2009年11月03日

さまよえる新型インフルエンザワクチン(3)

pvac.jpg 新型インフルエンザワクチンの接種上の注意が改訂されました。いつ?10月18日です。

 「妊婦、産婦、授乳婦などへの接種」の項目です。医療従事者用に届いたワクチンの箱の中には改訂前の注意が印刷されていました。

 「妊娠中の接種に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には接種しないことを原則とし、予防接種上の有益製が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。」と書いてあります。

 改訂後の文章は次の通りです。「妊娠中の接種に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には予防接種上の有益製が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。
なお、小規模ながら、接種により先天異常の発生率は自然発生率より高くならないとする報告がある。※
※出典:Birth Defects and Drugs in Pregnancy, 1977」

 原則接種禁止が削除され、接種しても先天異常の発生率は高くならないという文が追加されました。でも、ここで参考にした文献というのは1977年に発表されたものですよ!世界的に認められた論文ならともかく、今どき30年前の論文引っ張り出してきても誰も本気にしませんよ!

 しかもそういうことをわざわざ書き足すところがなぁ〜んかうさんくさいですね。

 それに妊娠している方が最優先の接種対象になるって決まったのは改訂が行われた10月18日よりずっと前のことですもんね。お役所仕事とはいえ、遅すぎるんじゃないですか?ま、実際に接種が始まる前だからいいんだと言われてしまえばそれまでですけど・・・。

 こども診療所には産科がありませんから、妊娠している方にワクチン接種をしないですむわけで、内心ホッとしているっていうのが本音です。
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2009年10月31日

さまよえる新型インフルエンザワクチン(2)

pvac.jpg 江戸川区では今年の6月22日に最初の新型インフルエンザの患者さんが確認されました。以来約4か月で、区内31の定点医療機関だけで累積報告数は3,500名に達しようとしています。こども診療所でもお子さんを中心にすでに何十人もの方がA型インフルエンザと診断され治療を受けられています。江戸川区全体ではすでに何万人という数の方がA型インフルエンザにかかっただろうと予測されます。

 流行の初期にはインフルエンザの診断がつくと引き続き遺伝子検査などで新型インフルエンザであることが確認されるようになっていましたが、流行の拡大にともなって遺伝子検査は行われなくなりました。

 一般の医療機関でA型インフルエンザと診断されれば、それは新型インフルエンザなのだという暗黙の了解となったからです。

《受けるべきか?受けざるべきか?》
 しかし厳密に言えば、一般の医療機関ではA型インフルエンザと診断はしたけれど、新型か季節性かの診断は行っていないわけで、この4か月の間にA型インフルエンザにかかってしまった方々が今直面しているのは、新型インフルエンザワクチンの接種を受けたほうがいいのか、それとも受けなくても大丈夫なのかという問題だと思います。

 まず原則論だけをお話しすれば、新型インフルエンザにすでにかかった方は短期間の免疫を獲得していますから、ウイルスがよほど大きな変異を遂げない限り、今季の予防接種は不要です。もっともウイルスが大きな変異を遂げてしまったら、現在のワクチンも無効になってしまいますから、条件なしで「新型インフルエンザにすでにかかった方は今季の予防接種は不要である」と申し上げていいでしょう。

 問題はかかったA型インフルエンザが新型だったのか季節性だったのかがわからないということです。

 今年の8月31日から10月25日までの間に東京都健康安全研究センターに持ち込まれた463検体のうち261検体でインフルエンザウイルスが検出され、そのうち季節性インフルエンザウイルスは1検体のみであったというデータが公表されています。260/261=0.99617、つまりこの時期にインフルエンザと診断された方の99.6%は新型インフルエンザであったという数字です。

 この数字を参考になさって、ご自分が、あるいはお子さんがかかったA型インフルエンザは新型だったのか季節性だったのかを判断していただくしかありません。

 また逆にこの数字はインフルエンザにかかった方が1,000人に達したらそのうちの4名は季節性インフルエンザだったという数字でもあります。数字だけでいえば、江戸川区で今年の6月22日以降インフルエンザにかかった約3.500名(定点医療機関からの報告のみ)の方の中に14名の季節性インフルエンザの患者さんがいらしった可能性があるということでもあります。江戸川区全体で単純計算すれば100名から150名程度の方が新型インフルエンザだったかもしれないのです。

 もしその中の一人だったら・・・!?

 と不安を感じた方は接種を受けたいと思われるでしょうが、その時に気になるのが副反応の問題でしょう。

 国産の新型インフルエンザワクチンは今まで何十年も季節性インフルエンザワクチンを製造してきた会社が今までと全く同じ製法で製造したものです。今までの季節性インフルエンザワクチンも、毎年ウイルス株が変わっていたわけですから、今回もウイルス株が新型インフルエンザウイルスに変わっただけと考えることができます。ですから理論的には今までのワクチン以上の副反応はないはずです。

 しかし、人間の体の中に入れる物質(薬品やワクチンなど)は使ってみないとわからないという面もあります。同じインフルエンザでいえば、使い始めには何もないと思われていたタミフルが「異常行動」という問題を引き起こしたことは記憶に新しいでしょう。

 というわけで、といっても結論の出せる問題ではないのですが、まったく個人的な感想としては、今年の6月以降にA型インフルエンザと診断された方にはあまり積極的に接種をお勧めしたくないなというのが私の本音です。
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2009年10月30日

さまよえる新型インフルエンザワクチン(1)

pvac.jpg 日本のワクチン製造技術は世界のトップクラスです。DPT三種混合と水痘(水ぼうそう)ワクチンは日本で開発され世界中で使われています。ですから、現在医療従事者を対象として接種が始まった新型インフルエンザワクチンの効果については、それなりのものを期待できると信じています。

 一方、日本のワクチン行政は世界のワーストクラスです。もっとも「技術も金もあるのに」という条件がつきます。技術もお金もないために十分なワクチン接種を行えない世界の最貧国に比べればずっとましです。でもその程度です。

 今回の新型インフルエンザワクチンの接種についてもそのワーストさが随所に出て、特に接種回数に至ってはまだ迷走しています。

《1回接種?2回接種?》
 当初新型インフルエンザワクチンの接種回数は全員2回と言われていました。

 季節性インフルエンザの場合には13歳以上だったら過去の感染歴などで基礎免疫があるから1回接種でも大丈夫ということになっています。これはこれで医学的に筋は通っています。

 三種混合(DPT)のように、小さい頃に基礎免疫をつけておけば、小学校高学年になってから1回だけ追加接種をすれば効果が増強されるというのと同じで、ブースター効果といわれています。

 ところが新型インフルエンザは今まで誰もかかったことがない、つまり誰も基礎免疫を持っていないわけです。それで「新型インフルエンザには今まで誰もかかったことがなくて誰も免疫を持っていないのだから全員2回接種を行う」というのがワクチン接種回数の出発点でした。

 しばらくして、実際にワクチンが完成し臨床試験を行ったところ、日本の優秀な技術で作られたワクチンですから1回の接種でもかなり高い効果(抗体価だけの話ですが)が得られることがわかってきました。その頃から1回接種案が出始めたのですが、その頃はまだ現在のようなすさまじい流行期には入っていませんでした。

 1回の接種で高い抗体価が得られるなら1回の接種でいいじゃないかと思われるかもしれませんが、話はそう簡単ではないのです。

 問題はその高い抗体価がどれぐらいの期間持続するかです。季節性インフルエンザワクチンでは、3週間隔で2回接種すると約3か月は有効抗体価が持続すると言われています。ただし基礎免疫がないと約2か月程度に短縮してしまうとも言われています。では基礎免疫のない状態で1回接種だったらどうなるのか?資料がないために正確な数字は出せませんが、2か月より短いであろうことは容易に推測されます。

 これではインフルエンザの流行期を乗り切ることは難しいと言わざるを得ません。

 それで1回接種案は「案」のままでしばらく議論が続いていたわけです。

 ところがそうこうするうちに日本国内でも大流行が起こってしまいました。そうなると、流行期全体をカバーする抗体価も必要ですが、大流行期に少しでも感染する人を減らすということも同じくらい重要になってきます。

 後者の考え方に沿えば、「1回接種をなるべく早くなるべく多くの人に」という結論は当然導き出されてきます。そこで専門家会議で一旦は「1歳から12歳までは2回接種、それ以外は1回接種(妊婦に関しては検討を続ける)」という結論が出されました。

 今までの話を読んできた方にはこの結論が「理にかなっている」と感じられるはずです。

 ところがところが、ここで厚労省政務官からの天の声が下りました。その一声で「医療従事者のみ1回接種、他は全員2回接種」ということに変わってしまったのです。1回にされてしまった医療従事者だから言うんじゃありませんが、この決定のどこに医学的根拠があるのか皆目見当がつきません。

 むしろ、「医療従事者は流行期を通して患者に接するから2回、他は全員1回接種にして少しで多くの人が少しでも早く接種を受けられるようにする」というほうが、我田引水のように思われるかもしれませんが筋としては通っていると思いませんか?

