育園の書類だったんですね。いやいや、お恥ずかしい次第です。

それでふと思ったんですが、治癒証明書の記入に際しては医療機関によって500円とか1000円とか必要なところもあります。こども診療所では治癒証明書の料金をいただいていませんからどちらでも関係ないのですが、保育園に通っているお子さんの場合病気の種類によっては医師の記入した証明書が不要なこともある、つまり治癒証明書の料金を払う必要がない場合もあるということです。

登園基準はほぼ統一されたけれど、厚生労働省の縄張りと文部科学省の縄張りはそう簡単に垣根を取り除くことができないようです。ヤレヤレふらふら



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2012年04月02日

登校登園の新基準

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3月29日にインフルエンザにかかったお子さんの登校登園に関する新しい基準についての記事を掲載しました。4月1日から変更になりますと書きました。今日は4月2日ですから新しい基準が有効になっているはずなのですが、保健所からも医師会からも何も連絡が来ません。

4月1日からの実施は予定とされていましたから、決定の通知が来るまでは今まで通りの出席停止期間で行こうと思います。

今回出席停止期間の見直しが行われたのはインフルエンザだけではありません。

百日咳とおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)も出席停止期間の見直しが行われました。

今日はインフルエンザ、百日咳そしておたふくかぜの出席停止期間が見直された理由と新しい基準についてお知らせします。文部科学省発行の原文(お役所言葉)のままです。


《インフルエンザ》

抗インフルエンザ薬の投与によって感染力が消失していない段階でも解熱してしまう状況が生じており、今までの解熱のみを基準にした出席停止期間では、感染症の蔓延予防という目的が達成できない恐れがある。

そのため、「発症後5日を経過した後になるとウイルスがほとんど検出されなくなる」という研究報告を踏まえ、出席停止期間を「発症したあと5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」と改めることとする。

ただし、幼稚園に通う幼児については、低年齢者ほどウイルス排泄が長期に及ぶという医学的知見を踏まえ、同様に低年齢者が通う施設である保育所について定められた「保育所における感染症対策ガイドライン」(平成21年8月厚生労働省)にならい、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後3日を経過するまで」とする。


《百日咳》

百日咳の出席停止期間は、従前、「特有の咳が消失するまで」としてきたところであるが、年齢が高くなると必ずしも顕著な「特有の咳」が現れないこともあることが報告されていること、5日間の適正な抗菌薬療法が終了すれば感染のおそれがないとされていることを踏まえ、出席停止期間を「特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで」と改めることとする。


《おたふくかぜ》

おたふくかぜの出席停止期間は、従前、「耳下腺の腫脹が消失するまで」としてきたところであるが、耳下腺は腫れずに顎下腺や舌下腺が腫れるという症例が報告されていること、発症後は5日程度で感染力が弱まるものの、腫れは2週間程度残る場合もあることが判明していることを踏まえ、出席停止期間を「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」と改めることとする。


以上ですが、皆さんがこの基準を覚える必要はありません。これらの病気にかかってしまったら、こちらで新しい基準に従って治癒証明書を発行いたします。

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2012年03月24日

補湿してから保湿

冬の間お子さんの乾燥肌でお悩みだった皆さん!

高知からは桜の開花情報が届き、春の足音が聞こえ初め、そろそろ乾燥肌ともお別れだと思っていませんか?

でも残念ながらこどもの乾燥肌が回復を始めるのは4月の終わり頃、ゴールデンウィークの頃です。まだまだ肌の保湿が必要ですから油断なさらないでくださいね。

ところで、冬の間乾燥肌のご相談にのっていて気になったのは、わりと多くの方が「保湿剤」を「補湿剤」と勘違いなさっておられることです。読んで字のごとく、「保湿剤」は皮膚の湿気(水分)を逃がさないように保つクスリ「補湿剤」は皮膚に湿気(水分)を補うクスリです。ただ、残念なことに「補湿剤」として有効なクスリはほとんどありません。補湿のためには、加湿器・お風呂・蒸しタオルなど、直接水分を皮膚に補わなければなりません。

というところで「保湿剤」の話に入りますが、先にも述べましたように「保湿剤」というのは皮膚に含まれる水分を逃がさないようにするクスリですから、もともと皮膚に水分がなければほとんど役に立たないクスリになってしまうのです。もちろん冷たく乾いた風が皮膚から水分を奪っていくのを防ぐことはできますが・・・。

ですから、保湿剤を使うときにはまず皮膚に十分な水分を補って、そのあとすぐに塗ってあげるようにしてください。

皮膚に水分を補うにはお風呂が一番です。「保湿剤」の入った入浴剤を使うというのも効果的ですね。でも、入浴剤はたいてい水性ですから、お風呂から出たら、まだ濡れたままで「保湿剤」を塗ってもかまいません。むしろ油性(軟膏やクリーム)のクスリを使ったほうが水分の保持という点ではより効果的かもしれません。とにかくせっかく皮膚に入った水分ですからなるべく逃げないうちにふたをして閉じ込めてしまいましょう。

「朝はお風呂に入らないよ」
ごもっともです。そんなときは蒸しタオルで皮膚にうるおいをもたせてから塗ってあげましょう。

保湿剤を使っているけどちっとも効果がないとお悩みのあなた!
もしかして「保湿剤」を「補湿剤」として使っていませんでしたか?
こどもにとっての乾燥期はまだ1か月ぐらい続きます。今からでも正しい「保湿剤」の使い方を心がけてください。

補湿してから保湿ですよ
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2012年01月18日

感染症の潜伏期間

 昨日の感染症情報の記事の中で、冬休み中インフルエンザは減少するが水痘(水ぼうそう)は減少しない、その理由は潜伏期間の違いだということをお話ししました。今日はそれを詳しくご説明いたします。

 感染症は細菌やウイルスなどの病原体が人体内に侵入することによって起こりますが、病原体が体内に入ったからといってあっという間に発病するわけではありません。侵入した病原体は人体内で増殖や移動を繰り返し、潜伏期間と呼ばれる一定の時間を経て初めて発病するのです。

 潜伏期間はそれぞれの病原体によってまちまちで、ノロウイルスのように短いものでは数時間で発病する病気や、長いものではB型肝炎ウイルスのように数ヶ月後に発病するもの、HIV(エイズ)ウイルスのように数年以上たってから発病するものまで様々です。

 昨日ちょっと触れたインフルエンザの潜伏期間は1〜4日、水痘では約2週間とされています。そして去年の12月23日から今年の1月9日までを冬休みということにして病気の流行を考えてみましょう。

 園や学校のような集団生活の場は、感染症にとっては感染の機会が多く得られる,まさに温床とも言えます。12月22日までは園や学校での「うつしっこ」が盛んに行われていたことでしょう。

