
月曜日は医学講座の日。なぜなら人間のからだを表す言葉には「月」(ニクヅキ)のつく漢字が多いから。
今週の「ヤブログ医学講座」は今江戸川区で流行中の溶連菌感染症についてです。溶連菌感染症の溶連菌というのは、
溶血性
連鎖球
菌の色文字部分だけを縮めた略称です。赤血球を破壊する(溶血)性質を持った丸い球状の細菌が鎖のように連なっているところから名付けられました。
溶連菌感染症というのは、本来溶連菌によって人から人へ伝染していく感染症の総称でした。その中には猩紅熱、丹毒、伝染性膿痂疹、あるいは女性の外陰部の感染などがありますが、現在幼稚園・保育園や学校などで「溶連菌感染症」というときには、「猩紅熱」のことを指します。猩紅熱は平成10年までは法定伝染病でこれにかかると強制的に隔離病棟に入院させられていたのですが、猩紅熱が重大な感染症だったのは抗生物質が普及する前の時代のことで、昭和40年代に入ると、抗生物質(特にペニシリン系)を投与すれば
すぐによくなる「普通の風邪」程度の病気になってしまいました。
ところが法定伝染病である以上、猩紅熱と診断したら医者は必ず保健所に届けなければいけないし、患者さんは隔離されなければなりません。そこで、なんとか保健所への届け出なしに治療をしようということで考え出されたのが、「猩紅熱」という言葉は使わないが病気のことをちゃんと表している「溶連菌感染症」という診断なのです。
現在では猩紅熱は法定伝染病から外されていますから、猩紅熱という診断でもよいのですが、猩紅熱自体が昔ほど重症にならなくなってしまって、「猩紅」といえるお子さんがいなくなってしまったのです。ちなみに「猩紅熱」というのは顔やからだがニホンザル(
猩々)の顔のようにマッカッカ(
紅色)になるというところからつけられた病名です。
ちなみに、というより全くの余談ですが、サルの学名をラテン語で表すとmacaca(マカーカです マッカッカではありません)となります。
最初に申し上げたように、「溶連菌感染症」というのはいくつかの病気の総称なので、今一般的に「溶連菌感染症」と呼ばれている旧猩紅熱は、「A群溶血性連鎖球菌性咽頭炎」というのが正式呼称です。でもここまで普及してしまうと今さら「溶連菌感染症」に替わる言葉も難しいでしょうね。
以上は溶連菌感染症という名前に関わるウンチクでした。では、病気そのもののお話に移りましょう。
溶連菌感染症は溶連菌で起こる風邪です。インフルエンザウイルスで起こるからインフルエンザというのと変わりありません。溶連菌が感染者の咳やくしゃみで飛び散り、それを吸い込んで感染します(飛沫感染)。潜伏期は2〜5日です。典型的な例では38〜39度の発熱と共にのどや口の中が炎症をおこして真っ赤になります。その後、赤く細かいそしてたいてい痒い発疹が手足や体にでます(口のまわりにはできないのが特徴です)。舌はイチゴの様になり、唇があれます。嘔吐・腹痛・筋肉痛・関節痛などが見られることもあります。典型的な例ではこのように診察だけで診断可能な場合もありますが、のどを綿棒でこすってその中に溶連菌がいるかどうかを調べる迅速診断キットもあり、15〜20分で結果がわかります。
診断がついたら抗生物質を服用します。抗生物質を服用すると2〜3日で熱が下がり、のどの痛みや発疹などの症状は消えます。まさに抗生物質を投与すれば
すぐによくなる「普通の風邪」程度の病気です。本当に普通の風邪だったら、あと2〜3日抗生物質を続けて、「ハイ、元気になってよかったね」でオシマイです。ところが、もし
溶連菌がわずかでも残っていたりしますと、再発したり合併症を起こしたりしますので、さらに1週間から10日ほど抗生物質の服用を続けます。
合併症はすぐに起こるわけではありませんし、全員に合併症が出るわけでもありませんが、一部のお子さんは発病から2〜3週間たった頃に急性腎炎やリウマチ熱、アレルギー性紫斑病などを起こすことがあります。特にリウマチ熱は心内膜炎という心臓の病気を起こしやすく、他の病気同様症状によっては長期の入院を必要とすることもありますし、その後も長期間の治療や経過観察が必要になります。これらの合併症を防ぐために、元気になったあとの抗生物質がとても重要になります。
決してすぐによくなる「普通の風邪」程度の病気ではないのです。 そこで、
こども診療所では、治療を2段階に分けて説明しています。
第1段階(診断から約3日間):風邪としての治療
+他のお子さんにうつさない治療
第2段階(約1週間) :合併症を起こさないための治療
そして、
第2段階の治療が終わって約3〜4日後に、のどに溶連菌が残っていないかをもう一度チェックし(やらない医者が多い)、心臓の音を聴いて心雑音や不整脈がないことを確認し、尿を調べて腎臓にも問題が起きていないことを確認し、
最終チェックを経て、それでやっと
「めでたし、めでたし」としています。
治療の第1段階では、園や学校をお休みしなければなりません。そして
いつから登園・登校が可能かは地域や医者によって違いますが、
江戸川区では「治療開始1日を過ぎ、全身状態がよくなるまで」はお休みという取り決めができています。
治療の第2段階では最後まできっちりとおクスリを飲むことが重要で、それ以外の
生活はまったく普通にしてかまいません。まったく健康な子がおクスリだけ飲んでいるように見えますが、
合併症を防ぐとても大事な治療ですから、決して勝手に服薬をやめることのないようにして下さい。
溶連菌感染症に関するご質問を募集しています。
こども診療所ホームページのQ&Aコーナーにご質問をお寄せ下さい。回答は一括して来週のこのページに掲載いたします。個々のご質問に対する回答はいたしませんのでご了承下さい。
posted by YABOO!JAPAN at 19:00|
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