 そしてやはりというか当然というか、日本ウイルス学会から非難の声が挙がりました。新型インフルエンザ予防接種に関する専門家会議のメンバーには日本ウイルス学会の会員が多数参加しています。その人達が専門的な知識と現在の日本でのインフルエンザ流行状況を勘案して出した結論を政治家の一言でひっくり返されたら腹立ちますよね。

 それで結局どうなるのかはまだ結論が出ていないということになるんだと思います。さすがに民主党といえども「マニュフェストに書いてあるから」とは言わないでしょうからね。

 結論がどっちに転んでも、ワクチンそのものを国が押さえて配給しているわけで、私一人が1回接種か2回接種か悩んでも、結局は届けられたワクチンを黙々と接種していくだけの話なんですけどね。
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2009年09月23日

新型インフルの診断

clinic.jpg 新型インフルエンザの流行拡大はとどまるところを知らないという勢いです。私たち町医者も新型インフルエンザの患者さんを診察する機会が増えてきて、新型ならではの特徴や季節性インフルとの違いなどがおぼろげながらわかってきました。

 流行の初期には、新型とはいっても季節性と同じA型(H1N1)で、タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ剤がよく効くといったことから、診断に関しても今までの季節性インフルエンザと同じように考えてきました。

 ところが、症例を重ねるにつれて季節性インフルエンザとどうも違うという点がいくつか感じられるようになってきました。しかし、こども診療所での経験だけで判断はできないと思って、胸の内にしまっておいたのですが、先日の日曜日に江戸川区医師会休日診療所の当番で多くのインフルエンザの患者さんを診察するにつれ、私の感じていたことはほぼ間違いないだろうと思えるようになってきました。

 インフルエンザの診断は今では季節性・新型を問わず迅速診断キット(簡易検査)によって行われるのが当たり前になっています。こども診療所でも医師会休日診療所でもそのようにしていますが、新型インフルエンザの場合季節性に比べるとこの診断キットでの反応が弱いと思います。それから発症後(発熱後)診断キットでの反応が陽性になるまでの時間が季節性インフルエンザより長くかかる(陽性になるのが遅い)と思います。

 具体的にいうと、新型インフルエンザでは、陽性になるのに24〜48時間、時にはそれ以上かかるということです。今までこども診療所では熱が38.0℃(8度)を超えて8時間(8ー8)というのを検査を行う目安としていましたが、この目安で検査をすると、本当はインフルエンザなのに検査上はそうでないと判断されるケースが増えてしまう恐れがあるということです。

 今のところ、新型インフルエンザウイルスの抗原性が季節性インフルエンザウイルスの抗原性よりも弱いという情報はないようなので、「お前の印象にすぎないだろう」と言われてしまえばそれはそうなのですが、現場で直接診療にあたっている医者の印象は時として理論以上の真実を見ていることがあるのです。

  実際には全員がこのように遅れて反応するわけではないので、いつ検査をすればよいのかという一律の基準を決めるのは難しいと思います。診察から得られた所見や、所属している園や学校での発生状況、ご家族内の感染者の有無など、ケーズバイケースで決めていくしかないと思いますが、患者さんの全身状態さえ許せば、検査の時期は、治療開始のタイムリミットである発症後48時間以内でなるべく遅い方がいいと思います。
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2009年08月26日

新型インフルエンザ対策(医療編)

mizueyubisashi.jpg 先週厚生労働省はついに我が国は新型インフルエンザの流行期に突入したと発表しました。

 今日は流行期における医療機関の対応(対策)についてお話ししますが、その前に患者さんの側にお願いすることがあります。

 発熱、のどの痛み、頭痛、せき、全身倦怠感、関節痛など、インフルエンザかもしれないと思われた方はもちろんですが、そうでない方も発熱があれば必ずマスクをして医療機関を受診してください。

 さて、新型インフルエンザが流行期に入った場合ですが、お近くの医療機関を受診することは可能です。封じ込め期のように発熱外来を受診するということはありません。

 医療機関では可能であれば迅速診断キットによって検査を行い、インフルエンザであることを確実に診断して、タミフルなりリレンザといった抗インフルエンザ薬を処方いたしますが、流行状況によっては検査キットがなくなる恐れもあります。そのような場合には医師の診察によってインフルエンザが疑われる場合には検査なしで抗インフルエンザ薬を投与するということになっています。

 大流行期になってしまったら(すでになっているわけですが)、「熱あらばインフルエンザ」というわけです。

 世の中が大人だけでできているのであればこれでいいかもしれません。大人は滅多に熱を出しませんから、「この時期熱を出すようならもうそれはインフルエンザだよ」で通用するかもしれません。

 でも、小児科の医者から見れば「そんな単純にできるわけないじゃん」です。今の季節高熱が出たら、ヘルパンギーナかもしれないしプール熱かもしれないし扁桃炎かもしれないし、とにかくこどもはしょっちゅう熱を出すんです。たいていは診察だけで区別はできますが、それでも、異常行動が問題になっているタミフルを診察だけで自信を持って出せる小児科医はまずいないでしょう。

 「国(政府)の方針だから」と割り切れる医者もいるかもしれませんが、5月以来の数々の新型インフルエンザ対策の中には「こどもをどうするか?」という視点が全くないんです。そりゃ大人がたくさんインフルエンザにかかって社会活動が停滞してしまったら大変なことになるのはわかっています。でも、子育て支援だ少子化対策だと口では言いながら結局は大人のための政策だということがこういうところでばれてしまうんですね。

 文部科学省の事務次官が記者会見しましたが、こども達を守ろうという姿勢は全く見られず、「厚生労働省に、文部科学省がしっかりやらなかったから新型インフルエンザが大流行したなんて言われたくない」というのが見え見えの会見でした。

 国の新型インフルエンザ対策の最後の最後でいいから、「小児の場合はこうする」っていう項目を入れてほしいですよね。
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2009年07月16日

超カンタン!手作りマスクの作り方

 東京都では新型インフルエンザ対策の診療体制を変更し、7月11日(土)から発熱外来をなくし、すべての発熱者が一般の医療機関を直接受診してもよいということにしました。

 これにともない医療機関の側も患者さんの側も今まで以上に医療機関内での感染予防を心がけなければいけないのですが、ご承知のようにマスクの入手が困難な状況が続いています。

 そこで今日は、こども診療所特製「超カンタン!手作りマスクの作り方」をご紹介します。写真をクリックすると拡大されます。

mask1.jpg まず30cm角のガーゼ2枚と輪ゴム2本を用意します。ガーゼがなければハンカチでもペーパータオルでもいいのですが、お子さんの呼吸の妨げにならないという点ではガーゼがお勧めです。


mask2.jpg そのうちの1枚を四つ折りにします。大人用でしたら三つ折りがいいでしょう。年齢や顔のサイズに合わせていかようにも折ることができます。



mask3.jpg 両端から輪ゴムをくぐらせます。輪ゴムと輪ゴムの間が口と鼻に当たる部分ですので、口と鼻の両方が隠れる大きさになるようにします。



mask4.jpg 片側を輪ゴムの位置から内側へ折りたたみます。





mask5.jpg 反対側も輪ゴムの位置から内側へ折りたたみます。





mask6.jpg もう1枚のガーゼ(あてガーゼ)をマスクと同じサイズになるように折りたたみます。このときティッシュぺーパーを一緒に折り込めば予防効果はさらに高まりますが、息苦しさを増します。予防効果と呼吸のしやすさは反比例とお考えください。

mask7.jpg あてガーゼを内側に重ね置きします。マスクによって顔に軽く押しつけられますから、このあてガーゼを固定する必要はありません。



mask8.jpg 外側にみずえちゃんシールを貼って出来上がり!みずえちゃんシールに予防効果はありません。おまじないですね。

 耳にかける部分が輪ゴムなので長時間かけていると耳が痛くなってしまいますが、診療所に入って診察をして外へ出るまでの時間ぐらいなら痛くはありません。また、この部分を他の素材にすることで痛みを和らげることも可能ですが、手に入りやすさからすると輪ゴムが一番だと思います。
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2009年06月27日

新型インフルエンザワクチン情報

vac100.jpg 新型インフルエンザに対するワクチン製造についての最新情報です。

 厚生労働省(厚労省)は6月19日に、新型インフルエンザワクチンの製造を7月中旬から開始すると発表しました。政府の新型インフルエンザ対策本部の専門家諮問委員会から「季節性インフルエンザワクチンの製造を中止し、新型に切り替えるのが適当」という答申を受け、これに沿った決定を行ったものです。

 厚労省の試算では、すでに国内メーカーに配布されたワクチンを作る新型インフルエンザウイルスの候補株が、季節性インフルエンザウイルスと同程度に増殖すると仮定した場合、12月末までに約2500万人分を製造できるんだそうです。そして早ければ10月から一般に供給できるようになり、接種が可能になるんだそうですが、ウイルスの増殖が思うように行かなければ当然供給は遅れることになります。

 では、季節インフルエンザのワクチンはどうなるかといいますと、7月中旬で製造中止になってしまうのですが、それまでに約4000万人分を製造できる見通しだそうで、例年の製造量より約20%少なくなるそうですが、厚労省は、去年の接種実績から見ると大きな影響はないだろう、つまり品薄になることはないだろうと見ているようです。

 ところで、新型ワクチン2500万人分というのは十分なんでしょうか?