 仮に12月22日の終業式の日にインフルエンザをうつされたとしましょう。この子が発病するのは大雑把にいって12月23日から26日の間です。インフルエンザは発病する1〜2日前から人にうつすようになるといわれていますが、その頃はすでに冬休みになっているので園や学校で人にうつすことはありません。逆にいえばうつされる子もほとんどいないということになります。また、この子がタミフルなどのインフルエンザ治療薬を使わずに自力でインフルエンザを克服したとしても、1週間で人にうつすことはなくなります。つまり三が日が終わる頃にはこの子が新たな感染を起こすことはなくなっているわけです。冬休みはまだ約1週間残っています。その間にうつす方もうつされる方も出会う機会はとても少ない、つまり冬休みになるとインフルエンザは減少する、というわけです。

 一方、潜伏期間が約2週間の水痘はどうかといいますと、12月23日から1月9日までの間に発病する子はおおむね12月10日頃から12月25日頃に誰かからうつされたということになります。最後の3日間はすでに冬休みですから園や学校での「うつしっこ」は終わっていますが、冬休み前の2週間の間にすでに感染を受けているわけですから冬休み中の発病が減ることはありません。そして、12月22日にうつされた子も1月10日頃までには発疹がかさぶたになって人にはうつさなくなっていますし、冬休み中には感染が発生しませんから冬休み明けの約2週間は発病者が減るることが予想されます。はたして来週と再来週の感染症情報はどうなるでしょうね。

 またインフルエンザの話に戻りますが、3学期の開始とともに「うつしっこ」が始まりました。インフルエンザの潜伏期間は短いですから、数日の間に次から次へと感染が連鎖反応を起こし、あっという間に大流行状態になってしまったわけですが、それにしても今年の流行の広がるスピードには驚かされます。歴史的な早さではないでしょうか。例年通り1月下旬からが流行のピークだと予想していた私はかなり面喰らっています。皆さん十分ご注意ください。

 そして毎年毎年繰り返していますが、発熱してすぐには検査をしても診断がつきません。
「8℃を超えて8時間」8−8
というのがこども診療所の検査の目安です。
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2010年12月09日

緊急連載!!!感染性胃腸炎のすべて(6)

clinic.jpg 感染性胃腸炎のシリーズ、いよいよ最終回です。

 感染性胃腸炎に限らず、生後5〜6か月以降1歳未満の赤ちゃん、つまり離乳食を食べている時期の赤ちゃんが下痢をしたり嘔吐をしたりすると、離乳食を一時やめて母乳かミルクだけにしましょうということはよくあります。そして病状が回復して、さあ離乳食を再開しましょうというときにどうするかというお話です。

 私は「離乳食を始めからもう一度復習してみましょう。」とお話しします。どんなものをどの程度あげたらいいのか迷う必要はありません。ホントにドロドロの離乳食初期の段階から再スタートすればいいのです。ただし、1日の離乳食の回数や食べる量は病気にかかる直前の回数と量でかまいません。もちろん無理強いはいけません

 復習とはいっても今までと同じペースでは時間がかかります。そこでペースに関しては「1日1か月のペースで進めちゃってください。もちろん体調を見ながらですよ。」と説明します。

 離乳食ですから1歳近い赤ちゃんでもせいぜい6か月分です。1週間もかからずに病気の直前の状態に戻すことができます。しかもついこないだまでやっていたことですから、お母さんもどんなものを食べさせたらよいのかがすぐ理解できます。

 この方法でやっていただくと、「離乳食を再開したらまた下痢になっちゃったんです」と来院される方はほとんどいません。

 これで「感染性胃腸炎のすべて」シリーズは終了です。ご愛読ありがとうございました。


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2010年12月08日

緊急連載!!!感染性胃腸炎のすべて(5)

clinic.jpg 今回は「情けの氷」「亭主の小遣い」という話です。いったい何のことかわからないって?読めばわかります。では、「情けの氷」から。

 ロタウイルス以外のウイルス性胃腸炎(感染性胃腸炎)に対しては絶飲食が一番効果的というお話の続きです。

 心を鬼にして絶飲食を貫いていただきたいのですが、吐いたり下痢したあとで水分を失っていますからお子さんは当然のどが渇きます。食欲はそれほどでもないケースが多いのですが、のどの渇きはどうしようもありません。それを徹底的に我慢させるというのは他人である医者はともかく、現場に居合わせる肉親の情としては耐え難いものがあるでしょう。

 そこで私はこうも付け加えます。「どうしてものどが渇いて仕方のないときには、お宅の冷蔵庫でおいしい氷を作ってあげて、そのひとかけらを噛まずに溶けるまで舐めさせてください。1個だけですよ。しかもホイホイあげちゃいけませんよ。味はジュースでもポカリでもこの子の好きなもの何でもいいです。氷のひとかけらが溶けたからって、水分としては物の数にも入りません。でも、溶けるまでに時間がかかるし、好きな味なのでなんとなく食べたような、飲んだような気がして時間が稼げるんです。」

 この氷を「情けの氷」と呼んでいます。

 さらに、「冷蔵庫でこの氷を作っている間は、どんなに欲しがっても他の飲み物は一切あげないでくださいね。」とも付け加えます。通常家庭用の冷蔵庫の製氷皿で氷を作ると、芯まで完璧に凍るまで約3〜4時間かかります。「3〜4時間我慢させてくださいね。」とお願いすると、親心から2時間ぐらいで飲ませてしまうことがあるのですが、「氷ができるまで」とお願いすると、不思議と現物が目の前に現れるまで待てるものなんですね。この3〜4時間が重要なんですね。この間、おなかは全く仕事をしないですむんです。おなかを完璧に休ませてあげることで回復が早まるのです。

 そして最後に、「おなかが病気になったと考えるのではなくて、おなかが病人なんだと考えてください。病人に仕事をしろとは言いませんよね。何もしなくていいからあんたは休んでらっしゃいって言うでしょ。病人であるおなかをいたわってあげてくださいね。」と言いつつお見送りをいたします。

 と、ここまではすでにお話いたしました。

 さて、親子ともにつらい断食を乗り越えて体調が回復してくると、食べ物・飲み物を再開することになります。再開の仕方は「お子さんが欲しいと言うまで。お母さんのほうから絶対にお勧めしないでください。また、欲しがっている量を満足するまであげないでください。いつも腹減った〜と文句を言うぐらいがちょうどいいと思ってください。」ということなのですが、このように説明してもピンと来ない方が多いのです。そこで登場するのが「亭主の小遣い」です。

 「ご主人に向かって『あなたそろそろお小遣いなくなるんじゃないの?』なんて奥さんのほうから訊きますか?ご主人が『5000円くれ』と言ったらその通りにあげますか?」こう質問すると。それまで「ド〜モよく理解できない」という表情をなさっていたお母さんの表情が「はい!わかりました」という表情に変わります。

 食事の再開は「亭主が小遣いをせびりに来たと考えてやってくださいね」と言いつつお見送りをいたします。


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2010年12月07日

緊急連載!!!感染性胃腸炎のすべて(4)

clinic.jpg 前回のノロウイルスに続いて今回はロタウイルスによる感染性胃腸炎のお話です。

 ロタウイルスによる感染性胃腸炎は白色便性下痢症とも呼ばれるように、下痢便の色が白くなり、ひどいときには米のとぎ汁のようになるのが特徴です。日本ではほとんど冬の病気で、乳幼児冬季下痢症とも呼ばれます。下痢便の色に特徴があるので「下痢症」という名が付けられていますが、嘔吐もともない小さな赤ちゃんが罹ると脱水になりやすい病気です。

 感染力がとても強く、小児科の病棟などで一人でもロタウイルスの胃腸炎が発生すると、数日の内に病棟全体に広がってしまうことがあります。

 特効薬といわれるような治療法もありませんし、下痢や嘔吐を鎮めるクスリもほとんど効きません。1週間ぐらい症状が続いて自然に治ります。この1週間の間、どうやって脱水にならずに持ちこたえるかが治療の中心になります。「飲まない・食べない」が基本であることは今まで力説してきた通りなのですが、ロタウイルスに感染したお子さんは意外と食欲旺盛で、飲まない食べないを1週間も続けることは困難ですし、ノロウイルスと違って、飲まなくても食べなくても下痢・嘔吐が続くので、入院して点滴をしなければならないことも少なくありません。

 逆に、脱水にさえならなければ、1週間後には自然に治る病気なので、ロタウイルスの対処法は医者の間でも2通りに別れています。一つは基本に忠実に、飲み物・食べ物をギリギリのところまで制限して、下痢・嘔吐の回数を最小に抑え、脱水になるのを少しでも遅らせるようにしながら回復を待つという方法。もう一つは、飲まなくても食べなくても下痢・嘔吐は続くし、本人は食べたがってしょうがないのだから、好きなように飲み食いさせてしまおうという考え方。どちらも、それで脱水になったらしかたがないから点滴をしましょうという点では同じです。

 で、私はどちらの一味かというと、ロタウイルスだという診断がついたら、好きなように飲み食いさせてしまおうという一派です。「オイオイオイ、今まで言ってきたことと正反対じゃないか!?」と思われるかもしれませんが、今まで「下痢・嘔吐には断食を!」と申し上げたのは、それによって回復が早まるからです。事実ほとんどのウイルス性胃腸炎は断食によって回復が早くなります。でもロタウイルスは別です。

 どんなに我慢しても、どんなに自由にしても、治るまでの日数は変わりませんし、脱水になる危険性も変わらないのです。これは長年の私の経験です。しかも本人はものすごく食べ物・飲み物をほしがっているとなったら、我慢させるだけかわいそうだと思うのです。

 我慢するのは早く回復するというメリットがあるからで、我慢させても結果がちっとも変わらない(なんのメリットもない)のなら、我慢させるだけかわいそうだと思いませんか?

 ロタウイルスは、便さえお持ちになれば30分以内に結果がわかる簡単な検査キットがあり、診断は比較的容易です。ですからこども診療所では、ロタウイルスという診断がついたお子さんにはクスリも出さず、「好きなものを自由に飲み食いしていいですよ」と申し上げています。「ただし、それで脱水になっちゃったら点滴ですよ」とも付け加えます。そして毎日、あるいは1日おきに様子を見せていただくために来院していただきます。さいわいなことにこの方法で点滴しなければならなくなるお子さんはこども診療所では年に一人いるかいないかです。

 しかし、自由に飲み食いする方法がいいという医者は少数派です。ほとんどの医者は下痢止めや吐き気止めを処方して、「固形物はやめて水分だけを少しずつこまめに飲ませてください」と指導しています。そしてこの方法のほうが基本に忠実であることは私も認めています。でも、この方法に回復を早めるというメリットがあまりないのなら、自由に飲み食いできるほうがお子さんは楽ではないかと考えているのです。

 最後に繰り返しますが、自由飲食法はロタウイルスの場合だけです。他のウイルスによる胃腸炎に対しては、「心を鬼にして」断食させてください。


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2010年12月06日

緊急連載!!!感染性胃腸炎のすべて(3)

clinic.jpg このシリーズでは冬場の感染性胃腸炎の対処法についてお話ししていますが、今回と次回は中でも有名なノロウイルスロタウイルスを採り上げて、病気の特徴とそれに合わせた具体的な対処法をお話しいたします。

 今回はまずノロウイルスです。ノロウイルスという名前が有名になったのはこの10年ぐらいのことですが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎はそれよりもずっと以前から毎年冬には流行していました。でもその頃はまだノロウイルスではなく小型球形ウイルスと呼ばれていましたので、一般の方にはなじみになりにくかったのだろうと思います。

 感染経路は、下痢便や吐物を介しての経口感染とくしゃみなどによる飛沫感染です。生の貝類による食中毒として発病することもあります。予防には便や吐物の処理を厳重にすることやうがい・手洗いが求められます。

 ノロウイルスに感染すると突然激しい嘔吐に見舞われます。数時間にわたって繰り返し嘔吐し、10回以上嘔吐することも珍しくありません。特徴的なのは、この数時間に及ぶ初期の嘔吐が収まったあとしばらく全く吐かなくなることです。

 診察したときの特徴は、胃や腸が動くときの「グルグル」という音が非常に弱くなる、あるいは全く聞こえなくなることです。つまり胃腸の動きが極端に悪くなっているのです。ですから飲んだものでも食べたものでも胃から先へ進めず、ちょっとしたきっかけで吐いてしまうのです。この特徴は一旦吐き気が収まったときにも続いています。

 ところが何回も吐き続けたお子さんはのどが渇いたりおなかがすいていたりしますから、吐き気が収まると飲み物・食べ物をほしがります。お母さんのほうも水分補給・栄養補給が気になりますからついつい飲み物・食べ物を与えてしまいます。でも胃腸のほうは相変わらず動いていないわけですから、また吐き出してしまいます。こうなってしまうと治療はちょっと長引きます。

 ノロウイルス退治の要は、一旦吐き気が収まっても、お子さんがどんなに飲み物・食べ物をほしがっても、心を鬼にして”断食”(絶飲食)を貫くことなのです。吐き気が収まったあと1回ぐらいは飲んでも吐かないんです。それは吐いたあとの隙間に飲み物が入っただけで、さらに飲めば再び吐いてしまうんですね。胃腸が動いていないのですから当然です。その辺を理解していないと、吐き気がおさまった→飲ませてみた→吐かなかった→また飲ませた→また吐いた、になっちゃうんですね。せっかくの”断食”の努力が儚く(はかなくと読みます)なっちゃうんですね。吐かなくなってほしいのはお子さんのほうなのにね。