 今でもかなりの方が「いつものワクチン受ければ新型にも効きますよね」と質問なさいます。これは大間違いです!今までのワクチンは今までのインフルエンザ(新型の登場で季節性と呼ばれるようになったインフルエンザ)にしか効きません。

 新型インフルエンザにかかりたくなかったら新型インフルエンザワクチンを接種しればいけません。新型ワクチンは新型にしか効きませんから、新型も季節性もかかりたくないと思ったら両方のワクチンを接種しなければなりません。

 もし、4000万人近い人が両方のワクチンを接種したいと考えたら、新型ワクチンは約1500万人分足りなくなります。何年か前のように、ワクチンの争奪戦が起こり、一部の大手病院には十分在庫があるのに、私達町医者の所には全く回ってこないなんて事態になるかもしれません。

 こども診療所でもすでに内々の発注はしてあるのですが、まだワクチンの値段すら決まっていない状況ですから、入荷できるのかできないのか、皆目見当もつきません。十分な量のワクチンが手にはいるよう祈るばかりです。
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2009年06月02日

新型インフルエンザウイルスの遺伝子解析

mizueyubisashi.jpg 神戸で発症した新型インフルエンザ患者9名から採取したウイルスの遺伝子解析が完了したと報道されています。その結果、新型インフルエンザが国内に持ち込まれたのはゴールデンウィークの始め頃、4月の末か5月の始めである可能性がでてきたということです。

 理由は、遺伝子の塩基配列がゴールデンウィーク明けに成田の検疫で見つかったウイルスのそれよりも古く(といっても2週間程度の違いですが)、4月中最初にメキシコやアメリカで新型インフルエンザが騒がれ出した頃の配列に近いということです。

 傍証としては、神戸地区の薬剤師会のサーベイランスで、4月末から抗インフルエンザ薬(タミフルやリレンザ)の処方数が急に増えだしたという事実があるそうです。

 これが事実だとすると、新型インフルエンザは4月末にはすでに日本に上陸していて、かなりな流行を起こしていたけれど、一般の医療機関で、多分A型インフルエンザとして治療されていたということになります。それでもニュースになるほどの大きな流行にはならなかったということです。

 それじゃあ、今までの大騒ぎは何だったんだ!?

 と、思ってはいけません。

 インフルエンザウイルスの変異の速さに注目してください。わずか半月の間に違いがわかるほどに変異するこの速さは驚くべきものがあります。現時点での日本での新型インフルエンザはこれから終息に向かうと思います。だからといって新型インフルエンザウイルスが地上から消滅するわけではありません。驚くほどのスピードで変異を遂げながら、冬が来るのを待っていると考えてください。特に南半球ではこれからが冬です。そこでの変異によって今は弱毒株であるこのウイルスがいつ強毒株になってもおかしくはないのです。

 新型インフルエンザを甘く見てはいけません。今回の騒動は冬にはやってくるであろう第2波へ向けての予行演習だったと考えてください。そして冬にやってくるウイルスは人間にもっと適応した(変異した)ウイルスだと考えてください。

 ところで、60歳以上の人は新型インフルエンザにかかりにくいといわれていますが、そのことについて私なりに考えてみました。

 今回解析したウイルスの塩基数は約13,000だったそうです。地球上のすべての生き物の遺伝子は、アデニン・グアニン・チミン・シトシンという4種の塩基だけでできていて、その並ぶ順序によって細胞の特徴が作られていきます。並び方が1カ所でも違えばそれは変異ということになるのです。

 では、変異の起こる回数はどうなるでしょう?塩基の種類が4種類で塩基数が13,000ですから、新型インフルエンザウイルスの場合、4の13,000乗の変異が起こりうるということです。4の13,000乗というのがどういう数字になるかというと、4の10乗が1,048,576(100万ですよ!)ですから、それにさらに4を1,300回かけた数字ということになり、とても計算できそうにありません。きっと摩訶とか不思議という単位になるんでしょうね。

 ですから、今までと同じ塩基配列が登場する確率はほとんどないといってもいいんです。でも、でもですよ。もし仮に60年前にはやっていたインフルエンザウイルスの塩基配列と今の新型インフルエンザウイルスの塩基配列がとても似ているという偶然が起こったとしたら、60年前のインフルエンザウイルスに遭遇したことのある人には免疫の記憶が残っているということになり、新型インフルエンザに対しても有効であるということは考えられなくもないのです。

 ウイルスの先祖がえりといえなくもありませんが、あくまでも私の推論です。
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2009年05月24日

新型インフル 東京都も国内発生期に

mizueyubisashi.jpg 2日前までは、「東京都はまだ海外発生期」とお伝えしていましたが、関西を旅行した方が帰京後発症したことで、東京都も国内発生期として対策を講じる必要が出てきました。

 国内発生期には発熱のある患者さんは一般の医療機関を直接受診するのではなく、各市区町村に設置された「発熱相談センター」に電話やファックスで連絡を取り、発熱までの経過などによって、「発熱外来」のある医療機関を受診するか、あるいは一般の医療機関でもよいかの判断と指示を受けることになります。

 江戸川区の場合、「発熱相談センター」は今までもお伝えしているように、江戸川保健所内に設置されていています。電話は午後9時まで受け付けています。

平日9時〜21時は江戸川区保健所発熱相談センター(保健予防課感染症第一係)へ
   電話     5661−2475
   ファックス  3655−9925


夜間・休日は東京都休日夜間発熱相談センターへ
   電話     5320−4509


 また江戸川区では新型インフルエンザに関する一般的な相談を区内すべての健康サポートセンター(HSC)で平日9時から17時まで受け付けています。電話とファックスは次の通りです。

 中央 HSC:電話 5661-2467 / ファックス 3655-9925
 小岩 HSC:電話 3658-3171 / ファックス 3671-5798
 葛西 HSC:電話 3688-0154 / ファックス 3878-9834
 清新町HSC:電話 3878-1221 / ファックス 3878-9847
 小松川HSC:電話 3683-5531 / ファックス 3683-5664
 なぎさHSC:電話 5675-2515 / ファックス 5675-2519
 東部 HSC:電話 3678-6441 / ファックス 3678-6444
 鹿骨 HSC:電話 3678-8711 / ファックス 3678-8714

 また、国内における新型インフルエンザ症例の蓄積から、当初予想されたよりも比較的軽症例の多いことがわかってきたため、対策指針が下の図のように改訂されました。

shishin.jpg

 東京都は左側の「患者が少数の地域」となります。新しい指針に沿ってこども診療所では、38℃以上のお熱のある方の診療について以下のようにさせていただくことにいたしました。

 中学生以上で38℃以上の熱のある方は付き添いの保護者の方も含めて、診療所内に入らないようお願いします。事前に発熱相談センターに電話をしていただき、一般の診療所を受診して差し支えないという指示が出た方は必ずマスク着用の上診療所内に入っていただきます発熱外来を受診するよう指示された方はこども診療所で診察することはできません。発熱外来がどこに設置されているかは公表されていません。

 小学生以下のお子さんの発熱の場合には、保護者の方が発熱していない場合に限って、直接こども診療所を受診して下さい。その際必ずマスク着用の上診療所内に入るようにして下さい。マスクはご自分で用意していただきます