 クスリを使って胃腸をムリヤリ動かすことは可能です。でもクスリの効き目が切れたとき、胃腸が本来の動きを取り戻していなかったら、飲食をすることでまた吐いてしまいます。人間のからだは胃の中が空っぽになると「次を入れてくれ〜」と勝手に動き出すようにできているのです。ものすごくおなかがすいたときに胃のあたりで「グググ〜」という音がして恥ずかしい思いをした経験はどなたもがお持ちのはずです。これを待つのが絶対確実なのです。

 でも、胃腸がなかなか動かなかったらどうするの?と思われるかもしれません。でも、ノロウイルスによる胃腸炎の場合には、1日我慢すれば胃腸はほとんど元通りに動くようになるのです。名前は「ノロ」でも治るのは「ハヤイ」のです。

 ですからこども診療所では、ノロウイルスがかなり確実に疑われるお子さんにはクスリは一切出していません。ただし、診察にいらしったときにまだ吐き気が強い場合は別です。吐き気止めの坐薬などを差し上げて一時的には吐き気を止めるようにします。でも、絶飲食だけは守っていただくようにしています。

 これは、お母さんにとってはホントに「心を鬼に」しなければできないつらいことです。ですからちょっとだけ救いの手をさしのべます。「どうしても我慢ができないときには、角砂糖1個か2個分の氷のかけらをなめさせてあげてください。かんではいけません。この程度の氷が溶けても水としてはたいした量ではありませんが、溶けるまでお口の中に何かが入っていることでなんとなく心が和らぐんです。でも、いつでもホイホイあげないでください。どうしても我慢ができなくなったら、ということですよ。」

 さらに、「この氷は、お宅の製氷皿にジュースやイオン水などを入れて凍らせたおいしい氷でいいですよ。でもこの氷ができるまではホントに何もあげないでくださいね。」

 そして、診察が終わってこう申し上げます。「おなかが病気なのではなくて、おなかが病人だと思ってください。病気の人に仕事をしろとは言いませんよね。おなかにものを入れるということは病人にムリヤリ仕事をさせるようなものなんです。おなかをいたわってあげてくださいね。」


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2010年12月05日

緊急連載!!!感染性胃腸炎のすべて(2)

clinic.jpg 前回は、下痢・嘔吐が続いているときには、水分を飲ませることによってむしろ脱水を助長しかねないというお話をいたしました。そして、飲ませなければ、脱水になるまでに時間をかせげると申し上げました。でも、ずっと飲まないでいたらいつかは脱水になってしまいます。そこで今回は、もう少し積極的に脱水を予防する手だてについて考えてみましょう。

 ただし、下痢・嘔吐が始まった初日には「飲まない・食べない」が最良だと思ってください。脱水予防は2日目から考えてください。

 その前に、前回冬の胃腸風邪には色々な病名があると申し上げました。それぞれ病気の特徴や原因をもとに名付けられたものなのでそれなりに理由はあるのですが、保育園や幼稚園、学校などに提出する治癒証明書の病名の欄に様々な病名が入り乱れていてわかりにくいという声が挙がり、江戸川区医師会ではこの冬(2008年のことです)から病名を「感染性胃腸炎」で統一しようということになりました。英語圏の国ではInfectious Enterocolitis(まさに感染性胃腸炎という意味)という呼び名でほぼ統一されていますので、まあ妥当な病名だと言えるでしょう。

 さてそれでは本題に入りましょう。

 「下痢や嘔吐があるときには水分を補給する」。これはまったく正しい。ただ、皆さんが接する情報にはたいてい「下痢や嘔吐があるときには水分を十分補給する」と書いてありませんか?この「十分」が曲者なんです。この言葉に惑わされて皆さんついつい飲ませすぎになってしまうんですね。もちろん飲んでも吐いたり下痢したりしなければ十分に越したことはないのですが、感染性胃腸炎のときには飲めば飲むほど吐いたり下痢したりということになりがちです。それに食欲もなくて飲ませたいのに飲みたがらないということもあります。そこで私は「下痢や嘔吐があるときには脱水にならない最低限の水分を補給する」と説明しています。

 では脱水にならない最低限の水分というのはどの程度のものなのでしょうか?

 体重10kgのお子さんが仮に下痢も嘔吐もない状態で、ひどく汗をかくこともないとします。その場合、このお子さんが脱水にならない最低限の水分というのは24時間(1日)で約400mlなんです。単純に考えれば、体重(kg)×40=1日の最低水分量(ml)ということです。これを一度に飲ませてしまったら吐いたりしてしまいます。1回に飲む量をなるべく少なくしてなるべく回数を多く飲ませるのがコツです。

 たとえば、「この子を脱水にしないために1日や2日は徹夜してもいい」と決心してくださるならば、1時間毎に17mlの水分を取れば24時間で400mlを達成できます。17mlといえばほんの一口たらーっ(汗)ですが、これがいいんですね。

 ま、これは極端な例なので、ここまでやらなくてもいいですが「1回に飲む量をなるべく少なくしてなるべく回数を多く飲ませる」ことを心がけてください。

 もちろんこの数字はからだから出て行く水分(下痢・嘔吐)が全くない場合の数字ですから、吐いたり下痢をして水分が失われたときはその分を上乗せしなければなりません。そのとき気をつけなくてはいけないのは、下痢便や吐物のすべてが水分ではないということです。大雑把になりますが、下痢便や吐物の約80%が水分だと考えて1日の水分量を計算しなおしてください。

 大雑把でいいんですよ!下痢便や吐物をわざわざ量って計算する必要なんてありませんからね。そしてさらにいえば少なめに見積もって下さいね。

 
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2010年12月04日

緊急連載!!!感染性胃腸炎のすべて(1)

clinic.jpg ノロウイルスを初めとするウイルス性の胃腸炎=感染性胃腸炎が猛威をふるっています。国立感染症研究所からの情報では去年の3倍の勢いだそうです。

 感染性胃腸炎による嘔吐・下痢・脱水については、一昨年(2008年)の2月から3月にかけて、ヤブログ得意のシリーズものとして掲載したのですが、今更そんな古い記事を読み直して下さる方もいらっしゃらないだろうと思って、当時の記事に多少の加筆訂正を加えて緊急連載することにいたしました。

 一通り読み終わったところでは、内容的にはそんなに修正することがないようですので、一昨年の記事をお読みになった方はわざわざお読みいただかなくてもけっこうです。

 では、「感染性胃腸炎のすべて」焼き直し版のスタートです。

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 毎年冬になると「嘔吐下痢症」とか「冬季下痢症」とか「白色便性胃腸炎」とか「ウイルス性胃腸炎」とか「感染性胃腸炎」とか呼ばれる、ウイルス性のおなかに来るタイプの風邪(「胃腸風邪」という呼び方もあります)がはやります。