 お熱のない方の診療については今まで通りですが、診療所内では全員にアルコールによる手の消毒をお願いします。さらに、全員にお熱を測っていただきます。新型インフルエンザ蔓延阻止のためご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 再三申し上げているように、政府機関による検査の結果、新型インフルエンザウイルスはタミフルにもリレンザにも耐性がないことが報告されています。つまり感染したとしても季節性インフルエンザ同様の治療薬が効果的だということです。いたずらに恐怖心をあおるような情報に惑わされず冷静に対処していただきたいと思います。
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2009年05月22日

新型インフル 東京都は海外発生期

mizueyubisashi.jpg 八王子に続いて目黒区でも新型インフルエンザの感染者が確認されました。東京都では各地区の医師会などを通じて感染拡大防止策を次々と打ち出しています。

 これらの封じ込め作戦は、都内在住の二人の感染者から他の人への感染を防ぐ、あるいはすでに感染が起こっていれば発病する前に隔離できるよう、二人の感染者と濃厚に接触した人たちを捜し出す、というものです。

 二人の感染者はどちらもアメリカに感染源があると見られているからで、国内の感染者からの二次感染ではないのです。ですから、下の図を見ていただくとお分かりのように、東京都の場合はまだ海外発生期であり、この二人からうつされた、あるいは国内の別の場所でうつされたという人が現れてからが国内発生期になるとご理解下さい。ただし、病気の発生が図のようにきっちりと段階づけられるわけではありませんから、国内発生期の方針である「ウイルスの限局化」(ウイルスをその人や場所だけに封じ込める)も同時進行で行われているわけです。

phase_jp.gif

 もちろん、いつどこで国内二次感染者が出現するかわかりませんから、その時に備えて医療機関側でも万全の準備を進めていますし、一般の方々にもうがい・手洗い・マスクの着用などで予防に努めていただきたいと思います。

 こども診療所では、季節性インフルエンザの流行期には待合室に使い捨てのマスクを置いて待合室での感染防止に努めていますが、このところの国内感染騒ぎで、マスクの入手が困難になっています。感染予防のマスクはご自分でご用意下さいますようお願いいたします。

 また、政府機関による検査の結果、新型インフルエンザウイルスはタミフルにもリレンザにも耐性がないことが報告されています。つまり感染したとしても季節性インフルエンザ同様の治療薬が効果的だということです。いたずらに恐怖心をあおるような情報に惑わされず冷静に対処していただきたいと思います。
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2009年05月20日

新型インフルエンザ流行地域拡大

clinic.jpg 国内での新型インフルエンザ流行地域の最新情報をお伝えします。流行地域だけでなく、新型インフルエンザに関する最新情報は厚生労働省のホームページに逐次掲載されています。(黄色の文字がリンクしています)

 また、4月25日(土)夕方より厚生労働省は一般の方からの電話相談窓口を開設いたしました。
○開設期間  平成21年4月25日(土)〜当面の間
  ※土曜日・日曜日・祝日を含む
○受付時間   9:00〜21:00
○電話番号   03−3501−9031
○FAX番号  03−3501−9044

 上記のホームページには都道府県や政令指定都市の相談窓口に関する情報も掲載されています。

 さて、5月18日午前2時現在の国内での流行地域は兵庫県神戸市(東灘区、灘区、中央区、兵庫区、長田区、北区の区域に限る)、兵庫県芦屋市の全域、大阪府豊中市の全域、大阪府池田市の全域、大阪府吹田市の全域、大阪府高槻市の全域、大阪府茨木市の全域、大阪府八尾市の全域、大阪府箕面市の全域、大阪府三島郡島本町の全域となっています。

 この地域に出かけた方、あるいは出かけた方と接触した方は体調に十分注意し、発熱や風邪症状が現れた場合には、一般の医療機関を受診せず、まず、江戸川区発熱相談センターにご連絡ください。

平日9時〜17時は江戸川区保健所発熱相談センター(保健予防課感染症第一係)へ
   電話     5661−2475
   ファックス  3655−9925


夜間・休日は東京都休日夜間発熱相談センターへ
   電話     5320−4509


 また江戸川区では新型インフルエンザに関する一般的な相談を区内すべての健康サポートセンター(HSC)で平日9時から17時まで受け付けています。電話とファックスは次の通りです。

 中央 HSC:電話 5661-2467 / ファックス 3655-9925
 小岩 HSC:電話 3658-3171 / ファックス 3671-5798
 葛西 HSC:電話 3688-0154 / ファックス 3878-9834
 清新町HSC:電話 3878-1221 / ファックス 3878-9847
 小松川HSC:電話 3683-5531 / ファックス 3683-5664
 なぎさHSC:電話 5675-2515 / ファックス 5675-2519
 東部 HSC:電話 3678-6441 / ファックス 3678-6444
 鹿骨 HSC:電話 3678-8711 / ファックス 3678-8714
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2009年05月19日

新型インフルエンザの流行地域

clinic.jpg 新型インフルエンザがついに国内でも発生してしまいました。今までは海外での発生だけでしたので、「新型インフルエンザが蔓延している国または地域」というのは、海外のことだけでした。つまり、メキシコ、米国(本土)、カナダの三か国です。

 しかし、国内での発生によってこの「地域」というのが国内の地域も含めるようになりました。

 5月17日現在では兵庫県神戸市(東灘区、灘区、中央区、兵庫区、長田区、北区)、兵庫県芦屋市、大阪府豊中市、大阪府吹田市、大阪府茨木市が国内での蔓延地域とされています。

 この地域に出かけた方、あるいは出かけた方と接触した方は体調に十分注意し、発熱や風邪症状が現れた場合には、一般の医療機関を受診せず、まず、江戸川区発熱相談センターにご連絡ください。

平日9時〜17時は江戸川区保健所発熱相談センター(保健予防課感染症第一係)へ
   電話     5661−2475
   ファックス  3655−9925


夜間・休日は東京都休日夜間発熱相談センターへ
   電話     5320−4509


 また江戸川区では新型インフルエンザに関する一般的な相談を区内すべての健康サポートセンター(HSC)で平日9時から17時まで受け付けています。電話とファックスは次の通りです。

 中央 HSC:電話 5661-2467 / ファックス 3655-9925
 小岩 HSC:電話 3658-3171 / ファックス 3671-5798
 葛西 HSC:電話 3688-0154 / ファックス 3878-9834
 清新町HSC:電話 3878-1221 / ファックス 3878-9847
 小松川HSC:電話 3683-5531 / ファックス 3683-5664
 なぎさHSC:電話 5675-2515 / ファックス 5675-2519
 東部 HSC:電話 3678-6441 / ファックス 3678-6444
 鹿骨 HSC:電話 3678-8711 / ファックス 3678-8714
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2009年05月11日

新型インフルエンザ水際で阻止

 カナダに短期留学し、アメリカ経由で帰国した大阪の高校生3人と引率の教師が、新型インフルエンザであることが判明し、成田空港近くの病院に収容されました。

 国内で診断され、国内の病院に収容されていますが、新型インフルエンザの国内発生ではありません。この4人は感染力がなくなるまで病院に収容されていますから他のヒトにうつすということはありません。水際阻止作戦の網をすり抜けた患者さんが、日本国内で二次感染を引き起こしたときに初めて「国内発生」ということになるのです。

 江戸川区では世界的な豚インフルエンザ(インフルエンザAH1N1)の発生に伴い発熱相談センターを設置しました。流行地区からの帰国後、鼻水、咽頭痛、咳、発熱、倦怠感などインフルエンザ様の症状が見られたときは、すぐに医療機関を受診せず、発熱相談センターにご連絡ください。

平日9時〜17時は江戸川区保健所発熱相談センター(保健予防課感染症第一係)へ
   電話     5661−2475
   ファックス  3655−9925


夜間・休日は東京都休日夜間発熱相談センターへ
   電話     5320−4509


 また江戸川区では新型インフルエンザに関する一般的な相談を区内すべての健康サポートセンター(HSC)で平日9時から17時まで受け付けています。電話とファックスは次の通りです。

 中央 HSC:電話 5661-2467 / ファックス 3655-9925
 小岩 HSC:電話 3658-3171 / ファックス 3671-5798
 葛西 HSC:電話 3688-0154 / ファックス 3878-9834
 清新町HSC:電話 3878-1221 / ファックス 3878-9847
 小松川HSC:電話 3683-5531 / ファックス 3683-5664
 なぎさHSC:電話 5675-2515 / ファックス 5675-2519
 東部 HSC:電話 3678-6441 / ファックス 3678-6444
 鹿骨 HSC:電話 3678-8711 / ファックス 3678-8714
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2009年04月29日

トリじゃなくてブタだった(新型インフルエンザ)

pig02.png メキシコに端を発した豚インフルエンザ(H1N1)のヒト-ヒト感染は世界的な広がりを見せ、ついに厚生労働省は新型インフルエンザ発生宣言を出しました。

 H1N1のA型インフルエンザは人間ではソ連型インフルエンザとして知られていますが、豚インフルエンザのH1N1とは遺伝子情報が異なるため、ブタ-ヒト感染はおこりにくいとされていました。ところが今回確認されたH1N1A型インフルエンザはブタ型でもないしヒト型でもない新型の遺伝子情報を持ったH1N1亜型のウイルスで、ブタ-ヒト感染、ヒト-ヒト感染がおこるとされています。現在毎年接種が行われているH1N1に対するワクチンは予防効果がありません。

illust161.png パンデミックが心配されていた鳥インフルエンザ(H1N5)とは全く別の型のウイルスが新型インフルエンザになったわけで、せっかく開発された新型ワクチンも効果がありません。

 現時点では日本での感染者は確認されていませんが、基本的にはA型インフルエンザなので、現在使用されている診断キットで診断は可能だと思われますし、タミフルやリレンザといった抗インフルエンザ薬が有効であるとされていますので、必要以上に恐れることなく、冷静かつ慎重な対応をお願いします。

 ゴールデンウィーク中に海外旅行をなさった方などで、発熱などの風邪症状が見られた場合には、直接医療機関を受診せず、平日の昼間でしたら江戸川保健所(☎03−5661−2475)、夜間休日でしたら東京都福祉保健局「ひまわり」(☎03−5272−0303)に電話をかけて指示を仰いでください。

pig03.png また、一部で報道されているような豚肉の販売自主規制は意味がありません。食用の豚肉から感染する心配はありません。

 アメリカの感染症対策局(CDC)の発表を和訳したブログがありますのでご参照ください。URLは次の通りです。リンクしています。

http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/b60eb34d09d10229a171a400faf59300

 新しい情報が入りましたらこのブログでも随時掲載して参りますので、ガセネタに踊らされることなく冷静に対応してください。
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2008年11月27日

新型インフルエンザワクチン

vac100.jpg 現在接種が行われているインフルエンザワクチンにはA型2種(H1N1H3N2)とB型1種の3タイプのウイルスに対するワクチンが含まれています。すべて在来のインフルエンザに対するワクチンで、新型インフルエンザには全く効果がありません

 新型インフルエンザワクチンということが報道されたり、新型インフルエンザの最有力候補と思われているトリインフルエンザのウイルス構造がH5N1で、基本的にはA型インフルエンザに属することからの誤解と思われますが、ヒトからヒトへ感染する新型インフルエンザはまだ地球上に出現しておらず、したがって効果のあるワクチンも作ることはできないのです。

 また、現在試験的に一部医療関係者に接種されている新型インフルエンザワクチンは、H5N1が新型インフルエンザになるであろうことを想定してH5N1に対して効果を発揮するように作られたもので、もし仮に別の構造のインフルエンザウイルスが新型インフルエンザとしてヒトからヒトへの感染を起こすようになった場合には、このワクチンの効果は全く期待できないものになってしまいます。

 一部報道が「新型インフルエンザワクチン」という言葉で行われたため、誤解が広まってしまったものと思われます。正しくは「プレパンデミックワクチン」といいます。今までのワクチンとは製法が少し異なるためまだ量産体制はできていません。

 繰り返しますが、現在一般的に使用されているインフルエンザワクチンは新型インフルエンザの予防には全く効果がありません
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2008年10月15日

インフルエンザワクチンの保存剤

vac100.jpg インフルエンザワクチンに含まれるチメロサールについては、先週の土曜日に完結編を迎えましたが、その記事に対するコメントで「フェノキシエタノール」という保存剤のことをお知らせいただきました。そこで今日は番外編としてこのフェノキシエタノールについてお話しようと思います。

 フェノキシエタノールというのはグリコールエーテルの一種で、インク・農薬・染料などの溶媒として使われるほか、香水の香りを逃がさないようにする保留剤としてや、殺菌作用(それほど強くない)を利用して化粧品の防腐剤として使用されています。

 医薬品の保存剤としては、海外では15年前から使用されており、日本では5年前からタケダという会社製のDPT(3種混合)・DT(2種混合)・破傷風トキソイドなどに使用され、安全性には問題がないとされています。ちなみに、こども診療所ではこれらの(タケダ製の)ワクチンを使用しています。

 ああそれなのにそれなのに、フェノキシエタノール使用のインフルエンザワクチンが登場していたことを知らなかったのです。いやいや恥じ入るばかりです。反省の意味を込めて現在日本で使われているインフルエンザワクチンのすべてについて確認をしてみました。

 現在日本では4社がインフルエンザワクチンを製造しており、保存剤の有無や包装の形態などで8品目が流通しています。しかし、製造はしていないけれど大きな販売網を持っている大手メーカーが販売だけ担当しているものもあるため市場には14種類のインフルエンザワクチンが出回っています。ややこしいので8品目としてお話を進めます。

 8品目とも、今年はA/ブリスベン/59/2007(H1N1、Aソ連型)、A/ウルグアイ/716/2007(H3N2、A香港型)、B/フロリダ/4/2006(B型)の3種のワクチン株を使用していて同一規格で製造されています。

 保存剤について見てみますと、一切の保存剤を除去したワクチンを製造しているのが、「北研」という会社と「微研」という会社の2社ですが、この2社はチメロサール入りのワクチンも製造しています。

 チメロサール入りのワクチンを一切製造せず、保存剤としてフェノキシエタノールを使用しているのは「化血研」という会社1社だけで、この会社はフェノキシエタノール一本槍で、保存剤フリーというワクチンは製造していません。

 化血研のインフルエンザワクチンに添付されている文書には「一度針を刺したものは、貯法(遮光して、10℃以下に凍結を避けて保存)に従って保存し、当日中に使用する。」と書かれています。これならs北研のように残液を捨てないですみます。当日中であれば何人かのお子さんに接種することが可能になります。

 化血研のこのワクチンは発売が2007年11月(昨シーズン)で、その時点でこども診療所の使用ワクチンはすでに納入された後だったことと、薬品(ワクチンを含む)メーカーと薬品販売(卸し)会社との間には、自動車ほどではないにしても緩やかな系列というのがあって、化血研の情報はこども診療所(北研のワクチンを扱う会社と取引をしている)に入りにくかったことなどで、2008/2009の今シーズン、フェノキシエタノール添加のインフルエンザワクチンの入手に向かえなかったことが悔やまれます。

 来シーズンこのワクチンを入手するためには前年度実績の全くない別の系列の販売会社に交渉をしなければならないなどの困難はありますが、今から努力をして何とか来年こそはチメロサールフリーのワクチンで予防接種を行いたいと思います。

 今回調べたインフルエンザワクチンの情報を私なりに一覧表にしてみました。PDF画面でご覧になれます。黄色の文字(英数字)をクリックしてご覧ください。20081012.pdf

 ところで、インターネット上では、フェノキシエタノールにはごく軽い麻酔作用があるので注射部位の痛みが軽減すると書かれているサイトがありますが、これについては確認できませんでした。

 また、化粧品にはかなり以前から使われてポピュラーな物質らしく、化粧品の分野のネット上にフェノキシエタノールという名前がたくさん登場します。それらの中には有毒性・有害性を心配する記事も含まれています。これらについてもきちんと確認はできませんでしたが、フェノキシエタノールを製造している会社のホームページで見つけたのは、フェノキシエタノールに適用される法律のことでした。

 それによりますと、消防法では危険物第4類第3石油類 非水溶性液体という扱い、海洋汚染防止法では有害液体物質(D類)という扱いでした。その他に特定廃棄物輸出入規制法(バーゼル法)・外国為替及び外国貿易法も適用されるようです。

 これを見る限りでは完璧に安全な物質ではなさそうですが、そんなことを言い出すと、今の世の中何を信じて生きていいのやらわからなくなってしまいますから、ワクチンに含まれる程度の量では安全性に問題はないと信じることにしましょう。
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2008年10月11日

インフルエンザワクチンとチメロサール - シーズン4 -

vac100.jpg インフルエンザワクチンに含まれるチメロサールについて様々な角度から見てきましたが、いよいよ今回で最終回です。

 今回は「チメロサールは入っていないほうがいいと言いながら、こども診療所ではなぜチメロサール入りのワクチンを使うのか?」、この矛盾に満ちた現実の謎に迫ります。

 こども診療所でチメロサール無添加のワクチン使うことを阻害している、あるいはためらっている要因は主に3つあります。一つはコストの問題、一つは供給の問題、そしてもう一つはワクチン汚染の問題です。それらを一つずつ説明して参ります。

《無添加ワクチンはコスト高?》
 すべてのワクチンは無菌状態の清潔な製造過程の中で作られます。しかしチメロサール無添加ワクチンを作るにはもっと高度な無菌状態が要求されます。それだけの設備投資を必要とするため、チメロサール無添加ワクチンは添加ワクチンよりどうしてもコストが高くなってしまいます。その分は接種を受ける方に負担していただくことになります。

 でも、こども診療所では、チメロサール無添加ワクチンを仮に使ったとしても、このコスト高はほとんど問題ではありません。というのは、こども診療所でのインフルエンザ予防接種の料金をご覧になるとわかるのですが、見ただけではわかりませんから説明いたします。

 こども診療所では、1回目の接種で大人の方もお子さんも4,200円(税込み)をいただきます。小学生以下のお子さんの2回目は1,050円(税込み)頂戴します。たいていの医療機関では1回目も2回目も同じ料金が設定されていると思います。ですから、ワクチンの値段がかなり反映されていると思われてしまうのではないでしょうか?