 嘔吐や下痢で来られたお子さんの診察が終わって、「風邪ですね」と申し上げると、「エーッ!がく〜(落胆した顔)だって咳も鼻汁も出てませんよ!?」とビックリされる方もおられます。でも、風邪は風邪なんです。のどが赤くなっているお子さんがほとんどですし、なによりも、これらの胃腸炎を起こすウイルスの中には、夏風邪の原因ウイルスとして有名なものもあるのです。

 アデノウイルスとかエコーウイルスとかコクサッキーウイルスとかは、三大夏風邪であるプール熱やヘルパンギーナや手足口病を引き起こすウイルスとして知られていますが、冬場の胃腸炎の原因にもなります。「胃腸風邪」という呼び方はなかなかいいアイディアだと思います。

 病名がたくさんあって、ウイルスの種類もたくさんあるので、特定のウイルスが特定の病名の風邪を起こすように思われるかもしれませんが、「風邪の原因になることもあるウイルスによって起こる下痢や嘔吐」という点ではみな共通なのです。そして、激しい下痢や嘔吐によって脱水になる恐れがあるという点でも共通しています。

 私が医者になりたての頃(30年以上前)、「こどもの下痢や嘔吐が長く続くと脱水状態になって、生命に危険が及ぶこともあるんだよ!」と一生懸命説明したのは医者のほうでした。最近では皆さんが脱水の知識を身につけられて、「下痢・嘔吐には水分補給」と医者が言う前に、「脱水の心配はありませんか?」とお訊きになる方が増えてきています。

これは医者としては喜ばしいわーい(嬉しい顔)ことなのですが、脱水を恐れるあまり「とにかくたくさん飲ませなきゃ・・・」と考えてしまう方もおられて、診察に来られると「飲ませるたびに吐いちゃうんです」とか「飲むとすぐ下痢しちゃうんです」と訴えるケースがけっこう見られます。
 
 そんなとき「じゃあ、飲まないときはどうなんですか?飲まなくても吐くんですか?飲まなくても下痢するんですか?」とお訊きすると、飲まなくても吐いたり下痢するというお答えも返ってきますが、「飲まないときは吐いてません、下痢してません」というお答もけっこう返ってきます。「だったら飲ませなきゃいいんですよ。」と申し上げると、「こいつホントに医者なんだろうか?脱水のこと知らないんじゃないだろうか?」と、「口には出さねど目が語る」という感じで見返されてしまいます。

 私はそういう冷たい視線には慣れていますから、少しもたじろがずに説明を始めます。「吐いたり下痢したら脱水にならないように水分を補給する。するとまた吐いたり下痢をしてしまう。また水分を補給しなきゃと飲ませる。また吐いたり下痢したりする。その気持ちはよくわかりますが、皆さん吐いたり下痢したときには飲んだ分だけが出て行くと思ってるでしょ。そうじゃないんです。吐いたり下痢したりすると胃液とか腸でせっかく吸収した水分とか、そのほかに電解質も一緒に出て行ってしまうんです。つまり1000円貯金して1万円おろしてるようなものなんです。これを繰り返してたら残高はドンドン少なくなっちゃいますよね。ところが、飲まなければ吐かない下痢しないというのは、貯金もしないし引出もしないということで残高はそのまま残ります。飲ませなければ、脱水になるまでに時間をかせげるということなんです。今おうちでやっていることは飲ませるから脱水になるということなんですね。」

 そして最後に、河島英伍の「酒と泪と男と女」の替え歌、るんるん「飲んで〜飲んで〜吐いても〜飲んで〜、吐いて〜吐き続けて脱水よ〜〜〜」るんるんと歌って説明を終わります。というのは嘘です。いくら何でも心配なさっている親御さんの前でそんな不謹慎なことはしません。でも、飲んだら吐く、飲んだら下痢をするというときには、皆さんにこの歌を思い出してほしいと思っているのは事実です。

 まだまだ感染性胃腸炎の流行は続きそうです。そこで、皆さんの「酒と泪と男と女」、じゃなかった「下痢と嘔吐と脱水と」についての知識を交通整理するシリーズをお送りしたいと思います。


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2010年11月11日

インフルエンザ:早期受診ではなく適時受診を

昨日の夜、夕食を食べながらNHKのニュースウォッチ9を見ていましたら、インフルエンザの話題が採り上げられていました。

その中で専門家が「抗インフルエンザ薬は発病して48時間以内に開始しないと効果がない」と発言したのを受けて、女性キャスターが「早期受診を心がけて下さい」と呼びかけていました。

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去年の新型インフルエンザ大流行の時も各メディアが同じようなことを呼びかけ、それを信じた人たちが発熱直後に医療機関に押しかけ、各所で「検査をしろ、しない」のもめ事を起こしました。

昨今のインフルエンザ治療は必ずといっていいほどインフルエンザ抗原迅速診断に基づいて開始されます。そしてその検査は発熱直後ではインフルエンザであったとしても反応が出ないか診断に迷うほど弱いのが通常です。

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では、発熱後どれくらい時間が経てば確実な診断が出来るかというと、従来の季節性インフルエンザでは「体温が38℃を超えてから8時間以上経過した時点(8度を超えて8時間)」というのがこども診療所の一応の基準でした。

去年の新型インフルエンザではこの時間がさらに長く、発熱後早くても12時間、ケースによっては48時間ぎりぎりになってようやく反応するというのが現実でした。そのため最初の検査で陰性であっても再度検査をした方がかなりの数に上りましたし、2度目の検査で陽性になった方もいらっしゃいました。

それでも、WHOの調査では「日本で重症者や死亡者が少なかったのは発症後早期に治療を開始した症例が多かったから」という結果が示されたのです。この調査でいう早期とは48時間以内のことです。

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「早期診断早期治療」という言葉からは「早ければ早いほどよい」という印象を受けてしまいますが、ことインフルエンザに関しては48時間というのは早期なんだと考えて下さい。

確かに早く診断がついて、早く治療を開始すれば、高熱の苦痛から開放されるまでの時間はそれだけ短縮されます。しかし、正しく診断がつかなければ基本的には抗インフルエンザ薬を使用することにはならないという事実をしっかりと認識して欲しいと思います。

園や学校の先生、そしてマスコミがどんなに「早く病院に行け」といっても、「発熱してから48時間(早期)は抗インフルエンザ薬の効果を期待できる」と考えて、適切な時期に受診するよう心がけていただきたいと思います。


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2009年11月15日

さまよえるインフルエンザワクチン(8)

pvac.jpg 新型インフルエンザワクチンに対する「いちゃもん(?)シリーズ」も今回で終わりにするつもりです。いちゃもんとは言っても再三申し上げているように、ワクチンそのものにいちゃもんをつけているわけではなく、そのワクチン接種の基盤となるワクチン行政のあまりのお粗末さにいちゃもんをつけてきたわけです。