 こども診療所の考え方は、インフルエンザに対する抗体(免疫)を完成するのに4,200円いただきますという考え方です。接種当日の体調や今までの接種歴などを診察して接種可能であるという診断を下す技術料とワクチン代を含めて安全かつ確実にしかもなるべく痛みを少なく注射する技術料(保険診療でいえば初診料?)として4,200円いただきますという意味です。2回目の料金はほとんど注射の技術料(再診料?)だけです。もちろん2回目も当日の診察は行いますが、1回目を無事接種できたお子さんはよほどのことがなければ安全に接種できますので、体調だけを診察すればいいことになります。

 ですから、チメロサール無添加ワクチンのコストが高くても、こども診療所での接種料金は変わりません。無添加ワクチン使うならですが、現実には使っていません。

《ワクチンが手に入らない!》
 何年か前に、ワクチン製造量の絶対的不足と大手病院による買い占めなどで、インフルエンザワクチンが市場から姿を消してしまったことがありました。その後厚生労働省の指導でメーカーが製造量を増やしたことと、同じく厚生労働省が薬品販売会社に対して一度に大量のワクチンを販売しないよう指導したことなどがあって、ワクチンの供給はかなり安定したのですが、この年以来薬品販売会社は前年の実績程度のワクチンしか販売してくれなくなってしまいました。

 こども診療所ではチメロサールの入ったワクチンについてはかなり以前から実績があったので、十分な量を購入できシーズン途中でワクチンが不足することはないのですが(多分)、無添加ワクチンについては実績がなく、しかも製造量そのものが少ないため、すべてのワクチンを無添加に替えることができません。

 場合によっては1回目は無添加だったけれど2回目はチメロサール入りのワクチンを接種しなければならないという事態になりかねないのです。「1回だけでも無添加だったのだからいいじゃないか」とは言えません。日本で製造されるインフルエンザワクチンの大多数がチメロサール無添加にならなければ胸を張って「こども診療所ではチメロサール無添加のワクチンを使っています」とは言えない現実があるのです。

《ワクチンを捨てる?!》
 もう一つの阻害要因は、インフルエンザワクチンが一人分の接種量になっていないということです。

 チメロサールの入ったワクチンは1本のビン(バイアルといいます)に1mlのワクチンが入っています。大人の方の2人分の接種量です。注射をする場合にはこのバイアルに2回針を刺して中のワクチンを注射器に吸い出すことになります。チメロサールが入っているので汚染の心配はありません。1歳未満のお子さんだと10回針を刺すことになりますが、1日に予防接種を受けるお子さんが全員1歳未満ということは絶対といっていいほどありませんから、1本のバイアルに針を刺す回数はせいぜい5回です。それでも1〜2日以内に使い切れば汚染の心配はありません。もちろん清潔に保つことを十分注意してのことです。

 チメロサール無添加のワクチンだとそうはいきません。チメロサール無添加のワクチンは1本0.5mlのバイアルになっています。大人の方なら1人分で使いきりです。しかしお子さんだと2〜3人分の量になってしまいます。ワクチンの添付文書には「1回使用したら残液は廃棄すること」と明記されています。6歳以上のお子さんに注射をしたら(1回0.3ml)、1歳から5歳のお子さんの1人分(0.2ml)を捨てなさいということです。もっと極端なことをいうと、1歳未満のお子さんに注射をしたら(1回0.1ml)、1歳から5歳までのお子さんの2人分(0.2ml×2=0.4ml)を捨てなさいということでもあるのです。チメロサールが入っていないのですから当然のことです。

 この廃棄分のワクチンを料金に上乗せしている医療機関もありますが、接種料金はとても高くつきます。こども診療所のような考え方だったら料金の上乗せはありません。

 値段の問題はともかく、チメロサール入りのワクチンを含めても適正供給を厚生労働省が指導するような品薄ワクチン、しかももっと少ない無添加ワクチンを惜しげもなく捨ててしまっていいものでしょうか?

 「お子さんの安全な予防接種のためにはしかたがない、あるいは当然だ」という考えももちろんあるでしょう。でも、できるだけ多くの方が免疫を持ってこそインフルエンザの大流行を防ぐことができるということに重きを置けば、やはり「捨てるなんてことはできない」という気持ちになってしまいます。

 願わくばワクチン製造メーカーが1バイアルにつき0.1ml入りと0.2ml入りと0.3ml入りの3種類のチメロサール無添加ワクチンを作ってほしいところですが、コストはさらに高くなるでしょうし、メーカーとしてもそれだけの設備投資をするかどうかは疑問です。しかし将来的にはそのような方向(すべての年齢層で1バイアル1人分)に進むべきだと思いますし、厚生労働省も安定供給にばかり力を入れるのではなく、メーカーに対しても強く方向性を打ち出すべきだと思います。

 ただ、現在の接種量は、年齢によって細かく分かれすぎている(現在4段階)という指摘が以前からあって、これを0.2mlまたは0.3mlと0.5mlの2段階に減らすべきだという検討会が開かれたことがあります。この検討会はいつの間にか立ち消えになってしまったのですが、是非とも再開してほしいと思います。そうすればワクチン製造メーカーも多少は「1バイアル1人分」の方向に動くのではないかと期待しています。

 以上のようなことと、前回までにお話ししたチメロサールの有害性と安全性を私なりに熟考して、こども診療所では今年もチメロサール入りのワクチンを使うことに決めたのです。どうしても無添加がいいと思われる方は申し訳ありませんが、無添加ワクチンを十分に用意してある医療機関で接種をお受けいただくようお願いします。

 ただ気になるのは、「うちでは清潔に十二分注意しているから2〜3回の針刺しは問題ない」として無添加ワクチンを接種している医療機関もあると聞きます。無添加ワクチンを接種なさるときには「1バイアル1人分」をきちんと守っているかどうか、しっかりと確認なさることをお勧めします。

 緊急集中連載としてお送りした「インフルエンザワクチンとチメロサール」についての医学講座シリーズはこれで終わりです。最終的にはそれぞれの保護者の方がお決めになることですが、その判断の材料としてこの医学講座が少しでもお役に立てば幸いです。

 あ、それから、チメロサール入りでよろしければ、今シーズンのインフルエンザ予防接種の予約は10月1日から始まっています。10月14日から接種を始めます。詳しくはこども診療所公式ホームページ「トピックス」をご覧ください。
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2008年10月10日

インフルエンザワクチンとチメロサール - シーズン3 -

vac100.jpg 今回はチメロサールを少し離れて、日本人が魚介類からどの程度のメチル水銀を摂取しているかを考えてみます。

 平成16年に発表されたとても大規模な調査の結果で、国内では厚生労働省・水産庁・地方自治体・国立健康栄養研究所が参加し、国産魚介類約450種についてメチル水銀の含有量が示されています。また海外の資料も添付されていて、アメリカ・イギリス・EUから約160種の魚介類のメチル水銀含有量が報告されています。

 国立健康栄養研究所の調査は、上記の調査で含有量が高いと判断され、しかも日本人にとってとても馴染みの深いマグロを、日本人はどれぐらい食べているかという内容です。
 
 結果だけをかいつまんでお話しますと、本マグロ1gの中にはメチル水銀が平均で0.000542mg(約0.0005mg)含まれていることがわかりました。スーパーやコンビニなどで市販されているマグロの刺身は1切れ平均12.9g(約13g)、にぎり寿司(マグロ)の1切れは16.3g(約16g)、切り身は1切れ平均約80gであることがわかりました。一方ツナのほうはどうかといいますと、ツナサラダ1人前には平均20.4gのツナが含まれており、ツナサンド三角形のもの1個には平均23.6g、ツナ入りおにぎり1個にはには平均5.4gのツナが含まれていることがわかりました。

 一方一食分の食事でのマグロの摂取量はというと、刺身・にぎち寿司・サラダ・サンドイッチ・おにぎりの場合、マグロやツナ1種類だけを食べることは少ないので、それほど量は増えませんが、鉄火丼の場合にはマグロの刺身だけになりますので、1回の食事で平均100.1gのマグロを食べることになるそうです。ちなみに鉄火丼一食に含まれるメチル水銀の量は0.05mgということになりますので、体重50kgの成人の方は一度鉄火丼を食べたあとの10日間は、メチル水銀をちょっとでも摂取するとアメリカFPAの安全基準0.0001mg/kg体重/日を超えてしまうということになります。

 それではここで見方を変えて、マグロの刺身1切れにどれだけのメチル水銀が含まれているか見てみましょう。

 0.000542×12.9で計算しますが、省略して0.0005×13としますと、マグロの刺身1切れには約0.0065mgのメチル水銀が含まれていることになります。体重10kgのお子さんがマグロの刺身1切れを食べたあと約1週間は、メチル水銀をちょっとでも摂取するとアメリカFPAの安全基準0.0001mg/kg体重/日を超えてしまうということになります。チメロサール入りのインフルエンザワクチンなんかとんでもないということになります。

 ところで、こども診療所で使うインフルエンザワクチンにどれだけのチメロサールが入っているか覚えていますか?大人の方の1回接種量に0.0025mgでしたね。1歳未満のお子さんだと1回接種量につき0.0005mg、1歳以上6歳未満のお子さんだと1回接種量につき0.001mg、6歳以上13歳未満のお子さんだと1回接種量につき0.0015mg、13歳以上のお子さんは成人量と同じでしたね。

 ただしこれはチメロサールの量で、エチル水銀はこの約半分で、エチル水銀メチル水銀より排泄が早い(生物学的半減期が約1/10短い)という話も覚えてますか?そして、エチル水銀の有害量についてはまだわかっていないので、その辺がわかっているメチル水銀の有害量と同じと考えているということでしたね。

 ここでまた計算をすると頭がこんがらがってしまいますから見方を変えてみましょう。

 マグロの刺身1切れには0.0065mgのメチル水銀が含まれます。そしてたとえば5歳のお子さんが年2回のインフルエンザ予防接種で1年間に体内に取り込むチメロサールの量は0.002mg、メチル水銀(本当はエチル水銀)に換算すると0.001mg。アリャリャexclamation&questionマグロの刺身2切れ(メチル水銀0.013mg)を食べると、なんと13年分のインフルエンザ予防接種を受けたのと同じメチル水銀(本当はエチル水銀)を取り込むことになるんですね。

 「だからワクチンにチメロサールが入っていてもいいんだ」なんていうつもりはありません。マグロの場合は自然界で生存している限り望んでもいないのに体内に蓄積してしまうメチル水銀、ワクチンのチメロサールは取り除こうと思えば取り除けるエチル水銀なんですから、意味合いは全く違います。

 どうしても食事から体内に入ってしまうメチル水銀に関しては、ただやみくもに食べないようにしてしまって栄養が偏らないように、どの国でも、「マグロの切り身だったら1週間に1切れ以上食べないように」というような形で、摂取過剰にならないように警告を出しています。日本もそうです。

 ここで私が言いたかったのは、繰り返しますが、「だからワクチンにチメロサールが入っていてもいいんだ」ということではなく、「チメロサールに含まれるエチル水銀は魚に含まれるメチル水銀より遙かに少ないし、有機水銀には許容量というのがあるのだから、その範囲内におさまるような予防接種の受け方は可能だ」ということです。

 もちろん取り除けるチメロサールは取り除いた方が絶対安心・安全だという考えも持っています。それなのになぜこども診療所ではチメロサール入りのインフルエンザワクチンを使い続けるのかという矛盾に満ちた現実については次回の掲載をお待ちください。
 
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2008年10月08日

インフルエンザワクチンとチメロサール - シーズン2 -

clinic.jpg 月曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを表す言葉には「月」(ニクヅキ)のつく漢字が多いから。
 
 と、つい一昨日掲載したばかりですが、前にも言ったようにシーズンがシーズンですからのんびりと週に1回の掲載では間に合わなくなる恐れがあります。そこで原稿ができ次第掲載する短期集中連載の形をとることにしました。

 前回はあまりに長くなってしまったので書きませんでしたが、ワクチンにチメロサールを添加するようになったのは、オーストリアで起こった不幸な事件がきっかけです。

 1928年1月にオーストラリアでジフテリアの予防接種の注射薬に病原体が混入して注射を受けた多数のこどもが死亡する事件が起こりました。注射薬は10mlの薬液がゴムでキャップされたビンに入ったものでした。このビンから多数のこどもに分けて接種されました。1月17日から24日にかけて接種した21人には悪影響はありませんでした。27日にさらに21人のこどもに接種したところこの21人の中から多数の死者が出ました。王立委員会がこの事件の調査にあたりました。ゴムでキャップされたビンから何回も薬液を採るうちに薬液がブドウ球菌で汚染し、このブドウ球菌で汚染された薬液を注射されたことにより死者が出たと考えられました。王立委員会は「細菌の増殖を抑えるのに十分な殺菌剤を含むものでなければ、細菌が増殖可能な生物製剤は多人数用の容器に入った製品としてはいけない」という勧告を出しました。

 そして、ワクチンを細菌汚染から守るためにチメロサールが加えられるようになり、さらにそのチメロサールに疑問が投げかけられるようになった経緯は前回詳しくお伝えしました。

 また、前々回のプロローグで、チメロサールには蓄積にともなう慢性の毒性の問題と自閉症を引き起こすような急性あるいは亜急性の毒性の問題があると申し上げました。ただ、この自閉症の問題はいくつかの専門機関が科学的に検討した結果「直接の因果関係はない」という結論に達していますので、今後は触れないことにします。もちろん今でもネット上ではこの問題についての議論が続いているようですが、結局のところ体内に入ったチメロサールがどうなるかという問題に集約できそうですので、今回は、チメロサールの体内での動き(蓄積)の問題を考えてみようと思います。

《蓄積=摂取ー排泄》
 蓄積というのは摂取した量が排泄される量を上回るときに生じます。摂取されたものに急性の毒性がなければ、一定期間に摂取された量よりも排泄される量が多ければ蓄積は起こらず、有害な出来事も起こらないのです。表題にした式でいえば、接種<排泄なら蓄積は起こらず、接種>排泄なら蓄積が起こるいということです。

 ではチメロサールには蓄積の問題は起こるのでしょうか?

 この疑問に単純にお答えすることは難しいのですが、議論の対象が水銀であるということから、チメロサールが分解してできるエチル水銀について考えてみましょう。

 エチル水銀の毒性に関してはほんのわずかしか知られていないことはすでにお話ししました。それでエチル水銀によく似たメチル水銀の毒性とエチル水銀の毒性が同じであると仮定して摂取量が論じられていることもお話ししました。ここでもう一度確認していただきたいのは、エチル水銀の量=チメロサールの量ではないということです。エチル水銀の量はチメロサールの量の半分です。

 まずは摂取についてです。世界でもっとも厳しいアメリカのFPAが定めたメチル水銀の許容摂取量は0.0001mg/kg体重/日(0が4つ)です。体重10kgの赤ちゃんだったら、0.001mg(0が3つ)までだったら毎日摂取しても問題は起きないというのです。もちろんこの量の中には排泄される量も加味されていますから、表題の式でいえば摂取≦排泄、摂取量が排泄量を上回ることはないということです。

 メチル水銀をそのままエチル水銀に置き換えて、これがチメロサールだったら、と考えれば体重10kgの赤ちゃんは毎日チメロサール0.002mg(0が3つ)までなら許容範囲だということになります。

 ここで排泄の問題を考えてみます。生物の体内に摂取された物質が排泄されるスピードを示すには生物学的半減期(物質の量が半分になるまでの時間)という物差しが使われます。たとえば生物学的半減期が2日の物質であれば摂取した2日後には1/2、4日後には1/4、6日後には1/8,8日後には1/16、10日後には1/32と減っていきます。この物質の体内の残量は30日(1か月)後には1/32,768となってほとんど痕跡も残らないといえる量まで減っていることになります。一方、半減期が倍の4日の物質だと、30日に一番近い32日後でも1/256が残っていて、半減期が倍になっただけで128倍もの量が残ってしまうことになるのです。