 今回はその最後のいちゃもんです。

 どういういちゃもんかというと、日本のワクチン行政のスタンスです。これは何も今回の新型インフルエンザワクチンに限ったことではなく、昔からそうだったのですが、日本の予防接種の仕組みというのは、「厚生労働省(昔は厚生省だけでした)が非難の矢面に立たないですむ」ということが一番大切にされてきました。

 今回の新型インフルエンザワクチンの迷走もそういう見方で眺めればすべてなるほどとうなづけることばかりです。こういうことにかけてはホントに日本の官僚は頭いいですね。

 ところで、このシリーズではいちゃもんをつけながらも新型インフルエンザワクチンにまつわる疑問点についても触れてきたつもりです。その中でまだ触れていない点がありました。それは、国産ワクチンと輸入ワクチンの違いです。

 輸入ワクチンの中にも日本と同じ製法で作られたワクチンが含まれるのかもしれませんが、輸入ワクチンと国産ワクチンの大きな違いは二つあります。一つはアジュバント(免疫補強剤)の含まれたワクチンがあること、もう一つは日本のような鶏卵を使った製法ではなく細胞培養によって製造するワクチンがあることです。

 前者の場合接種するワクチンの量が少なくてすみますから、より多くの人々にワクチンを接種することが可能になります。後者の場合には鶏卵製法より効率がよいので、短期間に多くのワクチンを製造することができ、やはりより多くの人々にワクチンを接種することが可能になります。

 今回のように短期間にできるだけ多くの人々に新型ワクチンを接種したいというときには有利な製法ですが、日本国内ではこのような製法で作られたワクチンはありません。そこが接種上の問題点となっているわけです。

 その他には、ワクチンそのものではなく、接種法の違いもあります。日本では、予防接種の注射といえば皮下注射が当たり前ですが、諸外国では筋肉注射で行われるワクチンが少なくありません。B型肝炎ワクチンなどは皮下注射より筋肉注射のほうが免疫獲得率が高いというデータがありますので、私は乳児のB型肝炎ワクチンは筋肉注射で行っています。でも、日本全体としては馴染みのない注射法なので、インフルエンザワクチンが筋肉注射だといわれると、これも一つのネックにはなっています。

 ではこれらの製法や接種法がなぜ日本で採用されないかというと、先程申し上げた日本のワクチン行政の事なかれ主義ですね。ワクチンに余分な物(アジュバント)を入れて何か副反応上の問題が出たら大変だ、ウイルスを培養する細胞株には発癌性はないものの腫瘍発現性があるかもしれないじゃないか、そんなことで訴えられたら大変だ、筋肉注射をして昔のように大腿四頭筋短縮症や三角筋短縮症なんていう訴訟問題が起きたら大変だというわけです。

 これらの懸念を安全第一という観点から見ればとてもいいことなのですが、厚労省の態度はどう見ても保身的ですからね。今までこれらの製法や接種法が日本で受け入れられなかったのは「問題が起きるぐらいならやらないほうがいい」という基本理念(?)に基づいているのです。

 でも、日本のワクチン行政が悪いとばかりは言えない面もあるのです。それは日本と外国の予防接種に対する考え方の違いです。

 予防接種(ワクチン)というのはもともとは病原体(細菌やウイルス)から作られます。いくら十分安全になるまでに弱毒化してあるとはいえ、完璧に無毒化してしまったら免疫(抗体)は作られないのです。ということはある程度の毒性を持たせたまま(危険因子)できるだけ安全に接種を行っている(効果因子)ということです。

 ワクチンは効果因子と危険因子という相反する要素を常に持っているということです。

themis.jpg 左の写真をご覧ください。ローマ神話に登場する正義の女神テミスです。西洋人にとっての正義とは、「相反する利害が天秤でバランスが取れること、そしてそれを力(剣)で守ること」なんです。女神の左手にあるのが剣です。私情を挟まないという意味で女神は目をつぶっているか目隠しをしています。この像は目をつぶっています。右下の写真は目隠しをした女神テミスです。

Themis225.jpg 予防接種でいえば、効果は当然あるべきだが、それにともなう危険(副反応)はバランスが取れる範囲で許容するということでしょうか。極端な言い方をすれば、予防接種に副反応はあって当たり前(?)だが、それは許される範囲内であるべきだということです。

 一方日本での正義はどうかというと、「正義は正義、悪は悪」です。正義はバランスではなく100%純粋に正義でなくてはならないのです。ワクチンの効果は正義、副反応は悪と見なされてしまいます。

 西洋と日本の違いは他の面でも見られます。西洋では正義を貫くためには多少の犠牲は払わざるを得ないと考えるのに対して、日本では、正義を守るのは重要だが、すべての人にとっていい結果となるよう丸く収めなければ意味がないと考えます。

 過去のハイジャック事件や人質籠城事件に対する警察や軍の対応を見ればその違いは鮮明にわかるでしょう。もっとも最近は日本の警察もわりとすぐ突入するようにはなってきていますけどね。

 それはともかく、ワクチンでいえば、病気を予防するという目的達成のためには多少の副反応があるのはやむを得ないと西洋人が考えるのに対して、病気予防という目的達成はもちろん大切だが、副反応が出るのは極力避けたいと考えるのが日本人です。

 昔、日本でMMR(はしか・おたふく風邪・風疹の三種混合)ワクチンが、髄膜炎という副反応の問題で使用中止になった頃、「アメリカのワクチンには、頭痛と吐き気が出るって書いてあるよ」と教えてくれた外国人がいました。頭痛と吐き気は髄膜炎の重要な兆候の一つです。アメリカでは頭痛と吐き気ですむような髄膜炎は許容範囲だったんですね。

 また、予防接種のあと必ず解熱剤を持たせて帰すという国もあります。つい最近の医者向けサイトに、「チェコでは新型インフルエンザのワクチン接種のあとに解熱剤の投与は必要ないという結論が出た」と書いてありました。熱が出るか出ないかではなく、最初から熱が出たときどうするかで考える、それくらい副反応については寛容なんですね。

 だからといって副反応ぐらい我慢しろというつもりは毛頭ありません。こういった考え方の違いは、どちらがいい悪いの問題ではなく、それぞれの歴史や文化の違いが現れているということなんです。でもそうやって考えると、外国産のワクチンにアジュバントが入っていたり、細胞培養でワクチンを作ったり、筋肉注射で接種したリということが理解はできますよね。それをそのまま受け入れるのにはちょっと抵抗がありますけど・・・。

 いちゃもんシリーズの最後はなんだか読みようによっては、ワクチン行政を擁護するような文章になってしまいましたけど、今回の新型インフルエンザワクチン接種を巡るワクチン行政の迷走に、私はホントに腹を立ててるんですよっ!ちっ(怒った顔)
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2009年11月13日

さまよえるインフルエンザワクチン(7)

pvac.jpg 11月11日、厚生労働省においてまたまた接種回数の見直しが行われました。内容はどうせまた変更になるに決まってますからここには掲載しませんが、接種回数の見直しというのは、2回目を接種するかどうかの問題です。

 今現場で行われているのは第1回目の接種で、推奨通りに接種すれば2回目の接種は3週間も4週間も先のことです。それよりももっと深刻な問題は第1回目の接種ですら十分なワクチンが供給されないということです。

 そのことには目をつぶって、あるいは聞こえない振りをして2回目の議論をしたってまるっきり意味のないことだと思いませんか?

 医学講座と呼ぶにはふさわしくない内容でしたが、あまりにも頭に来たのでつい書いちゃいました。
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2009年11月12日

さまよえるインフルエンザワクチン(6)

pvac.jpg 今週月曜日から医療従事者以外の方への優先接種が始まりました。コロコロ変わる御上からの指示で医療現場は混乱していて、開始時期以前から予約を受け付けていた医療機関と開始時期に入ってから予約を受け付けた医療機関が混在しているようで、接種を希望される方のほうも混乱しているようです。

 さらに小学生以下のお子さんの接種時期を早めるということがいつの間にか決められたようですが、医療機関の接種能力(主に1週間に何人に接種できるかという問題)が追いつくのかどうかとか、果たしてそれに見合うワクチンが配布されるのかどうかなど、まさに五里霧中、それどころか一寸先は見えないという状況です。

 こども診療所では事前に予約だけをしていただき、優先接種の時期が来たら順番にお知らせして接種を行うという方法で接種を開始しましたが、10月中のお申し込みだけで、江戸川区が発表した接種スケジュール通りに接種を行うための接種能力が目一杯になってしまうほどたくさんの方からご予約をいただきました。約2週間の間にその数なんと200名以上です。

 なぜ多くの方がこんなにワクチン接種に関心を寄せるのかというと、猫の目のように変わる接種計画を発表するたびに厚労省から発せられる「ワクチン接種」の大号令とそれをそのまま垂れ流す未熟なマスコミのおかげ(?)なのですが、流行の初期に対策を間違えなければこんなに躍起になってワクチン接種を呼びかけなくてもすんだのではないかと思えます。もちろん私の全く個人的な感想ですが・・・。

 去年の秋頃、トリインフルエンザ(H5N1)がヒトからヒトへの感染を起こし、新型インフルエンザとしてのパンデミックを起こすのではないかと騒がれていた当時、盛んにいわれていたのが90年前の「スペイン風邪」大流行のときの封じ込め政策です。

 アメリカのセントルイス市では流行の初期に市民の集会を禁止したり、劇場など人が多く集まる場所を閉鎖させたりといった封じ込め政策を採り、経済の停滞という近隣都市からの非難をものともせずに小規模な流行で押さえきったのに対し、フィラデルフィア市ではそういった対策をとらなかったために多数の死者を出したという事実です。

 去年の秋頃はもう「コレッキャナイ」という感じで、多くの国民が籠城を覚悟したほどでした。

 今年の春、神戸市から始まった新型インフルエンザの流行の初期にはこれに似た政策が採られ、全地域の学校の休校措置などがとられましたが、90年前とは比較にならないほどの人や物の移動の速さや経済の規模の大きさ、そして何よりも日本経済が金融危機の影響で大停滞している時期に90年前のセントルイスの真似はできないと判断した政府は早々に封じ込め政策を放棄してしまい、それ以降、誰もこの封じ込め政策のことは口にしなくなってしまいました。まるで御上が箝口令を敷いたかのようにピタッと止まってしまいました。

 確かに90年前のセントルイスのようなことをしたら日本経済は破綻していたと思います。でも地域の全学校の休校措置など、経済に対する影響を最小限に抑えての封じ込め政策はできなかったのかと思えてなりません。厚労省と文科省はもともと仲が悪いですからね。それもできなかったんでしょうね。国土交通省や経済産業省なんか大反対するに決まってますもんね。今さら言ってもしょうがないですけどね・・・。

 そして迎えたのがこの秋以降の大流行です。

 もはや残された手段は「早期診断・早期治療」と「ワクチン接種」しかありません。そこで始まったのが厚労省の「ワクチン接種」大キャンペーンで、それに乗ったマスコミのおかげ(?)でワクチンブームが起ったことは最初に申し上げた通りです。

 もしかしたら、接種計画がコロコロ変わるのは、その都度マスコミに騒いでもらおうという厚労省の作戦なのかもしれませんね。
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2009年11月11日

さまよえるインフルエンザワクチン(5)

pvac.jpg こども診療所へのワクチン配布は11月6日(金)、優先接種開始のわずか3日前のことでした。ワクチンの量は36人分ということで、小児科優先という原則に則って、1週間分の接種量としては十分な量でした。

 ところが届いたのは10ml入りのバイアルです(写真の左側のバイアル)。マスコミでは18人分などと報道されていますが、それは大人の量であって、13歳未満のお子さんの場合には6歳以上が1回0.3ml、1歳から5歳が1回0.2mlですから、両者が半々に接種すると仮定すれば36人分になります。

 しかも、一度封を切ったバイアルはその日限りの使用とし、それ以上時間がたった場合の残りは廃棄するようにと何度も何度もきついお達しが届けられています。

 それを見越して、こども診療所では、1日に30人以上の方の接種を行うスケジュールを組んでいますが、未就学児優先ということになるとほとんどのお子さんは6歳未満で、10mlバイアルは約50人分ということになります。しかも、新型インフルエンザワクチンだけを接種する時間を設けるようにとのお達しもありますから、10mlバイアルを1日で使い切ることはまず不可能な状況です。

 10mlバイアルは昔々二種混合(小学5年生から6年生で接種するジフテリアと破傷風の混合ワクチン)で使われていましたが、現在では1mlバイアルになっています。他のワクチンもプレフィルドワクチンの普及など個別化の方向に進んでいるというのに、なぜ新型インフルエンザワクチンで10mlバイアルが復活したのか大きな謎です。

 多分、短期間に大量のワクチンを出荷するには10mlバイアルのほうが効率が良かったのだろうと思いますが、昔学校で一斉に予防接種が行われていた、あるいは現在も行われているポリオの集団接種のように、一カ所にたくさんの人々を集めての一斉接種ということも想定していたかもしれません。

 いずれにしてもかなりな量のワクチンが廃棄されるのは確実に思われます。国産ワクチンだけでは足りないから使用経験のない輸入ワクチンも使うといいながら、一方ではこんな無駄なことも平気でする日本のワクチン行政はまったく世界のワーストクラスと呼ぶにふさわしいものがあります。
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2009年11月08日