 メチル水銀の生物学的半減期が約70日であることは以前から知られていましたが、1999年の自閉症チメロサール犯人説の議論以来、エチル水銀の研究も進められ、エチル水銀の生物学的半減期は7日あるいはそれ以下であることがわかってきました。メチル水銀の約1/10の短い半減期を持っているのです。そして、腸から吸収されエチル水銀は速やかに腎臓に送られ、尿とともに排泄されることもわかってきました。

 ちなみに、メチル水銀を摂取して70日後に残量が1/2になったとき、エチル水銀だったら何分の1になるか半減期7日として計算してみました。結果は1/1,024です。

 この数字で私が何を言いたいかというと、「だからチメロサールは安全だ」ということではありません!現在行われているように、「メチル水銀に置き換えて許容量を見ていけばエチル水銀が体内に蓄積することはあり得ない」ということです。

 これまでの説明でチメロサールの蓄積の問題については合点していただけましたでしょうか?ガッテン・ガッテン。

 では次回は、日本人がメチル水銀をどれぐらい摂取するかについて考えてみます。
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2008年10月06日

インフルエンザワクチンとチメロサール - シーズン1 -

clinic.jpg 月曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを表す言葉には「月」(ニクヅキ)のつく漢字が多いから。

 久々の医学講座です。育児講座はしばらく休講とさせていただきます。

 今回は話題になっているチメロサールとは一体どんなものなのか、そして議論になっている背景はなんなのかについてじっくりと考えてみたいと思います。

thimerosal.gif《チメロサールとは?》
 チメロサールは殺菌作用のある水銀を含む有機化合物(有機水銀)で、チメロサールの重量の約半分(49.55%)を水銀( Hg )の重量が占めます。分子式を右に示します。チメロサールは、エチル水銀とチオサリチル酸とに分解します。エチル水銀(有機水銀)の部分で人間への毒性が心配されています。エチル水銀の量(重量)はチメロサールの約半分になります。

【殺菌作用】 チメロサールの殺菌作用は昔から知られていて、1930年代から種々の薬剤に保存剤として使われてきました。薬剤に病原体が混入して薬剤の使用で感染症となってしまうのを防ぐためなどの目的で使われてきたのです。1940年頃からワクチンの保存剤として使われ始めました。チメロサールは、生きているウイルスや菌が入っている生ワクチンでは使われませんが、死んだ菌などが入っている不活化ワクチンでは保存剤として使われるようになりました。しかし、チメロサールが添加されていても細菌でワクチンが汚染することは少ないながらもあります。チメロサールが保存剤として添加された3種混合ワクチンが入ったビンがA群連鎖球菌で汚染して接種された人たちに感染(膿瘍)が起こった事件が報告されています。多人数用の大きなビンに入ったワクチンは、何回も針で刺すことなどにより一度病原体で汚染してしまうと、接種された人に感染症を起こすことにもなりかねません。

【毒性】 微量のチメロサールエチル水銀による毒性については、過敏症を起こすことがある以外よくわかっていません。ただ、同じく有機水銀であり、化学構造も近いメチル水銀と近いと思われます。そこで、人が微量の物質を摂取する場合の安全基準については、メチル水銀の基準がチメロサールエチル水銀の基準にも使われています。しかし、この安全基準は種々の機関から出されていて基準値が統一されているわけではありません。水銀重量として基準値で一番低いのがアメリカ合衆国のEPAで0.0007mg/kg体重/週(0.0001mg/kg体重/日)です。EPA の基準値は、RfD( Reference dose:参照用量)と呼ばれます。一生の間、人の集団が毎日暴露を受けても有害な影響のリスクがないと思われる推定用量です。一日あたり・人の体重あたりの用量で示します。

【自閉症とチメロサール】 近年、アメリカ合衆国では自閉症の発生が増えていると言われています。アメリカ合衆国における自閉症の増加を水銀と関連づけて説明しようとしたのがベルナールらの仮説です。 ベルナールらはこの十数年の間にアメリカ合衆国では乳幼児が接種すべきワクチンの種類や本数が増え、また、より月齢が低い段階で接種を受けるようになってきていること、またその中にはチメロサールが添加されているワクチンもあり、1999年の段階では乳児期のうちに定期の予防接種を受けることでアメリカ合衆国のEPAの基準を超える水銀の暴露を受ける可能性があることを指摘しています。さらに、自閉症の症状と水銀中毒の症状の類似性を指摘し、水銀中毒の結果として自閉症になると考えました。そして、この十数年の間にアメリカ合衆国では乳幼児に対する予防接種による水銀の暴露が増加することで自閉症となる者が増えていると考えました。また、重金属を体から排除する働きのある酵素に欠陥があるというような、遺伝的に水銀の暴露に弱く自閉症となりやすい人たちがいると考えました。

【ワクチンとチメロサール】 ワクチンにチメロサールを添加することは先に【殺菌作用】のところで触れましたが、ベルナールらの仮説はアメリカ合衆国においてワクチン中のチメロサールの安全性に関して疑問を投げかけることになりました。アメリカ合衆国におけるこの疑問に対する答えが、米国科学アカデミーの医学協議会の2001年10月の勧告と2004年5月の結論です。
 米国科学アカデミーの医学協議会は予防接種安全性検討委員会で「チメロサールを含むワクチンと神経発達障害と」について検討し、2001年10月におおよそ次のような結論を示しました。「チメロサールを含むワクチンの接種を受けることと神経発達障害とが関係しているとの仮説は立証されてはいないが、生物学的にはもっともらしく思われる。また、チメロサールを含むワクチンの接種を受けることと自閉症・注意欠陥多動性障害・言語発達障害などの神経発達障害との間の因果関係については、肯定するにも否定するにも十分な証拠がない。」
 米国科学アカデミーの医学協議会は予防接種安全性検討委員会で、2001年の勧告以来「チメロサールを含むワクチンと自閉症と」について検討し、2004年5月におおよそ次のような結論を示しました。「チメロサールを含むワクチンの接種を受けることと自閉症との間の因果関係については、否認することが根拠によって支持される。」(日本においても同様の声明が2004年6月に日本小児神経学会より示されています)
 以上のような経過を踏まえ、米国の医学協議会の予防接種安全性検討委員会はチメロサールを含まないワクチンの使用を勧告しました。
 アメリカ合衆国の中でチメロサールをワクチンにできるだけ添加しない方向は医学協議会の予防接種安全性検討委員会の勧告以前に、米国小児科アカデミーと合衆国公衆衛生サービスとの1999年7月7日の共同声明で示されました。世界保健機関(WHO)は2000年1月にこの共同声明を支持しています。
 1999年7月8日、つまりアメリカ合衆国での共同声明の翌日には、欧州で欧州医薬品審査庁の許可医薬品委員会が乳幼児のワクチン中のチメロサールについて勧告を出しています。許可医薬品委員会はワクチンからの水銀の曝露の程度では有害な証拠はないけれどもチメロサールを含まないワクチンの使用を早急に進めていくべきだとしました。
 WHOのワクチン安全性委員会は、ワクチン中のチメロサールとこどもの神経発達障害の間の因果関係を示す決定的証拠はないとしました。WHOはワクチンを使用しなかった時のワクチンで予防できる病気による罹患・死亡・合併症といったリスク、あるいはチメロサールをワクチンに添加しない時の多人数用のワクチンが病原体で汚染した場合のワクチンによる感染症のリスクは、いずれもよく知られたリスクであり、両者のリスクはワクチン中のチメロサールによる副作用の可能性のあるリスクよりはるかに大きいと考えられるとしています。世界的規模で進行中の予防接種戦略において、チメロサールを添加したワクチンも用いられている現在のワクチンの使用を即刻中止することなく継続しながら、チメロサールをワクチンにできるだけ添加しない方向をWHOは示しています。
 日本においても、アメリカ合衆国・欧州・WHOと同じく、チメロサールをワクチンにできるだけ添加しない方向にあります。ワクチン中のチメロサールの減量や無添加が見られています。

 本当にじっくりになってしまいましたが、これまでの説明でチメロサールについては合点していただけましたでしょうか?ガッテン・ガッテン。

 これらの基礎知識をもとにして、インフルエンザワクチンに含まれるチメロサールの有毒性について、中立的な立場で考えていきたいと思います。次回をどうぞお楽しみに。
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