新型インフル:検査の時期

mizueyubisashi.jpg 新型インフルエンザが猛威を振るっています。迅速診断キット(簡易検査)のおかげで診断そのものは確実にできるようになりましたが、医療機関では検査キットの品薄で大変困っています。

 ところで、新型インフルエンザが国内発生してから約半年が過ぎ、医者としてもだんだん相手の性質がわかってきました。季節性インフルエンザに比べると新型インフルエンザでは検査に反応するまでの時間がとても長いということもその中の一つで、このことはかなり多くの方々にもご理解いただけるようになりました。

 そうなると「発熱して何時間たてば検査でわかりますか?」というお問い合わせが増えます。それがわかればこちらも苦労はしないのですが、早い方は季節性インフルエンザ同様発熱後8時間もたてば陽性反応が出ますし、遅い方は抗インフルエンザ薬による治療開始のタイムリミットである48時間を過ぎてからやっと陽性反応が出るというケースもあります。ばらつきがとても大きいのです。

 それから一度38.5℃とか39℃以上発熱し、次の日には37℃台あるいはそれ以下に熱が下がる方もかなり多くいらっしゃいます。そのまま下がってしまえばインフルエンザではないと判断していますが、インフルエンザの方はたいていその日の夜にもう一度高熱になる傾向もあります。その場合には翌日検査するとかなりの確率で陽性反応を確認することができます。

 それと、最近私が注目しているのは熱もそうですが、患者さんのしんどさ加減です。待合室で椅子に座っていられずに横になってしまう方、自分一人では歩けずに支えられながら診察室に入ってこられる方は季節性インフルエンザ並みの時間で陽性反応が出る傾向があります。あくまでも傾向ですので絶対ではありません。

 そこでこども診療所では、「我慢できるなら、治療開始のタイムリミットである48時間ぎりぎりまで待ってください。その間1回ぐらい解熱剤を使ってもいいでしょう。でも、目つきがトロンとしているとか、ふらついて歩けないとか、からだのあちこちが痛くて(特に頭痛)我慢できないというような状況になったらその時点でお連れください」というのを検査時期の目安にしています。

 とはいっても、最初に申し上げたように検査キットの品不足は深刻で、検査をするかしないかの判断はすべて私にお任せいただいています。ご希望に添えずご不満な方が大勢いらっしゃることは重々承知しておりますが、なにとぞご理解いただきたいと思います。

 マスコミや学校・園などでは早期受診と早期治療(タミフルやリレンザの投与)を呼びかけています。厚労省としても早期受診と早期治療を呼びかけていて、検査キット不足とあいまって、検査抜きでも医師の判断で抗インフルエンザ薬を投与してもよいという通達を出しました。でも小児科医としては、未解決の問題(異常行動との関連)を抱えた抗インフルエンザ薬を確実な診断抜きでお子さんに投与することは極力避けたいと思っています。このことについてもどうかご理解いただきたいと思います。
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2009年11月06日

さまよえる新型インフルエンザワクチン(4)

pvac.jpg 新型インフルエンザワクチンの接種上の注意が改訂されました。いつ?10月18日です。これじゃこの前の記事とおんなじじゃん。

 実はもう一つ改訂された部分があったんです。それは、他のワクチンと同時に接種してよいかどうかという部分です。この前と同じように改訂前の文章をまずご覧ください。

 「2.他のワクチン製剤との接種間隔
   生ワクチンの接種を受けた者は、通常、27日以上、また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は、通常、6日以上の間隔を置いて本剤を接種すること。」

 これがどうなったかというと・・・。

 「2.他のワクチン製剤との接種間隔
   生ワクチンの接種を受けた者は、通常、27日以上、また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は、通常、6日以上の間隔を置いて本剤を接種すること。ただし、医師が必要と認めた場合には、同時に接種することができる(なお、本剤を他のワクチンと混合してはならない)。」

 「ただし、」以下、他のワクチンと同時に接種してもいいよという部分が追加になっています。

 ここでいう他のワクチンというのは何でもいいのですが、今回改訂になった理由は主に季節性インフルエンザと接種時期が重なるからです。

 接種時期が重なって新型インフルエンザの接種が間に合わなくなると困るから、同時に接種できるように改訂するなんてのは本末転倒も甚だしい限りですが、今回改訂されたのはこの新型インフルエンザワクチンだけではありません。

 主に高齢者の肺炎予防に接種されている肺炎球菌ワクチン(10月に輸入販売が承認された乳幼児用の肺炎球菌ワクチンとは違います)も他のワクチンと同時接種ができるように改訂されました。だったらいいじゃないかと思うかもしれませんが、これも新型インフルエンザがらみです。高齢者がインフルエンザにかかって肺炎を合併すると重症化しやすく亡くなる方も多くなるという背景があるのです。これは何も新型インフルエンザに限ったことではなく季節性インフルエンザの場合にも当てはまることです。

 ではなぜこの時期に改訂されたのか?

 「いや、ちょうど改訂の時期にきていたんだよ」と言われてしまえばそれまでですが、前回の妊婦への安全性といい、同時接種といい、「そんなにまでしてみんなにワクチン接種を受けさせたいのかよ!?」と勘ぐりたくなりますよね。

 諸外国では小児への複数ワクチンの同日接種はごく当たり前のこととなっていますが、日本ではまだまだ抵抗が強いこの時期に何も慌てて改訂しなくてもいいじゃないかと思ってしまいます。

 ところで、こども診療所では保護者の方の合意があれば今までもDPT三種混合とHibワクチンの同時接種を行っていましたし、大人の方にはA型肝炎ワクチンとB型肝炎ワクチンの同時接種など、数は少ないですけれど同日接種が可能なワクチンでは私自身は抵抗なく同時に接種していました。

 でも、新型インフルエンザワクチンと季節性インフルエンザワクチンの同時接種は頼まれてもやりません。固くお断りします。外国であれ国内であれ使用経験が蓄積され、安全性が確認されているならともかく、添付文書に「新型インフルエンザA型(H1N1)ワクチンとしては使用経験がなく、添付文書中の副反応、臨床成績、薬効薬理などの情報については季節性インフルエンザワクチンとしての成績を記載している」なんてなことを堂々と(?)書いているようなワクチンの同時接種は行いません。いっそのこと「新型インフルエンザA型(H1N1)ワクチンとしては使用経験がなく、添付文書中の副反応、臨床成績、薬効薬理などの情報については記載することができない」と正直に書いてほしいですよね。

 ま、来年には新型インフルエンザワクチンと季節性インフルエンザワクチンを一緒にして1回の接種で両方の効果が得られるワクチンになるという情報もありますから、そうなってくれれば同時接種がどうのこうのという話もなくなるわけで、是非実現してほしいと思うし、そうなる可能性があるならなおさら今年は同時接種は行わない方が身のためだと思っています。
posted by YABOO!JAPAN at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | こども診療所医学講座 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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